映画「ドクター・スリープ」あらすじ、感想【キューブリックへの復讐】

ドクター・スリープ

2019年公開。ホラー映画の金字塔シャイニング・・・その40年後を描いた正式な続編です。

原作はもちろんスティーヴン・キング先生です。前作はキューブリックの代表的作品の1つとも言える傑作ですが、原作をかなり改変した事でキングはキューブリックに激怒しています。一時期、キング版シャイニング(ドラマ)を作る際にキングのキューブリック叩きは止まったんですが、キューブリックの死後にまた怒って批判を繰り返していましたwにもかかわらず、何故この続編が作られたのか・・・気になりませんか?

本記事ではあらすじ、キャスト・スタッフ情報の他に、個人的な感想、視聴方法も記載しています。

ジャンル:ホラーサスペンス
作品時間:152分

作品情報

原作は2013年に発表され、ブラム・ストーカー賞小説部門を受賞しています。

前作の映画シャイニングは1980年に公開され、その迫力ある映像でキューブリックの名はさらに知名度をあげる結果となりました。印象に残るシーンが多く、オマージュされている作品は列挙できない程の数になります。今作品でも前作のファンは感涙必至の懐かしいシーンや音楽が数多に出てきます。

あらすじ

オーバールック・ホテルの惨劇から40年・・・ダニーは当時のトラウマに苦しみながら自身の能力を隠して生きていた。そんなある日、彼の前に同じくシャイニングの能力を持つ少女アブラが現れる。彼女は能力を悪用し児童を殺しまわるローズ・ザ・ハットの存在、そしてその悪行を止める為にダニーに助けを求めてきた・・・果たしてダニーとアブラは凶悪なローズ・ザ・ハットに勝てるのか?

キャスト、スタッフ

原作 – スティーヴン・キング
監督・脚本 – マイク・フラナガン
音楽 – ザ・ニュートン・ブラザーズ

ダニー(ダン)・トランス – ユアン・マクレガー
アブラ・ストーン – カイリー・カラン

ローズ・ザ・ハット – レベッカ・ファーガソン
クロウ・ダディ – ザーン・マクラーノン
スネークバイト・アンディ – エミリー・アリン・リンド

ビリー・フリーマン – クリフ・カーティス
ディック・ハロラン – カール・ランブリー
ルーシー・ストーン – ジョスリン・ドナヒュー

ジョン・ダルトン医師 – ブルース・グリーンウッド
デイブ・ストーン – ザッカリー・モモー
ブラッドリー・トレバー – ジェイコブ・トレンブレイ

ウェンディ・トランス – アレックス・エッソー
バーテンダー / ジャック・トランス – ヘンリー・トーマス

カイリー・カランは何の映画なのか知らされない中、半年にも及ぶオーディションを勝ち抜き、見事今作品に大抜擢されました。映画出演はこれで2本目らしいですが、絶品の演技力でしたね。

※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。

 

 

感想

  • 引用された時計じかけのオレンジ
  • シャイニングへのアンサームービー
  • 圧巻のオーバールック・ホテル

キングvsキューブリック

今作品はシャイニングの正式な続編である事は間違いない。

予告を観るだけでも大人になったダニーがオーバールック・ホテルに行く事がわかるし、本編も冒頭から前作の不穏な空気を増幅する例の音楽・・・明らかにキューブリックが作ったシャイニングを意識させてきた。

しかし話がしばらく進んでもホテルに行く流れは描かれない。スクリーンに映し出されるのはトラウマに悩み生きるダニーの寂しい姿・・・いつまでも付きまとう悪霊たちに苦しむダニーは、気が付けば父親と同じくアルコール依存症になっていた。ちなみに同じヒゲ面なのに全くジェダイの騎士には見えないユアン・マクレガーの演技も素晴らしかったよ。

「さっさとホテルに行け!」

本来こんな罵倒が飛んでもおかしくない位、前作と関連性のないストーリが展開されていく。でも誰もそんな無粋な事は言わないだろうね。理由はシンプルな話で、前作云々じゃなくこの映画自体のストーリーが面白いのだ。そもそも今作品は一応ダニーが主役だけど、中盤までは同じく特殊能力を持つアブラと、悪役ローズ・ザ・ハット一味が物語を引っ張っていく。この2人はわかりやすいくらい正義と悪で描かれていて、悪であるローズ・ザ・ハットの姿は明らかにある映画のあるキャラクターをモチーフにしているんだ。

時計じかけのオレンジ・・・アレックス

ハットを被りながら「hi!there!」と挨拶するローズ・ザ・ハット・・・なるほどwスティーブン・キングが何故この続編を書いたのか、何故映画化をOKしたのか・・・これで理解ができた。スティーブン・キングは自身の作品であるシャイニングをキューブリックによってめちゃくちゃにされた過去がある。その恨みがまだ残っていたんだねwつまりローズ・ザ・ハットはキューブリックというわけだ。

僕はてっきり40年の時を超えてキングとキューブリックの和解となる映画だと思っていたよ。甘かった、実に甘かったよw

これはスティーブン・キングによるキューブリックへの復讐劇だ!

スティーブン・キングのシャイニング

今作品は実にスティーブン・キングらしい世界観とストーリーだ。

シャイニングという特殊能力・・・これは前作でキューブリックが大幅に端折ったせいで、ちゃんと描かれていなかったけど、今作品ではわかりやすく描いてくれていた。

純粋な子供の頃は誰もが持っている特殊能力・・・しかしネットや薬など現代社会に染まっていくにつれて、その力は弱まっていってしまう為、ほとんどの人は自覚がない。ローズ・ザ・ハット一味は全員その能力を持っていて、彼らは力を持つ子供達を拉致して彼らの生気を食らう事で何百年も生きてきたのだ。その為、田舎町ではたまに子供が行方不明になってしまう・・・。

とある街のちょっと怖い話・・・これこそまさにスティーブン・キングの物語だよね。

ゾクゾクする雰囲気とストーリー、そしてローズ・ザ・ハット一味の不気味さだけでも十分に楽しめるし、ここにアブラという光を放つ正義が対峙する。「おお!アブラとローズ・ザ・ハット!どうなるんだ?これは!」MCUDCさながらの超能力バトル!ちょっとキングの作品にしてはポップに感じるけど、そんな事はどうでもいい!前作?いやもうこれはこれで面白いじゃないか!!

「これが本当のシャイニングだ!」

キングの叫びが作品全体に響き渡るかのように、物語はスティーブン・キングの色で染められていく。でも何かが足りない・・・前作を知ってる人は誰もが同じ思いになるんじゃないだろうか?キングの描くストーリーだけでも全然楽しめてるはずなのに、心のどこかでキューブリックの作り上げたの世界を欲してしまうんだ。

オーバールック・ホテルはまだなのか?と。

最高の恐怖・オーバールック・ホテル

出たああああ!!!

クライマックス、とうとうあのホテルに向かう事になる。この大オチを予告で提示しておいて最後の最後まで引っ張ったのは、ずるいけど素晴らしかった。全身の毛が逆立つかのようなおぞましい雰囲気・・・豪雪の中、あのホテルにダニーとアブラが辿り着いた時点でテンションはMAXまで引っ張り上げられる。

  • ローズ・ザ・ハット=スタンリー・キューブリック
  • ダニー=スティーブン・キング

他の人にはどう映っていたのかわからないけど、僕にはこう見えていた。ホテルに何食わぬ顔で怖がらず入ってきたローズ・ザ・ハット・・・そりゃそうだ、キューブリックが自分で作り上げたんだから。エレベーターのドアから真っ赤な血が大量に流れてこようと関係ない。キューブリックにとってはダニーの父であるジャック・トランスがストレスで狂って嫁と子を襲った場所でしかない。でもスティーブン・キングの原作は違う・・・悪霊だらけの呪われたホテルなんだ。その悪霊によって善良だったジャック・トランスは狂わされてしまう。

40年の時を超えて、本当のオーバールック・ホテルにボコられるローズ・ザ・ハットは笑ったよwスティーブン・キング先生の恨み怒りは僕の想像より遥かに強かったんだね。誤解してほしくないんだけど、今作品は別にこうしたメタな見方をしなくても1本の映画として十分に面白い。ただシャイニングを観た上で、キングとキューブリックの関係性を知ってると、より面白く感じるのは間違いない。

どうしてもキューブリックが許せなかったスティーブン・キングの怨念が詰まった素晴らしいホラー映画だったよ。復讐を遂げて良かったねw

評価

マイク・フラナガン監督は今後も注目すべし!

僕はこの監督の事は知りませんでしたが、ホラー映画をよく撮ってるようですね。

今作品はキングの復讐劇と書きましたが、映画全体に広がる雰囲気音楽、そして何よりも斧で壊されたドアの隙間から覗くシーンなんてキューブリックの作品そのものです。つまりこのマイク・フラナガン監督はどちらの要素も取り入れて間をとったんでしょうね。素晴らしいバランス感覚とセンスです!そして、この映画にGOサインを出したという事はスティーブン・キングの中で、どこかキューブリックの事を認めていたんじゃないかなと思いましたね。

どちらも好きな僕としては和解してもらいたいものです。まだ喧嘩するならあとは天国でやってくださいw

欲を言えばもう1本だけ・・・原作スティーブン・キング、監督スタンリー・キューブリックの映画を観てみたかったですね。天国で準備しておいてほしいものです。そう言いたくなるほどシャイニングは面白かったし、このドクター・スリープも素晴らしかったですよ。

では、良き映画の時間をお過ごしください。