スタンリー・キューブリック監督による冷戦風刺映画です。
2001年宇宙の旅、時計じかけのオレンジと共にキューブリックSF三部作なんて言われています。今作品で描かれる風刺と込められた皮肉は、今観てもキレッキレで存分に楽しめると思います。
正式タイトルは「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか(Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb)」
長いですよねwそもそもDr.Strangeloveというのは登場人物の名前なわけですが、邦題ではDr.(博士)Strange(異常な)love(愛情)となりました。
ちなみにキューブリック監督は原題と全然違うタイトルをつけられるのを極度に嫌がる人だったそうですw
エイガスキー
[作品時間]93分
[公開日]米:1964/1/29|日:1964/10/6
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- どんな映画なのか知りたい!
- 視聴方法を知りたい!
もくじ
作品情報
ロッテントマトでも相当評価が高い作品です。かなりエッヂが効いたものを描いてますが、意外と観やすいコメディになっているという点が評価に繋がった一つの要因だと思います。
受賞歴
- 作品賞 – スタンリー・キューブリック
- 監督賞 – スタンリー・キューブリック
- 主演男優賞 – ピーター・セラーズ
- 脚色賞 – スタンリー・キューブリック、テリー・サザーン、ピーター・ジョージ
- 総合作品賞 – スタンリー・キューブリック[受賞]
- 英国作品賞 – スタンリー・キューブリック[受賞]
- 美術賞(モノクロ) – ケン・アダム[受賞]
- 国連賞[受賞]
- 外国男優賞 – スターリング・ヘイドン
- 英国男優賞 – ピーター・セラーズ
- 脚本賞 – スタンリー・キューブリック
1964年当時の人達は、アメリカとソ連の冷戦を皮肉った今作品をどういう気持ちで観て評価していたのでしょうねw
あらすじ
スタッフ・キャスト
[原作] ピーター・ジョージ「Red Alert(邦題:破滅への二時間)」
[監督] スタンリー・キューブリック
[脚本] スタンリー・キューブリック、ピーター・ジョージ、テリー・サザーン
[製作] スタンリー・キューブリック、ヴィクター・リンドン
[音楽] ローリー・ジョンソン
[撮影] ギルバート・テイラー
[編集] アンソニー・ハーヴェイ
[美術] ケン・アダム
[ストレンジラブ博士、マンドレイク大佐、マフリー大統領] ピーター・セラーズ
[タージドソン将軍] ジョージ・C・スコット
[リッパー准将] スターリング・ヘイドン
[コング少佐] スリム・ピケンズ
[グアノ大佐] キーナン・ウィン
[アレクシ・デ・サデスキーソ連大使] ピーター・ブル
[ロザー・ゾッグ少尉] ジェームズ・アール・ジョーンズ
※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。
感想
- ピーター・セラーズの1人3役は必見
- 原作は本来シリアスな物語
- ゾッとしてしまう現実を見せる作品
ピーター・セラーズは1人4役だった?
初見では全く気付かず・・・知ってから再度観ても別人にしか見えなかったよ。
キューブリック監督は後年「このようなやり方は映画じゃない」と愚痴っていたようだけど、配給のコロンビア映画が資金提供の条件としてピーター・セラーズが4役する事を提示してきたから仕方ないw
本来は爆撃機の機長であるコング少佐も演じる予定だったけど、撮影中に足首を捻挫したらしく爆撃機のコックピット内を出入りするのは困難という事でコング少佐の役は降りたそうだ。
実際、こうして1本の映画となってみたら同一人物だとは気付かないし、どのピーター・セラーズも素晴らしかった。見た目はもちろん、表情や声色さえも自由自在に変えたマンドレイク大佐、マフリー大統領、そしてストレンジラブ博士の3人のキャラクターは、どれも味があって異常な魅力を放っていたよ。
今作品はこの3人以外にも、かなり尖ったキャラクターばかり登場する。
共産主義の事を嫌いすぎて頭がおかしくなったリッパー准将や、核爆弾にまたがりロデオさながらのヒャッハーをかますコング少佐、鳥の真似しながらハイテンションで爆撃機について語るタージドソン将軍などなど・・・もうキチ〇イしか出てこないw
しかし、これらの濃すぎるキャラクターなど可愛く思えるほどイカれているのが、ピーター・セラーズの演じる我らがストレンジラブ博士なのだ。兵器開発局の局長というお立場の博士はドイツから帰化した設定で、興奮するとナチス式敬礼をする癖があるw時代背景から考えて元ナチスドイツの軍人か研究者だったのだろうか・・・詳しくは作中でも描かれないからわからないけど、誰が見ても一発でヤバイ奴とわかるほど雰囲気を持っている。
一応、今作品のタイトルにもなっているストレンジラブ博士だが、中盤に少し出てきたと思ったら、あとはラスト10分程度の登場しかない。にも関わらずここまで存在感があるというのはどうなってるんだ!?ちなみに演じたピーター・セラーズさん・・・今作品の大半がアドリブとの事ww
ピーター・セラーズ恐ろしすぎる。
この映画を観て笑える?笑えない?
今作品は冷戦や核爆弾の脅威を描いている。
そもそも原作の「Red Alert(邦題:破滅への二時間)」は、2つの大国が核爆弾を突きつけ合う中で起きる世界滅亡を描いたシリアスもの・・・キューブリック監督は脚本を執筆する際に、これをブラック・コメディにしようと決心したそうだ。ブラック・コメディとは、倫理的に避けるべきタブーを描いたものだから、まさに今作品なわけだけど・・・どう考えてもやりすぎw
ちなみに元々は1963年の公開予定だった。でも1963年11月22日にケネディ大統領の暗殺事件が発生した事で、10か月ほど延期になったそうな・・・すごい時期だよね。
そもそも当時は米ソ冷戦の真っ只中なわけで、お互いを仮想敵国と考えて軍備拡張、核兵器開発、宇宙開発競争と一歩間違えなくても核戦争という舞台は整っていたのだ。ちなみに1958年には中台危機、1960年にはU-2撃墜事件、そして1962年にはキューバ危機が起きており、まさに火種だらけの時代だった。
キューブリック監督は、そんな激動の時代に今作品を出している。
僕は正直、鑑賞しながら爆笑してしまった。特にラストは腹抱えたよ。でも同時に「当時の人達は笑えたのだろうか?」とやけに冷静になってしまった。笑えないどころか真面目なバッシングと喝采が相当飛び交ったんじゃないかと思う。
今、この記事を書いているのは2020年5月21日でコロナウイルス真っ只中なんだけど、このタイミングでコロナウイルスを描いたコメディ映画が公開されたら、あなたはどう感じるだろうか?スタンリー・キューブリック監督という人は、まさにそれを実行したという事だ。頭がおかしいとしか言いようがない。
でも・・・そんな倫理的に避けるべきタブーを描き、世情をバッサバッサと叩き切っておいて、ここまで笑える上質なコメディに仕上げた事に僕は驚き憧れてしまった。
こんな劇薬すぎる作品を作るキューブリック監督が大好きだ。
コメディだけどゾッとしてしまう理由
スタンリー・キューブリックという映画監督は日々何を考えて生きていたんだろうか。
この人はいつも徹底的に下調べをしてから映画を作る。今作品も事前にすごい勉強していて、ノーベル経済学賞のトーマス・シェリングや、アメリカ陸軍始まって以来のIQの高さを持つと言われていたハーマン・カーンなどに何度か相談したりしたそうだ。
ちなみに作中に出てくる爆撃機のコックピッド内のセットは、軍事機密で非公開だったにも関わらず、B-29とB-52の写真を参考にケン・アダム率いる美術チームがあまりにも精巧に作っちゃったらしく「FBIの捜査対象になるんじゃ・・・」とキューブリック監督は心配していたらしい。
確かに映画バカだけどキューブリック監督は、こうした現実的で高等な知識を踏まえた上で、風刺てんこ盛りのコメディにしてしまったという事になる。
今作品は、不謹慎だとわかっていてもストレンジラブ博士を筆頭に、魅力的なキャラクター達のやり取りにはケラケラと笑えてしまう反面、核戦争による世界崩壊が当時本当に起こってもおかしくなかったと思うと・・・かなりゾッとしてしまう。そして何より一番エグいのは・・・今もこんなイカれた人達が世界を牛耳っているのかもしれないと感じてしまうリアルな不安と恐怖だ。
ラストシーン・・・ストレンジラブ博士が淡々と語る姿と内容はあまりにも怖い。簡単に言えば「世界がぶっ壊れても、選ばれた人間だけ生き残ればまた社会は復興できる」と話しているわけだけど・・・資本主義でも共産主義でも良い暮らしをしているのは牛耳っている人達だけだよね。
あくまでも映画はファンタジーだ。でも僕達の生きる現代でも、超富裕層と言われる26人の総資産額が世界人口の半分の総資産と同額という現実がある・・・これもう選民し終わってないかな?僕の考えすぎならいいんだけど、ストレンジラブ博士のお話は現代にもしっかり突き刺さってる気がするんだけどw
今作品は冷戦や核爆弾を描いているけど、風刺しているのは人間の社会そのものという事だよね。
エンディングに流す曲を思いついた時、キューブリック監督はどんな気持ちだったんだろう?興奮してナチス式敬礼でもしてたんじゃないだろうか。
評価・視聴方法
ラストに流れるのはなんて曲?
曲名は「We’ll Meet Again」意味は「また会えるよね」
歌っているのはヴェラ・リンというイギリスの歌手で、今でもご存命です。(2020年5月現在)
実際ヴェラ・リンは戦地に何度も慰問しこの曲を歌い、その場にいた兵士達は大合唱をしたそうです。もう会えないかもしれないからこそ心に染みてしまう名曲ですよね!こんな素晴らしい名曲をラストに流すという不謹慎でシニカルなセンス・・・僕にはたまらないものがありました。
人間の狂気を滑稽に描く天才スタンリー・キューブリック・・・傑作だらけの素晴らしい映画監督ですので、ぜひ他作品もご覧になってみてください!
「博士の異常な愛情」の視聴方法
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