映画「ジョーカー」あらすじ、感想【気軽に観てはいけない超傑作】

ジョーカー

2019年10月4日、日米同時公開。

監督はベタベタなコメディ映画・ハングオーバーシリーズを手掛けたトッド・フィリップス、主演は俳優一家で故リバー・フェニックスの弟にあたるホアキン・フェニックスです。

第76回ヴェネツィア国際映画祭では見事に金獅子賞を受賞し、映画界では大絶賛の嵐ですが・・・アメリカではプレビュー上映が脅迫により中止になったり、ニューヨークの劇場ではある男が殺人シーンの度に騒ぎ立てた事で、他の観客が避難したような事もあったそうです。

間違いなく2019年の最高傑作と言っても過言ではない今作品ですが、アメコミ映画!バットマンのスピンオフ!といった軽い気持ちで観に行くと、人によっては心をズタズタにされてしまうかもしれませんw

その理由も含め、本記事ではあらすじ、キャスト・スタッフ情報の他に、個人的な感想や作中に使われた音楽を紹介しています。

ジャンル:サスペンスヒューマンドラマ
作品時間:122分

作品情報

今作品のジョーカーとは、そもそもバットマンシリーズに出てくるヴィラン(悪役)で、過去にはジャック・ニコルソンヒース・レジャー、そしてジャレッド・レトが演じてきた映画史に残るカリスマ的キャラクターです。

  • 第76回ヴェネツィア国際映画祭 – 金獅子賞

アメコミ映画で初のオスカーを期待されている今作品・・・コミック映画の格をあげた歴史に残る一作になりそうですね。

ホアキン・フェニックスは以前「アカデミー賞?そんなもんクソだよ」と言い放ったほど賞レースが嫌いな方ですが、それでもザ・マスターという映画で主演男優賞にノミネートされた過去があります。本人は嫌かもしれませんが、今回は受賞するべきレベルの怪演だったと思いますので期待しちゃいますね!

あらすじ

ゴッサム・シティでピエロの派遣業をしているアーサー・フレックス、彼は幼い頃から急に笑いだしてしまうという奇病を患っており、福祉サービスのカウンセリングを受けつつ、認知症の母を介護しながらスタンダップコメディアンを目指していた。ある日、地下鉄内でウェイン産業の社員3人に暴行を受けた事で感情が昂り全員を殺害してしまう。これにより歯車が狂っていったアーサーは自身の中の狂気に少しずつ向き合っていく事になるが・・・

キャスト、スタッフ

監督 – トッド・フィリップス
脚本 – トッド・フィリップス、スコット・シルヴァー

音楽 – ヒドゥル・グドナドッティル

アーサー・フレック/ジョーカー – ホアキン・フェニックス

ソフィー・デュモンド – ザジー・ビーツ
ペニー・フレック – フランセス・コンロイ
トーマス・ウェイン – ブレット・カレン
ブルース・ウェイン – ダンテ・ペレイラ=オルソン

ギャリティ刑事 – ビル・キャンプ
バーク刑事 – シェー・ウィガム
ランドル – グレン・フレシュラー

マレー・フランクリン – ロバート・デ・ニーロ

オマージュしているマーティン・スコセッシ監督のタクシードライバーキング・オブ・コメディの主役だったロバート・デニーロもまた素晴らしかったですよ!個人的にタクシードライバー大好きな1本なので、勝手に感慨深くなってしまいましたw

※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。

 

 

感想

  • ホアキン・フェニックスの恐ろしい演技
  • 憎むべき犯罪者のはずが惹かれてしまう恐怖
  • 結局ジョーカーに振り回された2時間

描いてはいけなかったジョーカーの前日譚

映画史において圧倒的なカリスマ性を誇る悪役・ジョーカー

僕は当初、今作品が発表された時に不安を覚えた。それは、本来このキャラクターの前日譚なんて描くのは野暮だからだ。そもそも全てが謎だったからこそ絶大なカリスマ性を持っていたわけだからね。そんな少し否定的な意識を持って観に行った結果、どうだった?

そんな事を聞く方が野暮だ。名作も名作、素晴らしい映画だったよ。アメコミ作品として~とか、バットマンシリーズのジョーカーとは~といった、どこかクライムアクション的なものを求めていた人にとっては駄作に感じたかもしれない。ただ今作品ではこれまでのジョーカー達とは違うけど、またも魅力的なジョーカーが生まれてしまったのは間違いない。

主人公アーサーは仕事中に街の悪ガキ共から暴行されたり、同僚からだまされたりと、あまりに理不尽な不幸が当たり前のように降り注ぐ日々を過ごしていた。急に笑ってしまう奇病もあってまわりから怖がられたり嫌われたりと、本当にろくな事がない。序盤、バスの中で前の席にいる子供を変顔で笑わせるシーンがある。その後、子供の母親に「かまうな」と怒られてしまうけど、アーサーはこんなえげつない毎日を生きているのに決して人を嫌いになってはいないんだよね・・・むしろ人の事が大好きな良い奴なんだ。家に帰れば弱った母親にも優しく介護し、敬愛するマレー・フランクリンがテレビに出たら子供のような笑顔で見ているような、超がつくほど良い奴。

なんて恐ろしいストーリーなんだ・・・。

貧しくも美しいお話じゃないかと思った?いやいや、忘れてはいけない。これは超凶悪なバットマンの宿敵・ジョーカーになる男の話なのだ。本来は同情、共感なんてしてはいけないアンタッチャブルな人間の核心・・・覗いてはいけない深淵をこれでもかという程しつこく描いてきた事で観客を共依存に陥れてきたのだ。

こんな不器用に笑うアーサーを完璧に演じたホアキン・フェニックスを絶賛しない人はいないんじゃないかと思う。

僕は中盤まで何度も肩を震わせて泣いてしまったよ。

ジョーカーが生まれた瞬間の哀しいカタルシス

ものすごい絶望の日々の中で、アーサーはある信じていた人に裏切られてしまう。

ネタバレをできる限りしたくないので少し伏せて書くけど、アーカム・ステート・ホスピタルという精神病院の階段の踊り場のシーン・・・アーサーはある真実を知った事で、とうとう彼の中のジョーカーが産声をあげてしまう。

前述した通り、冒頭から不幸な美談を嫌と言うほど見せつけられ、アーサーに同情しきっていた僕は目を真っ赤にさせながら「ジョーカー、やっちまえ!」と心の中で叫んでしまった。超極悪な犯罪者だろうが関係ない、これ以上アーサーの哀しい笑顔は見てられなかったんだよね。

そこからジョーカーとして変貌していくアーサーは何とも美しく、そしてかっこよかった。仕事後に疲れ切って階段を登るアーサーとはうって変わって、軽快なステップと共に降りてくるジョーカーの対比はお見事の一言だ。でも尋常ではない妖艶なオーラを放つジョーカーが、刑事達に追われながら混沌とした街に溶け込んでいく姿を見た時にゾッとしてしまう。

やべえ奴が解き放たれてないか・・・?

少しだけ我に返るんだよwなんなんだ、あの一連のシーンは!前半のフランス映画も顔負けの同情話はどこいった!?なんと恐ろしい罠を仕掛けてくれたもんだよ・・・トッド・フィリップス監督にはここでもう脱帽だったね。

これまでに体験した事がない不思議な感覚・・・それはそれは哀しく恐ろしいカタルシスだったよ。

ラストシーンをどう解釈するべきか(ネタバレ注意)

クライマックスはもの凄かった。

既にジョーカーとして覚醒したアーサーは、マレー・フランクリンのテレビショーに出て殺人を告白する事で世の中に認知される。アーサーはただ自身の人生を必至に生きてきただけなのに、気が付けばゴッサム・シティはピエロのマスクをした暴徒により大混乱・・・警察に捕まりパトカーに乗せられながら荒れ狂う街を見てほほ笑むジョーカーは何とも幸せそうだったよ。

なんでこんなやばい奴に同情し共感し、応援までしてしまったんだろうか・・・そんな落胆と同時にジョーカーの持つ恐ろしいカリスマ性には憧れさえ抱いてしまう。

ジョーカーになってなければアーサーは自殺していたかもしれない。加えてジョーカーが生まれた原因はアーサー自身ではなく、大衆の差別意識同調圧力で構成されている醜い社会というのも認めざるを得ない説得力があった。

ああ、なんて哀しいお話なんだ・・・でも面白く素晴らしい映画だったな~なんて余韻に浸ろうとしたところにラストシーンがくる。

警察に捕まったアーサーは精神病院内でカウンセラーと話している。アーサーはタバコを吸いながら「面白いジョークを思いついた」と口にする。カウンセラーは「どんなジョーク?」と聞くが、アーサーは「理解できないさ」と返す。その後、廊下に血の足跡を残しながら精神病院の職員からコミカルに逃げるアーサーの姿・・・それはまるでチャップリンのサイレント映画のような滑稽さがあり、これまでのえげつないストーリーを浄化するような素敵なラストシーンだった。

が、もしこの2時間のお話が全て精神病院内にいるアーサーが思いついた面白いジョークだとしたら・・・?

結局ジョーカーという狂気に満ちた男の背景なんて誰にもわからない・・・謎って事だ。いや、やっぱり知らない方がいいアンタッチャブルな領域だったんだと僕は解釈したよ。

散々振り回してくれてありがとう、最高の2時間だった。

評価

アメコミ初のオスカー受賞なるか?

受賞するべきです。

今作品は間違いなくコミック映画の格をあげました。元々のアメコミ、DCファンには納得いかない映画だったかもしれませんが、1人の男の人生譚として傑作だと思います。ちなみに今作品はかなり賛否がわかれていますが、いまいちと感じた人の中で「これ、ジョーカーである必要性はなかったんじゃないか?」という意見がありました。

僕はジョーカーじゃなきゃだめだったと思います。

その理由は、ジョーカーが恐ろしい奴だと知っている事で色々なシーンの恐怖が増幅する仕掛けになっているからです。例えば電車内でからまれたり、同じマンションに住む黒人女性のソフィーの家でアーサーが座ってるシーンなどですね。もちろん知らなくても十分に楽しめる作品になっているんですが、これから観る方には事前にダークナイトだけでも観ておく事をオススメします。ヒース・レジャーが演じるジョーカーは全く違うキャラクターに感じるかもしれませんが、ジョーカーがどれ程恐ろしいかを知るには一番適していると思うのでwただ・・・今作品は間違いなく名作ですが、あまりにも辛いストーリーである事も否めません。精神的に弱ってる時は観ない方がいいです!

にしてもジョーカー作品は外れないですね・・・やっぱり映画史上最高のキャラクターだと再確認できました!

「ジョーカー」の作中に使われた音楽

今作品では色々な名曲が使われていました!特に印象的な曲と、映画のサウンドトラックを紹介しておきますね。

Jimmy Durante「Smile」

予告編で使われてますが、名曲なのにものすごい不安感が襲ってきますよねw

Gary Glitter「Rock & Roll Part2」

ステップ踏みながらジョーカーが階段を降りてきたシーンです。何とも痺れるかっこよさでした!

Cream「White Room」

パトカーにのって微笑むジョーカー・・・クリームの名曲がかなりテンションをあげたのは間違いありません!

Frank Sinatra「That’s Life」

夢を踏みつけて小躍りする奴らがいる
でも俺はへこたれない

まさに今作品を表現した歌詞ですね・・・こんな曲をラストに流し「それが人生さ」と言われるんですから、皮肉が効いてるどころではなかったです。

その他、作中に使われた公式のオリジナルサウンドトラックはこちら↓

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タランティーノもびっくりの素晴らしい選曲の数々でした。どこをとっても素晴らしいといえるジョーカー、必見だと思いますよ!

では、良き映画の時間をお過ごしください。