1971年公開。スタンリー・キューブリック監督によるSF三部作と呼ばれている中の1本です。
映画史の中でもかなりの異彩を放つ不朽の名作ですが、この映画が社会に与えた影響は計り知れません。実は2019年公開の傑作ジョーカーのルーツは今作品にあるとも言えます。(後述します。)
よく奇妙奇怪な映画と思われがちですけど、描いている事はそこまで難解ではなくて・・・ただ観る人によって感想がかなり変わるので、オールタイムベストに上げる人もいれば駄作と吐き捨てる人もいるというだけなんです。そしてどんな感想も全て正解であり、そこが今作品の恐ろしい魅力の1つでもあると思います。
本記事ではあらすじ、キャスト・スタッフ情報の他に、個人的な感想、視聴方法も記載しています。
もくじ
作品情報
- 作品賞
- 監督賞 – スタンリー・キューブリック
- 脚色賞 – スタンリー・キューブリック
- 編集賞 – ビル・バトラー
アカデミー賞では4部門にノミネートしました。他にもヒューゴー賞やゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞からヴェネツィア国際映画祭などなど・・・そこら中で評価されていますが、イギリスでは今作品が引き金で浮浪者の老人を殺害した事件が起きて上映中止になったり、アメリカではある州知事の殺人を計画する者が出たりと、当時この映画が社会にもたらした影響は尋常ではありませんでした。
主演のマルコム・マクダウェルにも矛先が向きましたが「知った事か、映画の話だ」と講演で語っておりますw
あらすじ
近未来のロンドン・・・ベートーヴェンをこよなく愛する15歳のアレックス・デラージは学校に行かず、夜の世界で悪友3人と悪の限りを尽くしていた。ある夜、彼らはいつものようにある家に押し入り婦人を撲殺するが、仲間の裏切りによりアレックスのみ警察に逮捕されてしまう。懲役14年を言い渡され刑務所に収監されたアレックスだが、ルドヴィコ療法という新しい更生プログラムの被験者となる事と引き換えに刑期短縮の機会を得るが果たして・・・
キャスト、スタッフ
原作 – アンソニー・バージェス
制作・監督・脚本 – スタンリー・キューブリック
音楽 – ウォルター・カーロス
アレックス – マルコム・マクダウェル
ドルーグメンバー
ディム – ウォーレン・クラーク
ジョージー – ジェームズ・マーカス
ピート – マイケル・ターン
ミスター・フランク – パトリック・マギー
ミセス・アレクサンダー – エイドリアン・コリ
乞食の老人 – ポール・ファレル
ビリー・ボーイ – リチャード・コンノート
デルトイド先生 – オーブリー・モリス
バーンズ看守長 – マイケル・ベイツ
刑務所の牧師 – ゴッドフリー・クイグリー
父親 – フィリップ・ストーン
母親 – シェイラ・レイナー
ジョー – クライヴ・フランシス
ブロドスキー博士 – カール・ドゥーイング
ブラノム博士 – マッジ・ライアン
フレデリック内務大臣 – アンソニー・シャープ
精神科医テーラー – ポーリーン・テイラー
作家のミスター・フランク宅にいたすごい筋肉の人はイギリスの俳優でデヴィッド・プラウズという方で、198cmと高身長でボディビルダーなんかもしていたんですが、実はダース・ベイダーの中の人でございますw
※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。
感想
- 全人類に喧嘩を売った映画
- 許容範囲を超えた性と暴力
- 今観ても新しい音楽と映像
全体主義の否定=人間の否定
この映画はキューブリックが描いた人間のお話だ。
近未来を描いているSFだの、ディストピアだの、全体主義の否定だの・・・小難しい言葉で表現される事が多い映画だけど、ザックリ言えば「人間って面白いよね!」とキューブリックが世界に語り掛けてきた映画だ。公開当時はイギリスで全く理解されず不貞腐れたそうだけどw
人間というのは国があり法律があり、その社会という枠の中で生きているよね。人を殺したり物を盗んだりしたら・・・つまり枠から出ちゃった人は檻の中に入れられて社会から追い出されるでしょ?この映画の主人公アレックスは15歳にしてまさに枠の中で生きられない人間で、夜になると悪友と共にホームレスの老人をリンチしたり、車を盗んだり、強盗に入ってレイプしたりとやりたい放題・・・結局ある夜に押し入ったお金持ちの家で婦人を撲殺し逮捕されてしまう。
ただの不良のガキのお話じゃねーか!って?
確かにwwでもイキった不良が夜な夜な悪い事をするのって、まさに社会の歯車になりたくない!と抗っているわけで、それは全体主義の否定だよね。アレックスは人間社会の象徴であるお金に興味がなく、ただただスリルのある毎日を送りたい、ただただ自分が気持ちの良い事を最優先して生きてる奴なんだ。むかついたら暴力、ヤリたくなったらSEX・・・ただのクズ人間ではあるんだけど、こうしたエゴを抑制しているのが国であり法律であり道徳であり、人間の作った社会なのよね。
抑制された人間達 vs 超自己中のアレックス
つまりスタンリー・キューブリックという監督は1971年にこの映画を通して全人類の胸ぐらを掴み喧嘩を売ったという事だ。
- 何故人を殺してはいけないのか?
- 何故物を盗んではいけないのか?
これらの質問に誰が論理的な回答ができるんだろうか。「当たり前じゃん!悪い事なんだから!」としか答えられないよね。
何故悪い事なの?→法律で決まっているから。
法律は誰が作ったの?→人間
いや、そうじゃない!道徳的な問題だ!本能的にわかる話、人を殺してはいけないなんて法律で決まってなくても当たり前の話じゃないか!
道徳って誰が作ったの?→人間
悔しいけど、胸ぐらを掴まれても何も言い返せないんだ。ただキューブリック監督は「こんな抑制された社会はクソだ!」と言いたいわけじゃない。「こうした穴だらけの社会で生きてる俺ら人間って矛盾だらけだけど超面白くない?」と問いかけてきていると僕は思う。
まさかの監督自身も含めて全人類を小馬鹿にしたという事だ。人間大好きなキューブリック監督が作った人間を否定する映画・・・悪ふざけも大概にしろよ!風刺どころじゃないんだよw
キューブリックさん、この解釈で合ってるだろ??お前本当にイカれてるよな!
何故か品のある性と暴力
この映画は本来描いてはいけない事が沢山出てくる。
それは人間の持つ二面性という矛盾だ。警察が暴力を振るったり、刑務所の看守長が「こいつは変わらん!」と思っていたり、両親が薄っぺらい愛情なのに涙を流したり・・・前述したように全体主義、人間を否定する立場で描かれているはずのアレックスも実は二面性を持っている。夜はやりたい放題だけど、昼は親や先生に服従というか、社会の一員ではいようとしている。決定的なのがラストで、興味がなかったはずのお金に釣られ、政府に協力しちゃうよね。どうしても今作品はアレックス達のレイプやリンチが目立つけど、本当にR指定しなければならない部分はこうした人間の持つエグい矛盾だ。
ただキューブリック監督はちゃんと人間の二面性を描く時は気分の悪い映像に仕上げて、逆にアレックスのエゴが描かれる時はお洒落で痛快にしてくれている。ナンパした女2人と家でSEXしまくるシーンや、逆らった仲間をステッキでぶっ叩き水面に落とすシーン、そして有名な雨に唄えばを口ずさみながらレイプするシーンなんてキューブリックの高次元なセンスが全開だ。
この対比がわかりやすいからこそ、終盤に向かう程、本来クズでムカつくキャラクターのはずのアレックスよりも、まわりの登場人物への嫌悪感が増す作りになっている。作家のお爺さんなんて奥さんをレイプされた可哀そうな被害者なはずなのに、最後まで観るとアレックスよりも狂気がにじみ出ていたよねw
今作品はこうした秀逸な対比をクラシック音楽で表現していたけど、本当にキューブリックは狂気の映像に名曲を掛け合わせて名シーンを作るのが上手すぎる。この監督からすれば数秒の映像で人間の感情をコントロールするなんて朝飯前なんだろうか・・・恐ろしく品のあるセンスを持つ人だと思うよ。
ジョーカーのルーツ?
前述したようにこの映画はホアキン・フェニックス主演の傑作ジョーカーのルーツになっている。
実は公開当時、アメリカのアーサー・ブレマーという男がアラバマ州知事ジョージ・ウォレスの暗殺を図って逮捕された。このブレマーの日記には「時計じかけのオレンジを見てから、ずっとウォレスを殺す事を考えていた」と書いてあったんだ。このブレマーの日記を読んだポール・シュレイダーが書き上げた脚本こそがスコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演のタクシードライバーなのだ。そしてジョーカーはこのタクシードライバーをオマージュして作られている。
ジョーカーも今作品も主人公自身が矛盾を抱えていて、全体主義を否定した作品・・・観ていて(良い意味で)嫌悪感が強い映画だよね。僕はどちらも傑作だと思うけど、賛否両論で根底は人間を否定している映画だからダメだった人の気持ちはわからなくもない。
ただ賛否どちらの感想を抱こうと強い印象が心に残ったのは間違いないんじゃないかな。本当につまらない映画というのは覚えてもいない・・・ただジョーカーもこの時計じかけのオレンジも洗脳のような強いインパクトがある。世の中には数多の商業的な映画があるけど、トラウマのように覚えている作品って何本あるだろうか。
この映画は間違いなく100年後もシネフィルが語り合う1本だよ。
評価、視聴方法
時計じかけのオレンジというタイトルの意味
元々ロンドンで使われていたスラングだそうです。
一見美味しそうなオレンジでも中身が時計じかけ・・・つまり一見感性豊かな人間に見えても、中身は洗脳されて機械のように生きている人間という事です。今作品に出てくるアレックスを含めた全ての人間が社会のルールにのっとった社会で生きてますよね。もっと言えばこの映画を観た全ての人間がそうなんです。
皮肉が過ぎるキューブリックの問いかけは数多の解釈を生みましたが、僕自身も含め全てキューブリックの手のひらで雨に唄えばを口ずさんでるようなものなのですwただキューブリック監督は自身を含めた全ての人間を小馬鹿にしつつも、矛盾を抱えて生きる人間の事が大好きな人なんだと思います。批判も絶賛も全ての解釈が正解であり、その全てが人間の素晴らしい感性の証明という事です。
スターウォーズやMCU、ジブリやドラマの映画版など・・・入口はなんでもいいです。僕は映画にハマった全ての人達に、いつかはスタンリー・キューブリックという監督に触れて欲しいと思っています。こんなに人間を研究し愛した映画監督は他にいません。完全にイカれ野郎ですが、愛すべき映画人です!
是非、他の作品もご覧になってみてください。人生で1度は観て損はない映画ばかりですよ。
スタンリー・キューブリック監督作品一覧↓
- 拳闘試合の日
- 空飛ぶ牧師
- 海の旅人たち
- 恐怖と欲望
- 非情の罠
- 現金に体を張れ
- 突撃
- スパルタカス
- ロリータ
- 博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか
- 2001年宇宙の旅
- 時計じかけのオレンジ
- バリー・リンドン
- シャイニング
- フルメタル・ジャケット
- アイズ ワイド シャット
「時計じかけのオレンジ」の視聴方法
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キューブリック監督にハマれそうなら、2001年宇宙の旅を観てみてください。難解映画ですけど見応え抜群です!あと個人的にはフルメタル・ジャケットもオススメ!ハートマン軍曹は必見ですよw
では、良き映画の時間をお過ごしください。