2015年公開。井上ひさし先生の東慶寺花だよりを原案とした、魍魎の匣や関ヶ原の原田眞人監督による映画です。
今作品は他の時代劇とは一線を画す飛びぬけた特徴があります。それは江戸弁を筆頭にきめ細やかで上質な方言のセリフ回し!これでもかと言うほど小難しい言葉や言い回しが飛び交うので、セリフが聞き取りにくい、理解しにくいと言う人も少なくありませんが・・・実は理解できなくても良いんです。その理由も書いていきますが、邦画屈指の風情を感じられる作品ですので、是非1度はご覧になってみて欲しいと思います。
本記事ではあらすじ、キャスト・スタッフ情報の他に、個人的な感想、視聴方法も記載しています。
もくじ
作品情報
- 第7回TAMA映画賞
最優秀女優賞 – 樹木希林 - 第28回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞
監督賞 – 原田眞人 - 第39回日本アカデミー賞
優秀主演男優賞 – 大泉洋
優秀助演女優賞 – 満島ひかり - 第70回毎日映画コンクール
脚本賞 – 原田眞人 - 第58回ブルーリボン賞
主演男優賞 – 大泉洋 - 第25回日本映画批評家大賞
助演女優賞 – 満島ひかり
個人的にはどこかで作品賞をとっていてもおかしくない内容だと思うんですが、同年は是枝監督の海街diaryがあったので仕方ないかもしれません。
あらすじ
天保十二年(1841年)・・・妻から夫に離縁を言い渡す事ができなかった当時、鎌倉に幕府公認の駆込み寺・東慶寺があった。戯作者に憧れる医者見習いの信次郎は、江戸を離れ東慶寺との仲介をしていた御用宿・柏屋に居候する事になる。そこにある日、働かずに遊び呆ける夫を持つ鉄練りのじょごと、日本橋の豪商・堀切屋三郎衛門の妾であるお吟が駆け込んでくるが果たして・・・。
キャスト、スタッフ
原案 – 井上ひさし「東慶寺花だより」
監督・脚本 – 原田眞人
音楽 – 富貴晴美
中村信次郎 – 大泉洋
じょご – 戸田恵梨香
お吟 – 満島ひかり
法秀尼 – 陽月華
戸賀崎ゆう – 内山理名
おゆき – 神野三鈴
三代目柏屋源兵衛 – 樹木希林
利平 – 木場勝己
お勝 – キムラ緑子
堀切屋三郎衛門 – 堤真一
重蔵 – 武田真治
鳥居耀蔵 – 北村有起哉
近江屋三八 – 橋本じゅん
石井与八 – 山崎一
風の金兵衛 – 中村嘉葎雄
清拙 – 麿赤兒
曲亭馬琴 – 山崎努
他にもでんでんや堀部圭亮など豪華な顔ぶれで、極上の演技合戦となっていますが、特に満島ひかりは最高でした。それとキムラ緑子もw樹木希林や大泉洋との掛け合いはたまらないものがありましたよ。
※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。
感想
- 終始漂う古き良き日本の風情
- 聞き取れなくても理解できるセリフ回し
- 最高に輝いていた満島ひかり
完璧に作りこまれた世界観
冒頭の大泉洋演じる信次郎の後ろ姿で、いきなり心を掴んできた。
今作品は外国のどんな名監督が撮っても辿り着けない境地を堪能できる。素晴らしくハイレベルな美術、メイクには衝撃を受けたし、そこに情緒あふれる自然音とリアリティたっぷりの言い回し・・・まるで本当に江戸の街にタイムスリップしたかのような感覚になってしまう。特にセリフ回しは江戸弁を筆頭に、他作品ではまず観る事のできない上質な古来の日本語が飛び交う。
すごいのは誰も当時の話し方を知る由もないのにリアルに感じてしまうんだ。
これは趣味趣向や好みによって違うのかもしれないけど、個人的にはなんというか憧れてしまう世界観だった。原田眞人監督はこんな絶品の脚本をどれ程の時間をかけて仕上げたのだろう・・・はっきり言ってこのまま噺家に読ませたら、粋な落語になっちゃうんじゃないかとまで思えるレベルだ。現代人では理解しがたい方言バリバリの言い回しや、まさにマシンガンのような早口は、気を抜いて観ているとほとんど聞き取れない・・・いや、聞き取れたとしても理解できないかもしれない。
にもかかわらず、ストーリーは理解できるし登場人物たちに風情が漂うのは何故だ?
大河ドラマも含め、ほぼ全ての時代劇は現代の日本語で話してくれる。当たり前だ、観ていて理解できなきゃ誰が面白いと思うか。極端な話、全然知らない国の映画があったとして、字幕無しで楽しめるか?という話だ。しかし今作品はそのハードルを軽々と超えている。
どうして理解しがたいレベルのセリフ回しが終始展開するのに、ストーリーが理解できてしまうのか?それは間違いなくハイクオリティな美術や音、ロケーション、そして何よりも登場人物たちのセリフによって完璧に作りこまれた当時の世界観だと僕は思う。
これは世界に自慢できる日本の歴史映画だよ。
粋なキャラクター達による上品なコメディ
こんな独特なコメディ映画は他に無い。
コメディと言っても映画にはシモネタ満載のオバカコメディから社会風刺の効いたブラックコメディ、ガイ・リッチー監督が作るようなスタイリッシュでお洒落なコメディもあるし、伊丹十三監督や三谷幸喜監督のようなドタバタ喜劇なんてのもある。どれも共通しているのは、観客を笑わせてくれる作品という事・・・じゃあ今作品は何なのかというと、当時の人が笑うコメディになっているのだ。例えば序盤に堤真一演じる堀切屋が宴の席で、飲み相手と何やら傾いた言葉を交わす。
飲み相手「一夜流れの徒夢(あだゆめ)も、別れは惜しき明けの鐘~」
堀切屋「炎の中に暮らそうが、貴方を退いて片時も、浮世の日影が見られるか~」
飲み相手「くぅ~ちくしょうめぃ」
これは伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)という歌舞伎の演目の1つで、昔惚れた女の顛末を聞いた時の言葉だそうな・・・訳わかんねえのど真ん中だよねw実は今作品のラストに向けた布石の1つになっているわけだけど、知らなきゃわかるわけない。でも知らなくたって堀切屋が恰好つけてるのはわかるし、お吟の本心を知らない哀れな男にもちゃんと見える。
つまり当時の人が笑うコメディ・・・それを俯瞰で観る事ができる作品というわけだ。
そんな当時を生きた人達のしゃれた言い回しが飛び交う中で、現代人にも理解できる面白い人間模様をしっかりと描いてくれている。理解に苦しむ部分があってもちゃんと笑えるって、冷静に考えてかなりすごい事をやってのけているよ。
こんな上品なコメディは世界でこの映画だけだと思う。
満島ひかりの圧倒的な存在感
満島ひかり・・・少女のような可愛らしさと貴族のような品格を併せ持つ不思議な人だよね。
でも今作品では幽霊役かと思う程の白化粧にお歯黒・・・その上、眉無しときたもんだ。こんな尖ったメイクをしてたら美人に見えないどころか、見様によってはお笑い芸人のコントになっちまうってのに、これがまた不思議なもんで恐ろしくオーラのある極上の美人に仕上がってるんだから参った、参った。
お粗末な江戸弁でお恥ずかしい限りだけど、ただ本当に素晴らしい演技だったよ。特に艶のある声と話し方には惚れ惚れする。もちろん他の役者陣も素晴らしかったけど、満島ひかりはずば抜けた存在感だったと思う。
今作品は男尊女卑が当たり前で、女性に人権など無いに等しい時代を描いている。女性が離婚したい場合は、縁切寺に駆け込んでから2年間も艱難辛苦の生活に耐え抜かないといけない。でも作中に出てくる女性陣はじょご、法秀尼、戸賀崎ゆう、おゆき、お勝、三代目柏屋源兵衛などなど・・・誰もが強く、明るく、何よりも真剣に生きている。中でも満島ひかりが演じるお吟はあまりにもドラマチックなキャラクターだった。個人的には完全に主役を食ってたように思うけど、嫌味の無い上品な食いっぷりでまさに名脇役だったと言いたい。
べったべった、だんだん。
作品のテーマともいえる名セリフをお吟が放ったシーンは何度観ても涙がこぼれてしまうよ。役者陣の素晴らしい演技に最高の脚本、文句なしの美術や音楽にロケーション・・・こんな風情に溢れた上質な時代劇は他に無いね。
原田眞人監督はお見事のど真ん中だ。
評価、視聴方法
観れば観るほど面白くなる
今作品はセリフ回しが難しいので、確かに理解に苦しむ人も多いかもしれません。
ですが、2回目3回目と観直していくと慣れてくるせいかセリフが聞き取れるようになり、細かな部分がより深く理解できるようになると思います。加えて群像劇になっているので、主人公の信次郎とじょご以外の人間関係にも感情移入できるところもまた良い点じゃないでしょうか。
素敵な人生とは・・・?
そう問いかけてくるようなテーマを丁寧に且つ重く深く描きつつも、見応え抜群の信次郎とお勝の面白い掛け合いや、法秀尼や重蔵など味のある様々な登場人物も本当に楽しかったですね。VFXを使いまくったハリウッド的な作品よりも、こうした骨太なヒューマンドラマを軸に置いた作品の方が個人的には好きですし、世界には絶対に作れない日本らしい映画だと思います。
他に類を見ない魅力を持つ邦画なのは間違いないので、是非1度はご堪能ください!
「駆込み女と駆出し男」の視聴方法
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上品に笑える時代劇なら、今作品と比べるとちょっとエンタメ感を強く感じてしまうかもしれませんが、のぼうの城をオススメしますよ!野村萬斎が最高です!
では、良き映画の時間をお過ごしください。