デヴィッド・フィンチャー監督の4作目。
この映画はある謎があり、その謎解きに着目しすぎて本当のカラクリに気づかない人も多いようです。ただ、めちゃくちゃ面白い傑作という事には間違いありません。超オススメの1本なので是非ご鑑賞ください!
ブロガーとしてこんな事書いちゃ本来はいけないのですが・・・本記事はどうか鑑賞後に読んでいただきたいです。
※一応、一番下に視聴方法も記載しておいたので、まだ観てない方は読まずに一気に飛んで鑑賞する事をオススメします。
もくじ
作品情報
2008年に英国最大の映画雑誌『エンパイア』が、読者1万人、ハリウッドの映画関係者150人、映画評論家50人を対象に「過去最高の映画」に関するアンケート調査を行い「歴代最高の映画ランキング500(The 500 Greatest Movies of All Time)」を発表した。その結果、『ファイト・クラブ』が10位にランクインした。また、同年に同誌が「最高の映画キャラクター100人(The 100 Greatest Movie Characters)」の調査を行ったところ、1位は『ファイト・クラブ』でブラット・ピットが演じたタイラー・ダーデンだった。(引用:wikipediaより)
と、まあ世界中で大絶賛の本作品ですが、アカデミー賞では音響編集賞しか受賞してないそうで・・・。超面白いのに受賞できなかった理由は以下の通りです。
- スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス
- マトリックス
- サイダーハウスルール
- シックス・センス
- スリーピー・ホロウ
- グリーンマイル
- マルコヴィンチの穴
- インサイダー
- 17歳のカルテ
- アメリカン・ビューティー
というわけで、第72回アカデミー賞は狂おしいほど熾烈な争いだったんですよね。確かにこれだけの巨作がそろえば仕方なかったのかもしれませんが、僕としては大好きなフィンチャー監督に全ての賞を差し上げたいくらい、このファイト・クラブは面白いです。
あらすじ
不眠症に悩みつつも北欧系の家具を買うのが楽しみなある一人の会社員・・・彼の空虚な生活は、謎の男タイラーと出会ってから一変する。自宅が火事になり、焼け出された彼はタイラーの家へ居候することに。ひょんな事から「お互いに殴り合う」というタイマンの喧嘩ファイトでストレスを解消するようになった2人のもとには、いつしか男たちが集うようになり、彼らは秘密組織”ファイト・クラブ”となっていくが、その先にあるものは・・・。
キャスト、スタッフ
監督 – デヴィッド・フィンチャー
脚本 – ジム・ウールス
原作 – チャック・パラニューク
ナレーター/僕 – エドワード・ノートン
タイラー・ダーデン – ブラッド・ピット
マーラ・シンガー – ヘレナ・ボナム=カーター
ロバート・ポールセン(ボブ) – ミート・ローフ
エンジェル・フェイス – ジャレッド・レトアーヴィン – ポール・ディロン
メカニック – ホルト・マッカラニー
リチャード・チェスラー – ザック・グルニエ
デヴィッド・フィンチャーは映画を語る上で絶対に外せない監督の一人です。僕を映画というコンテンツに引きずり込んだ一人がフィンチャーであり、この人のセブンという作品は信じがたい衝撃を受けたのを今でも忘れられません。加えて、一番好きな俳優がエドワード・ノートンですから当時は震えましたね!
ちなみにフィンチャー作品は全てオススメですよ!
- エイリアン3
- セブン
- ゲーム
- ファイト・クラブ
- パニック・ルーム
- ゾディアック
- ベンジャミン・バトン 数奇な人生
- ソーシャル・ネットワーク
- ドラゴン・タトゥーの女
- ゴーン・ガール
独特な雰囲気と妥協を許さないカメラワークで常に完成度の高い作品を世に出してます。クライマックスの見せ方や斬新なクレジットなど、映画史において数々の革命を起こしてきた人と言って過言ではありません。
※ここからはネタバレがあるのでご注意ください。
感想
- デヴィッド・フィンチャーは人をだますのが上手な人
- 尋常ではない作品の完成度と余韻
- エドワード・ノートンの演技力に脱帽
デヴィッド・フィンチャー監督にだまされてみよう!
まずはじめに・・・
僕はいつもフィンチャー作品を見る際に「今度こそだまされないぞ!」と決意して鑑賞する。それくらい人をだますのが好きな監督だ。ただ毎回だまされて感心しているけども・・・。
エドワードノートン演じる主人公は北欧家具とブランド品の服で身を固める一見まともなサラリーマン。だが不眠症で精神的に少しおかしく、性格は真面目系クズの弱くてもろい人間だ。彼は健康なのにがん患者の会合に出て精神の安定を保っていたが、そこにマーラという自分と同じ理由で会合に来る女性が現れる。彼女のせいでまた眠れない日々に悩まされていたある日・・・自宅がガス爆発してしまい何もかもを失ってしまう。そこで飛行機の中で偶然仲良くなったタイラー・ダーデン(ブラッド・ピット)という男の家に転がり込み、一緒に暮らす事になる。イケメンで頭がよく筋肉ムキムキ、絵に描いたような”理想の男“だ。
タイラーは呑みにいった帰り「俺を殴ってくれ」と言い出す。イカれたやつだと感じつつも思いっきり顔面を殴るとタイラーは殴り返してきた。何もかも失った事で途方に暮れていたせいか主人公はこの殴り合いに爽快感を感じ、それからはたまにタイラーと殴り合いをするようになる。それを見ていたギャラリーが日に日に増え、気が付けば「ファイトクラブ」という殴り合いをするサークルみたいなものが誕生する。
と、まあ大体ここまで40分前後、特に何か派手な事が起きるわけではなく淡々と描かれているが、フィンチャー監督はこの淡々と描きながらも観客をのめりこませるのが異常にうまい。今作品においてはエドワード・ノートンのコミカルで且つ、シリアスな演技もあって問題なく楽しめるようになっている。一応この映画ははじめに書いたように一つ謎があるんだけど、その為の布石がこの序盤に散りばめられているよ。
雑なのに巧妙だからセリフとエドワード・ノートンばかり追いかけてると気付かないかもしれないけど、別に気付いても楽しめるから安心してね。
というか・・・この映画の本当に面白いところは、この謎という小手先のテクニックなんかではないんだ。
資本主義へのアンチテーゼ
「人は宣伝文句にあおられて、必要でもない車や服を交わされてる。テレビで”君も明日は億万長者かスーパースター“そんな嘘に俺らは気づいてムカついている」
これはあるシーンでタイラーがファイトクラブのメンバーに言い放ったセリフ。ファイトクラブというのは少し過激とはいえ、男たちが集まって殴り合うという・・・あくまでもサークル活動的な集まりだったのに、気が付けばテロ組織みたいな恐ろしい集団に変貌していたのだ。
- 高級車のバンパーをぶっ叩いて回ったり・・・
- 企業広告のある大看板の文字を変えたり・・・
- コンビニに押し入りバイトしていた学生の子に銃を突きつけ「こんなところで死にたいか?6週間後、ちゃんと勉強してなきゃ殺す」と脅したり・・・。
こうして書くと、シュールで少しイタズラじみた行為に思えるかもしれないけど・・・映像でみたら全然印象が違う。それはそれは恐ろしい犯罪行為なわけで、これこそファイト・クラブの行動指針にもなっている。その指針とは「この世の金持ちどもに一泡ふかせてやろうぜ!」という資本主義へのアンチテーゼだ。
しょうもない毎日を過ごす主人公を淡々と描いた序盤から、一気に危険な香りを充満させたクライムアクション的な中盤。この辺りの緩急はさすがフィンチャーらしい丁寧な構成なんだけど、この監督の面白いところは映画の外にもあってね・・・。実は今作品を作るにあたってフィンチャーは20世紀フォックスから出資させたんだけど・・・その額、なんと約70億円w
フィンチャーは「ばかじゃねーのw」と嘲笑したそうな。世の富裕層を小馬鹿にしたような映画に70億円も出させといて嘲笑って・・・この少しやりすぎてるジョークは、まさにこの映画のタイラー・ダーデンそのものだなーと変に感心しちゃったよ。
ただ・・・この映画の面白いところは、この社会へのメッセージ性でもないんだ。
文句無しのラストシーン
さて話を戻すけど、エドワード・ノートン演じる主人公はどんどん過激になっていくタイラーとメンバーについていけず孤立してしまう。しかもタイラーは勝手にファイトクラブの支部を色々な街で作っており、さらに足取りを調べていくと・・・クレジットカード会社の本社ビルなど12の高層ビルを一斉に爆破するというかなりヤバい計画が進んでいた。なんとか止めようと爆破予定のビルに向かうと、そこにはニヤニヤと笑うタイラーがいた。
ここで筋肉ムキムキのタイラーにボッコボコにされるシーンがあるんだけど、そこらのアクション映画を軽く超えるような”怖さ“がある。もちろん演出が格段に素晴らしいのもあるけど、作中での暴力シーンはエドワード・ノートンとブラピが話し合ってリアリティを出す為に本当に殴ってる箇所もあるんだそうだ・・・。日本だったら間違いなく事務所NGだよねw
恐ろしい殺し合いのような2人の喧嘩もとうとう決着に向かう。爆弾が仕掛けられたビルの中で主人公はタイラーに勝ち、そこにやってきたマーラに最後のセリフ。
「心配しなくていい、これからはすべてよくなる」
その瞬間、あたりのビルが爆発し崩壊していく。それを見つめながら手をつなぐ2人・・・そしてピクシーズの「Where is my mind 」の曲がかかりエンドロール。最高のラストシーンだ!
この曲もまた映画の雰囲気に合っていて、まさに余韻を楽しめるエンドロールとなっていたと思う。
と、まあ一通りざっと感想を書いたけど、観てない人が本記事を読んでも面白さはいまいち伝わらなかったかもしれないね・・・正直、僕自身書いていて、ネタバレ無しでこの映画の面白さを語るの難しすぎだと感じたwただ、おかげで確信できた事もあるよ。
この映画の面白いところは、観なきゃわからないって事だ。
というわけで、ここからは本当にネタバレ全開で書くのでまだ観てない人はどうか読まずに、一番下の視聴方法まで飛んで鑑賞する事をオススメします。
評価、視聴方法
ラストシーンの解釈
まず、この映画の謎・・・
それは主人公が二重人格であるという事ですよね。つまりタイラー・ダーデンはもう一人の人格なわけですが、この謎こそがフィンチャーの罠でもあると言えると思います。ちなみに”主人公”であるエドワード・ノートンには名前がないんですよね。たまにジャックというのが名前と思ってる人がいますが、それは作中で主人公が本から引用して言ってるだけで、しいて言うなら”僕”ですかね。一応エンドロールではナレーターとなってました。
実は映画の冒頭からヒントはそこら中に配置されてますが、かなり雑なんです。それはサブリミナル効果を使ったりセリフだったり・・・と色々ですが、そもそもフィンチャーは本来こんな雑にヒントを出しません。むしろ今作品ではこの雑な感じをボヤかす為に、話の進め方やセリフ回し、カット割りなどが巧妙に構成されています。そして、もちろんですがフィンチャーの手腕だけじゃなく、ブラピとエドワード・ノートンの演技力が素晴らしいからこそ、余計雑な謎はボヤけるようになってますね。
特にエドワード・ノートン、この人の演技は世界一だと思います。本作品でも序盤の精神が病んでる時の雰囲気、タイラーと出会ってからイキりだす仕草、そしてラストシーンでマーラと話す時の優しくも強くなった表情・・・ノートンさんの演技力がなければラストシーンは成立しないと言ってもいいレベル。
と、いうわけで次に、ラストシーンの解釈・・・
最後、主人公は銃で自分の顎を打ち抜くも何とか一命をとりとめてますが、タイラーは頭に穴があいて死んでますよね。これは自殺ではなくて心の中のタイラーを殺しただけで、つまりはタイラーが死んだ映像は心の中から消えた事を表現していると言えます。
で、問題の・・・マーラに言った最後の言葉「心配しなくていい、これからはすべてよくなる」
これは主人公とマーラ、2人は元々”生きてる”と言える人生を送っていませんでしたよね。夢も目標もなく、ざっくり言えばクソみたいな人生だったわけです。しかし主人公は最後タイラーを倒し初めて本当の自分になります。これはエドワード・ノートンの細やかな演技により表現されてますが、タイラーを倒した後の主人公の仕草、話し方、表情にはどことなくブラピが演じたタイラー・ダーデンの雰囲気が入っているんです。そもそもタイラーは自分自身ですからね。
そんな主人公(タイラー)に好意を持つ女性・マーラに対して、男として手をとり安心させる為に言ったのが「心配しなくていい、これからはすべてよくなる」だったわけですが、無残にも2人の目の前でビルは崩壊していってしまう。つまり”生きてる”と言える人生を生きたのは一瞬だけなんです。それが「出会うタイミングが悪かった」という本当の最後のセリフの意味に繋がります。死に際に言うセリフとしてはジョークになるわけですが、どちらかというとタイラーが言いそうな言葉だと思いませんか?
誰かと殴り合って生きている事を実感するのではなく、愛する人と手を繋いで辛い事も一緒に戦いながら乗り越えて歩んでいく事・・・それこそが本来の人生というわけです。つまりファイト・クラブとは人生の比喩であり、信じがたい事にフィンチャーが描いたものは暴力ではなく愛だったと言えます。
どうでしょう?二重人格という雑な謎に翻弄されて、しっかりとクライムバイオレンス映画だと思い込みませんでしたか?
総合レビューサイトでも「かなり序盤で気付いたから楽しめなかった・・・」というような人もチラホラいましたが、そもそもフィンチャーはあんな雑な仕掛けだけで勝負してきた事なんて過去に1度もありません。身近にそういう感想を言う人がいたら、どうかもう1度鑑賞する事をオススメしてあげてください。
デヴィッド・フィンチャーという人は本当に素晴らしい映画監督なのです。それが少しでも伝わればいいなあ・・・
「ファイト・クラブ」の視聴方法
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同監督作品ならセブンもヤバイですよ!
では、良き映画の時間をお過ごしください。