梁石日(ヤン・ソギル)が実父をモデルに描いた小説を崔洋一監督が映画化しました。
大阪にあった朝鮮人長屋を舞台に、戦時中~戦後を生きたある在日朝鮮人の壮絶な生涯を描いています。過激な暴力やレイプ描写、グロい動物の屠殺シーンなんかも出てくるので、苦手な人は観ない方がいいかもしれません。ただ1本の映画としての完成度は高いですし、特に主人公・金俊平を演じたビートたけし(北野武)の怪演は一見の価値ありですよ!
本記事はあらすじ、スタッフ・キャスト情報の他に、感想や視聴方法を記載しています。
[ジャンル]ノンフィクション、ヒューマンドラマ[作品時間]144分
[公開日]2004年11月6日
もくじ
作品情報
- 最優秀監督賞 – 崔洋一
- 最優秀主演女優賞 – 鈴木京香
- 最優秀助演男優賞 – オダギリジョー
- 優秀作品賞
- 優秀脚本賞 – 鄭義信、崔洋一
- 優秀助演女優賞 – 田畑智子
- 優秀音楽賞 – 岩代太郎
- 優秀撮影賞 – 浜田毅
- 優秀照明賞 – 高屋齋
- 優秀美術賞 – 磯見俊裕
- 優秀録音賞 – 武進、小野寺修
- 優秀編集賞 – 奥原好幸
主演男優賞以外全てに絡んでくるという異常事態・・・つい俳優陣の素晴らしい演技が目がいきがちですが、衣装やセットなどを含めた美術のクオリティも尋常ではありません。
あらすじ
1923年・・・金俊平は日本で一旗揚げる事を夢見て済州島から日本へと渡り、大阪の朝鮮人長屋で家を持つ。李英姫と結婚し子供も産まれ、開業した蒲鉾工場も繁盛していくが、あまりにも傍若無人で粗暴な俊平は、家族やまわりの人間から恐れられていた。その狂暴性から化け物とまで言われた男が行き着く先とは一体・・・?
スタッフ・キャスト
原作 – 梁石日「血と骨」
監督 – 崔洋一
脚本 – 鄭義信、崔洋一
音楽 – 岩代太郎
金俊平 – ビートたけし
(子供時代 – 伊藤淳史)
李英姫 – 鈴木京香
金正雄 – 新井浩文
金花子 – 田畑智子
朴武 – オダギリジョー
山梨清子 – 中村優子
鳥谷定子 – 濱田マリ
鳥谷ゆき子 – 平岩紙
高信義 – 松重豊
朴希範 – 寺島進
張賛明 – 柏原収史
元山吉男 – 北村一輝
鄭烈 – 眞島秀和
酒屋の主人 – トミーズ雅
趙永生 – 國村隼
金成貴 – 塩見三省
全員素晴らしかったんですが、個人的にはビートたけしと中村優子の2人が最高でしたね。観るのも辛くなってくるようなおぞましい演技でした。
※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。
感想・評価
- 化け物と呼ばれた男の残念な人生
- 嫌いになるレベルの怪演・北野武
- 誰も共感したくならない映画
化け物と呼ばれた男に愛はあったのか?
今作品はただただ主人公である金俊平の生涯をなぞった人生譚となっている。
この金俊平という男、凶暴につき・・・どころではない。女とみれば誰でも構わず犯すし、えげつない暴力と恫喝で人を支配してこき使うわ、自殺に追い込むわと・・・やりたい放題だ。でも俊平はサイコパスを超えた独善的な男の為、罪悪感だとか後悔なんて感情はこれっぽっちもない。結果、家族を含め関わった誰からも恐れられ、恨まれ、そして忌み嫌われてしまう。本当にこんな人間がいたのかよ!
むしろ存在しないで欲しいと願う程のクソ野郎・・・それが金俊平という主人公だ。
そんなクズでも不器用な家族への愛情は持ってたみたいなストーリー?いやいや、そんな生易しいものは一切ない。今作品に少しでもそういう映画的な要素があったらどんなに良かっただろう・・・冗談抜きでこの映画は化け物と呼ばれた男・金俊平の人生をただ写実しているだけなのだ。
「でも、中盤に子供が産まれて嬉しそうにしてたじゃん。」
していたね。確かに金俊平は嬉しかったのだろう。でもそれは普遍的な家族愛からくる嬉しさではなくて、呆れる事にこの男は自身の人生に利用できる駒が1つ増えたと喜んでいるのだ。穿った見方をしてるわけじゃない。実際に正雄や花子、腹違いの息子であるオダギリジョーが演じた朴武に対しても金俊平は父親らしい事など1つもやっていない。
「でもでも、花子の葬式で「俺の娘はどこや!」と怒ってたじゃん!」
怒ってたね。確かに金俊平はイラついていたのだろう。ただ残念な事に花子の死を悲しんでいたわけではなく、ただ暴力を振るう理由が欲しかっただけ・・・そのどうしようもないクズの心中を唯一察していたからこそ、鈴木京香演じる李英姫は「いっぺん死ねや」と言い放つ。
「いやでも、後半で借金を肩代わりしてくれるって正雄に会いにきたじゃん・・・」
会いにきたね。確かに金俊平は借金を肩代わりするつもりだったのだろう。ちゃんとその後に「ワシの下で働いて働いて・・・借金返せ!」と言ってたからね。あのシーンのラストで呆れ疲れた正雄が放ったため息に、もはや親子の愛なんて微塵も存在しない。
原作者の梁石日は、侮蔑の気持ちを持ってこのドクズを晒し上げたかったんだと思うよ。
原作者・梁石日の描きたかった事とは
こんな奴が本当にいたんですよ~!
クールポコのネタのように僕らは「なぁ~にぃ~!?」と言うのが正解なのだと思うw正雄も花子も、決して金俊平という男をはじめから嫌っていたわけじゃない。確かに粗暴で身勝手だけど、蒲鉾工場で成功したり厳しい状況でも生き抜く人間的な強さには憧れに近い感情を持った時もあったかもしれない。正確には憧れたかったんだろう・・・なんせ腐っても実の父親なんだから。
でもこの歪んだ愛情が、結果おぞましい共依存を産んだ。
尊敬、恐怖、感謝、トラウマ、憧れ、絶望・・・この陰と陽の感情が交差し続けた結果、呆れ果てた正雄は父親をどうにか愛したいという努力さえやめてしまったのだ。それが終盤にある新井浩文が演じた金正雄の「北朝鮮に渡ったそうだ」というまるで他人事のような無関心全開の語りに出ていた。
この映画に救いやカタルシスといった映画的な娯楽性はほぼ無い。しいて言うなら金正雄の最期に「ざまあねえな!」と吐き捨てるくらいなもの・・・それさえも崔洋一監督は容赦なく淡々と描いていた。ごく普通の家族に生まれ育った人にはあまりにも無慈悲に見える絶望のラストかもしれないけど、原作者である梁石日にとってはおぞましい共依存が浄化されたような感覚なんじゃないかと僕は思う。
家族とは身近だからこそ、裏返った時に表面化する負の感情というのは他人への憎悪とは比べ物にならない。親だから、子だから・・・という俗にいう家族愛なんてものは一般論の上でしか成り立たない幻想で、少しでも歯車がずれたらエグいほど重い足かせにしかならないのだろう。今作品に出てくる金俊平以外の人間は、大半がこの化け物から距離を置くようになるけど、唯一最後まで寄り添ってくれた松重豊演じる高信義に、金俊平が感謝してるように見えたかな?残念な事に皆無だったよね。
今作品は、観た人が金俊平にも愛情があったんじゃないかとどうにか模索するけど・・・無いものは無いのだ。そもそもこのストーリーから金俊平という人間に共感してほしい、理解してあげてほしいという想いを感じる?無いんだよ・・・どちらかというと僕には「聞いてくれ!金俊平という男に振り回されて大変だったんだよ」というメッセージを感じる。
原作者・梁石日ないし正雄が、この化け物と呼ばれた父親から受け継いだのは、悲しいけど愛情でも資産でもなく血と骨だけ・・・この虚無を感じさせるようなタイトルで、そんなドクズの父親の人生を小説や映画にして晒し上げたのは、愛情はすっからかんでも憎悪や恨みの感情は多少残っていたのかもしれない。
父親がモデルの小説と言ってるけど、これはほぼノンフィクションなのだろうと感じた。
ビートたけしの演技は必見!
これ程まで嫌悪感を抱くキャラクターを演じたビートたけしは圧巻の一言!
いやもう怪演という言葉さえも軽々敷く感じさせる程だ。日本アカデミー賞で根こそぎピックアップされた今作品で何故主演男優賞にこの男の名前が無いのか全くわからないwビートたけしは北野武名義で名作を何本も世に出した素晴らしい映画監督でもあるし、自身の作品でもヤクザ、チンピラの類は散々演じてきたけど、今作品が過去一怖いまである。
恫喝や歩き方、その佇まいは言うまでもないが、特に目つき・・・はっきり言って今作品のたけしは昭和の銀幕スターを軽く超えるくらいのお芝居だったと思う。関西弁も特に違和感なかったし(関西人からしたら変?)
ちなみに役作りの為に筋トレしまくったらしい。ただ当時、朝鮮半島から出稼ぎにきた労働者で、腹筋を必死に鍛える人間はあまりいなかったんじゃないか?という考えから、ポッコリお腹だけはあえて鍛えなかったそうだ。その結果、確かにどこかで見た事ありそうなリアリティのあるおじさんに仕上がっているw終盤の白髪姿もすごかったなぁ・・・今作品は美術やメイク関係もクオリティが高かったね。鈴木京香なんか前半と後半じゃ同一人物とは思えないくらいだ。
本記事はこき下ろしてるかのように感じた人もいるかもしれないけど、どうか誤解しないで欲しい。確かにドクズの人生譚で娯楽性の高い作品じゃない・・・でも観た人にここまで嫌悪感を感じさせるビートたけしの演技力や、梁石日の呆れと恨みにまみれたストーリーを、極上の映像で仕上げた崔洋一監督に僕は拍手を贈りたい。
あまりにも強烈な1本である事は間違いないよ。
まとめ・視聴方法
在日朝鮮人の映画だからと敬遠してる人達へ
日本では毛嫌う人が多いと思います。
近年は日韓の関係も最悪ですし、北朝鮮に関してはほとんどテロ国家と認識してるレベルですよねwこうした嫌韓感情の上昇とは関係なく、昔から嫌われているのが在日朝鮮人・・・確かに帰化してないのに参政権を求めたり朝鮮学校の無償化を叫んだりと、日本人からしたら印象が悪いのも仕方ないと思います。ちなみに僕は映画ほどではないですけど、歴史も大好きな趣味の1つです。ここで詳しく述べる気はありませんが、歴史を学んでいくうちに在日の経緯や歴史を知った結果、彼らに対して「国へ帰れ!」と簡単に言う気にはなれなくなりました。
ただそんな事はこの際、一切合切忘れてください。
映画という文化は、その時代の世情や社会問題をテーマに描く事も多いですし、それがいき過ぎたプロパガンダ映画なんてものがあるのも否めません。今作品もある在日朝鮮人の一代記みたいなお話ですから、どうしても構えてしまう人が多いでしょうけど、是非1本の映画として触れて欲しいと思います。決して在日マンセーしてるわけでも、日本や日本人を咎めるような内容ではありません。あくまでも1人の化け物とまで呼ばれた男と、その男に振り回された人間達を淡々と描いた面白い映画なんです。
是非、この重くエグいエモーショナルを体感してみてください。観る価値がある作品なのは間違いありません。
「血と骨」の視聴方法
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実在した人間の人生譚でしたら北海道県警の悪事を描いた日本で一番悪い奴らや、ディカプリオが怪演したウルフ・オブ・ウォールストリートもオススメです!どちらも見応えあって、かなり面白いです!
では、良き映画の時間をお過ごしください。