日本では2020年公開。韓国を代表する映画監督ポン・ジュノによる長編7作目となります。
半地下に住むある貧困な家族を中心に、韓国内に広がる格差社会をコミカルに且つ、スリリングに描いたかなり面白い映画です。ただの貧乏家族のヒューマンドラマではなく、スリラー要素もすごく強いので観ていてハラハラする事間違い無し!今作品はポン・ジュノ監督によってネタバレ厳禁と謳われているので、ストーリー中核部分には触れずに感想を書かせてもらいました。
本記事ではあらすじ、キャスト・スタッフ情報の他に、個人的な感想、視聴方法も記載しています。
作品情報
カンヌ国際映画祭のパルム・ドールを筆頭に青龍映画賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞、全米映画批評家協会賞などなど・・・世界中で作品賞や監督賞を受賞し大絶賛の嵐となっております。新作を出す度に賞をかっさらうポン・ジュノ監督作品はどれもオススメできますので是非他もチェックしてみてください!
- ほえる犬は噛まない
- 殺人の追憶
- グエムル-漢江の怪物-
- 母なる証明
- スノーピアサー
- オクジャ/okja[Netflix作品]
- パラサイト 半地下の家族
あらすじ
失業中のキム一家は半地下住宅で貧しい生活を送っていた。ある日、長男ギウが留学に行く友人に頼まれ、豪邸で暮らすIT企業社長のパク・ドンイク一家の家庭教師をする事になる。さらにギウはドンイクの妻ヨンギョから美術教師を探していると聞き、美術大学志望の妹ギジョンを美術教師として紹介する。こうしてキム一家は子供2人が仕事を得たが、更なる計画を進める。果たして貧困から抜け出せるのか・・・?
キャスト、スタッフ
監督 – ポン・ジュノ
脚本 – ポン・ジュノ、ハン・ジンウォン
音楽 – チョン・ジェイル
キム・ギテク – ソン・ガンホ
キム・チョンソク – チャン・ヘジン
キム・ギウ – チェ・ウシク
キム・ギジョン – パク・ソダム
パク・ドンイク – イ・ソンギュン
パク・ヨンギョ – チョ・ヨジョン
パク・ダヘ – チョン・ジソ
パク・ダソン – チョン・ヒョンジュン
ムングァン – イ・ジョンウン
ミニョク – パク・ソジュン
チェ・ウシクの太賀みたいな雰囲気、個人的にかなり好きですね!新感染でも絶品の演技力でした。もちろん他キャストも全員素晴らしかったです!
※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。
感想
- 考えさせられる格差社会
- コメディからスリラーへ
- 感想が二極化するラスト
コミカルに描いた格差社会
いつも綺麗な起承転結で仕上げてくるポン・ジュノ監督・・・
殺人の追憶や母なる証明も素晴らしかったですが、今作品も秀逸なストーリーと展開で、コミカルとシリアスの狭間を華麗に通り抜けていた。前半は韓国の貧困層を絵にかいたようなキム一家の漫画のような日常をコミカルに描き、ずーっとクスクス笑わせてくれる。彼らの日常は貧乏とはいえ決して不幸ではなく・・・いや、正確には不幸を自覚していないおかげか、辛そうではないんだ。
バイトに雇ってほしいとピザ屋の女社長をチンピラのように口説く兄妹や、娘の文書偽造の技術の高さに驚いて「文書偽造学科があれば主席だな」と嬉しそうにする父親ギテクなど、本当にダメな人達で底辺全開なんだけど、どこか愛らしく憎めない。物語はそんな底辺家族の中の長男ギウが裕福に暮らすパク一家に家庭教師として雇われる事から転がり始めるんだけど、底辺のはずのギウが、小綺麗な恰好をして息子ダソン君の描いた素っ頓狂な絵を品評するシーンなんか声出して笑ってしまった。間といい表情といい素晴らしい演技力だったよ。
その後も長男ギウから始まり、妹ギジョン、父親ギテク、さらには母親チョンソクと気が付けば貧乏なキム一家全員が裕福なパク家に雇われる身となるんだけど、変にスピード感を持たせないで、まったりとした底辺あるあるみたいなコメディとして展開していく。
特に大きなフックがあったわけじゃなく、しかもゆっくりと進むストーリーにも関わらずグッと引き込んでくるポン・ジュノ監督の魔法はやはり素晴らしいね。今作品の最大の見どころは、後半から襲ってくるハリケーンのようなスリラー展開なのは間違いない。でもそれは、外堀を丁寧に固めたコメディタッチの前半があってこそ際立ったと思う。
特にすごいのは、このまったりとしたコメディタッチの前半が、何故か観ていて不安になるところだ。
コメディからスリラーへ自然に移行できた理由
大雨が降る真夜中、家族4人は宴を開く・・・。
今作品はこのシーンからスリラーへと変わっていく。正確には冒頭からずーっとスリラー的なハラハラ感は続いていた。それは彼らの住まいである半地下のカビ臭そうな空気感や音楽なんかもあるけど、何よりも家族4人の雰囲気・・・なんというか仕草や表情がどこか下品なのだ。作中ではこれを地下(に住む底辺)の臭いと表現していた。
貧すれば鈍する・・・
こんな言葉があるように、キム一家の4人はいくら外見を小綺麗に見繕っても中身は半地下の住人なわけで、どうしてもこの地下生活の臭いが滲み出てしまう。面白いのは観ているこっちも役者陣の名演技からしっかりそれを読み取れる点・・・その為、彼らキム一家の正体がパク一家にばれてしまうんじゃないか?という緊張感が結構早い段階から敷かれているのだ。僕はこれこそが今作品の最大の仕掛けだと思う。
そのおかげでスリラーへと変貌を遂げる夜の宴シーンは、土砂降りという「これから何か起きる」という明らかな予兆と共に恐ろしいほど温度を下げてくる。コメディタッチの笑える貧乏一家の前半で油断していた観客に、いきなり刃物を首に突き付けた感じ・・・あの背筋の凍らせ方は最高にゾクゾクしたよ。
ポン・ジュノ監督は丁寧に積み重ねてから壊すのが本当に巧いね。緩急がエグいよw
ネタバレありで書きたくなるラスト
今作品はポン・ジュノ監督より強くネタバレをしないで欲しいとお達しがある。
正確には「妹キジョンが美術教師となった以降のネタバレ厳禁」となっているので、当記事も伏せた上で感想を書くけど、1つ言える事があるとすれば・・・観た人達で朝まで語り合いたくなる素晴らしいラストなのは間違いない。
この映画の持つネタバレ厳禁な点というのは、ロジカルな謎解き要素だとか、登場人物が持つ秘密だとか・・・そういう生ぬるいレベルじゃないと僕は思う。よく「あなたはどう思いますか?」といった観客に委ねるラストで十人十色の感想になる映画はあるけど、今作品は明確に結末が描かれている。つまり本来ならある程度同じような感想が並んでもおかしくないんだけど、描いているテーマとポン・ジュノ監督が積んだメッセージの2つが、えげつないほど世情を突き刺しているせいで感想が分かれると僕は思う。
今作品のテーマは格差社会、では監督が積んだメッセージとは?
あるシーンで父ギテクは長男ギウに「最高の計画とは無計画だ」と言う。どんな緻密に計画をたてても人生というのはうまくいかない時が多いから、それなら初めから計画などたてなければ何が起きても問題はない・・・と。この父ギテクの言葉・考え方こそ、現代社会に生きる一般大衆を比喩している。
この父の言葉を受けた上で長男ギウがとった行動・・・それこそが監督の積んだメッセージだと僕は思う。
観てない人は全くわからないだろうけど、間違いなく面白い映画だという事は保証するから、まずは観て欲しいw小難しい事を抜きにしても、かなり上質なコメディ、スリラー、ヒューマンドラマが搭載されたハイブリットなエンタメになってるよ。
かなりオススメ!
評価、視聴方法
ポン・ジュノ映画のすすめ
ポン・ジュノ監督は、もはや韓国におさまらず世界でもTOPランクと言えますが、今作品もさすがパルム・ドールを受賞した傑作ですね!面白すぎますwちなみに映画館で観ましたが満員御礼でした。
この監督はラストが本当にお上手で、独特なポン・ジュノ的余韻は是非1度体感する事をオススメします!カメラワークや緻密な脚本など、全てにおいてクオリティが高い監督ですけど、特にいつも素晴らしいと感じるのはキャスティング・・・どの作品もそうなんですがリアリズムがすごいんですよね。今作品の主役ソン・ガンホも間違いなく名優だしダンディなお方なはずなのに、何故ここまでどこにでもいそうなオジサンの雰囲気が出るんでしょうw
もしポン・ジュノ監督に興味を持ったら、是非とも他作品も手に取ってみてください。個人的にオススメは母なる証明ですが、まずは今作品パラサイトか殺人の追憶あたりから入ると観やすいと思います。
- ほえる犬は噛まない
- 殺人の追憶
- グエムル-漢江の怪物-
- 母なる証明
- スノーピアサー
- オクジャ/okja[Netflix作品]
- パラサイト 半地下の家族
では、良き映画の時間をお過ごしください。