1973年公開。深作欣二監督による実録ヤクザシリーズの第1弾となる仁侠映画です。
戦後1950年頃から1972年にかけて実際に広島で起きた暴力団の抗争を描いていて、当事者の1人であった美能幸三が網走刑務所で執筆した手記がベースとなっています。公開時はまだ広島が落ち着いていたわけじゃないので、脚本を書いた笠原和夫は数多の大物に頭を下げたそうですよw
本記事ではあらすじ、キャスト・スタッフ情報の他に、個人的な感想、視聴方法も記載しています。
もくじ
作品情報
正統後継作品としては完結編までの5部作で、新仁義なき戦いシリーズはほとんど関連性がありません。
- 1973年 – 仁義なき戦い
- 1973年 – 仁義なき戦い/広島死闘篇
- 1973年 – 仁義なき戦い/代理戦争
- 1974年 – 仁義なき戦い/頂上作戦
- 1974年 – 仁義なき戦い/完結編
今作品がもたらした影響はあまりにも大きく、映画だけではなく漫画や音楽なども含め、ほぼ全てのエンターテインメント作品にオマージュされています。ファンと公言する著名人も数えきれません。ちなみに第47回キネマ旬報ベスト・テンの日本映画枠で2位でしたが、同シリーズは1973年に1月、4月、9月と3作品も出てるので評が分散したと思われます。
個人的にはドキュメンタリー風(モキュメンタリー)映画の元祖は今作品じゃないかと思っています。荒々しいカメラワークの迫力は必見ですよ。
あらすじ
敗戦直後の広島県呉市・・・広能昌三は山守組組員達に代わり暴漢を射殺する。刑務所に収監されるも、そこで知り合った土居組の若杉寛と義兄弟の契りを交わし、彼の計らいで保釈された。その後、広能は山守組の組員となるが、間もなく呉の長老・大久保の手引きにより、市議選に絡んで山守組と土居組は敵対関係となっていく。闇市からの仲間たちの間にも少しずつ亀裂が入っていく中で、仁義を通して生きる広能だが果たして・・・
キャスト、スタッフ
原作 – 飯干晃一
監督 – 深作欣二
脚本 – 笠原和夫
音楽 – 津島利章
広能昌三 – 菅原文太
坂井鉄也 – 松方弘樹
矢野修司 – 曽根晴美
神原精一 – 川地民夫
槙原政吉 – 田中邦衛
山方新一 – 高宮敬二
新開宇市 – 三上真一郎
有田俊雄 – 渡瀬恒彦
土居清 – 名和宏
若杉寛 – 梅宮辰夫
江波亮一 – 川谷拓三
野方守 – 大前均
山守利香 – 木村俊恵
山守義雄 – 金子信雄
全員男優賞レベルの熱演です!特に金子信雄のむかつく演技は素晴らしかったですねwちなみに物語は広島抗争の中心人物の1人である美能幸三が獄中で書いた手記が原型です。この手記が出所後に飯干晃一の元に渡りました。
※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。
感想
- テンションをぶちあげるテーマ曲
- 美化せずに描かれたヤクザたち
- 戦後の雰囲気を凝縮した傑作
邦画史屈指の名曲から始まる闇市シーン
映画を観た事なくても誰もが聴いた事がある曲・・・
バラエティ番組でも散々使われてるから、若い世代にはお笑いのBGMだと思ってる人もいそうだけど、間違いなく1度聴いたら耳に残ってしまう邦画屈指の名曲だ。きな臭いどころではない・・・今にも何かが起こりそうな雰囲気を漂わしながら始まる冒頭の闇市シーンは一気に惹き込まれてしまう。
正直、観る前まで僕はなめていた。昔のVシネマでしょ?所詮どんちゃん騒ぎのヤクザ映画だろ、と。
全然違う!当時の自分に説教したいね。今作品は激動の戦後を描いている。国家も法律もあったものじゃない混沌とした世界・・・敗戦した日本で生きていく為に、たまたまヤクザの世界に足を踏み込んだ若者たちの群像劇なのだ。
冒頭の闇市シーンは本当に素晴らしい。活気に溢れ商売をする者や、彼らから場所代をかすめとるチンピラに闇市を仕切るヤクザ、そして昼間から公然とレイプを楽しむ米兵たちに、彼らから女を助ける我らが菅原文太こと広能昌三と・・・アクの強いキャラクターがぞろぞろ出てきて、たった10分で観ている人の心を掌握してしまう。
今作品は現代映画のようなイケメンのヒーローが出てくるわけじゃない。でも仁義なんてものを守っていたら生きていけなかった激動の戦後を何とか生き抜いた男たち・・・その中で唯一仁義を守り通した広能昌三は泥臭くも確かにかっこいいのだ。
今作品をただの暴力的なヤクザ映画だと思って敬遠してる人にこそオススメしたい。間違いなく邦画史に残る傑作だよ。
まるでドキュメンタリーのような映像
深作欣二監督が撮る映像の破壊力はえぐい。
昔のヤクザ映画というのは美化されたヤクザが映し出されていたらしい。それ故にリアルなヤクザの人間模様を描いた今作品は、賛否両論があれど大変話題になったそうだ。リアルタイム世代じゃない僕は、もちろん当時の熱量を知らないけど、鑑賞してみてある衝撃を受けた。
それは深作監督のリアリティを感じさせる抜群の映像センスだ。
ブレア・ウィッチ・プロジェクトやクローバーフィールド/HAKAISHAなど、ホームカメラ風の撮影方法は今でこそ1つのジャンルとなったけど、実は1973年の今作品から始まったんじゃないか?と思ってしまった。特にアクションシーンは最高だ。カメラはガチャガチャ揺れるし映像もぶれまくっているんだけど、それが実にいい。まるで自分もその場にいるような感覚に陥るリアルな映像は最高にテンションをあげてくれる。
しかも映し出されるヤクザたちの大半はどいつもこいつも裏切りと殺しの繰り返しで、仁義なんて高尚なものは一切出てこないもんだから、より現実的な群像劇に見えて、それはまるでドキュメンタリーそのものだ。
だからこそ、その中で仁義に生きた広能昌三という男が輝いて見えるし、そんな広能でもどうしようもなかった戦後のヤクザ社会が酷く醜く見えてしまう。加えて、そのどうしようもない混沌を作り出したのが戦争と考えると今作品は反戦映画とまで思えてくる。
絶対にテレビでは流せない映画
今作品の描くリアルなヤクザとは、ただ殴る蹴る殺すだけじゃない。
裏切りや嘘にまみれて金で狂っていくえげつない人間関係や、政治家との癒着も当たり前のように描いている。でも実際に競艇や競馬など公営賭博というものは、当初は地元のヤクザが警備や運営を担っていたし、今作品がシリーズ化となってからは、東映の撮影現場にはヤクザが当たり前のように出入りして演技指導までしていたという。しかもヤクザだけじゃなく、警察までもが撮影で使う拳銃を貸していたりと協力的だったそうだ。今なら炎上どころではないよねw
別に反社会的勢力を肯定するつもりはないけど、今作品で描かれている戦後の侠客渡世人・・・つまりヤクザがいなければ戦後のドヤ街や闇市はもっと酷い暴力がまかり通り、もっとえぐい混沌に陥っていたのも否定できない。
今作品はタイトル通り仁義もクソもない人間と世界を描いていて、終始えげつない暴力が飛び交っているし、ストーリーは当事者の手記から生まれた実録だ。そこらのノンフィクション映画やドキュメンタリー番組を軽く蹴散らすパワーを持っている。はっきり言って、今後何があってもテレビで流す事はないだろう。
でも、戦争に負けたこの国がどうやって再起してきたのか、当時の人達がどうやって生き抜いたのかという絶対に隠蔽してはいけない日本の戦後史を描いた素晴らしい映画なのは間違いない。深作欣二監督は今作品の冒頭に原爆の映像を流した。ヤクザ同士の抗争も確かに暴力だけど、戦争こそ本当に忌むべき仁義もクソもない暴力だというメッセージを僕は感じたよ。
暴力を描いて暴力を否定する深作欣二監督の映画センスは素晴らしいね。
評価、視聴方法
1時間40分とは思えない圧倒的な緊張感
今作品はまるで3時間映画を観た後のような疲れが襲ってきますw
もちろん良い意味ですよ!冒頭から濃密すぎる映像に登場人物、そして素晴らしいテンポとギアの上げ方・・・改めて深作欣二監督には敬服してしまいます。
ファンの間ではシリーズでどれが1番好きか好みがわかれるようですが、個人的にはやはりこの1発目ですね。3作目以降に登場する小林旭の存在感も素晴らしいんですけど、どうしても今作品が好みですw若い世代からしたら聞いた事もない役者陣かもしれませんが、演技の良し悪しというよりも迫力が凄まじいので、嫌でもその魅力を体感できるんじゃないかと思います。
というか僕も別に世代じゃないんですが、今作品の持つパワーと俳優陣には、かなりの衝撃を受けましたねw
2時間もないのに、これほどまで見応えのある映画はそうありません。是非1度は観る事をオススメしますよ。邦画屈指の傑作です!
「仁義なき戦い」の視聴方法
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今作品は日本のヤクザと戦後史を描いていますが、アメリカのマフィアと歴史を描いたアイリッシュマンも超オススメです!
では、良き映画の時間をお過ごしください。