映画「スイス・アーミー・マン」あらすじ、感想【超珍作を徹底考察】

スイス・アーミー・マン

2016年にアメリカで公開、日本では2017年に公開となった作品。

ダニエル・シャイナートダニエル・クワンからなるコンビ・ダニエルズというミュージックビデオやショートフィルムを数多に手掛けてきた2人が監督・脚本を務めました。今作品はかなり斬新なアイデアですが、内容は意外としっかりしていて、不思議な感動を得られるヒューマンドラマとなっております。

ちなみにタイトルのスイスアーミーマンとは、スイスアーミーナイフのような様々な機能を備えている人間(死体)という事からきているそうですw

本記事ではあらすじ、キャスト・スタッフ情報の他に、個人的な感想、視聴方法も記載しています。

ジャンル:コメディヒューマンドラマ
作品時間:97分

作品情報

  • ヌーシャテル国際ファンタスティック映画祭
    国際批評家賞
    観客賞
    最優秀デザイン賞
  • シッチェス・カタロニア国際映画祭
    最優秀長編映画賞
    最優秀男優賞 – ダニエル・ラドクリフ
  • サンダンス映画祭
    監督賞 – ダニエルズ
  • トロント映画批評家協会賞
    第1回作品賞

おおむね高評価ですが、死体を使ったブラックユーモアに溢れるコメディ要素も強いので、映画祭の上映ではチラホラと途中で席を立つ人もいたそうです。

あらすじ

無人島に流れ着いたハンク・・・彼は絶望から自殺を決意するが、いざ首を吊ろうとした時、浜辺に打ち上げられていた死体を発見した。その死体はガスで膨れ上がって水に浮いていて、しかもガスの排出によって死体は沖合に出ようとしていた。その死体に飛び乗ったハンクは、ジェットスキーの要領で死体に乗って沖合へと向かう・・・何とか違う大きな島に辿り着いたハンクと死体だが果たして・・・。

キャスト、スタッフ

監督・脚本 – ダニエルズ(ダニエル・シャイナート、ダニエル・クワン)
音楽 – アンディ・ハル、ロバート・マクダウェル

ハンク・トンプソン – ポール・ダノ
メニー – ダニエル・ラドクリフ

サラ・ジョンソン – メアリー・エリザベス・ウィンステッド
クリッシー(サラの娘) – アントニア・リベロ

プレストン – ティモシー・ユーリック
リポーター – マリカ・キャスティール
ハンクの父親 – リチャード・グロス
警察官 – アーロン・マーシャル
カメラマン – アンディ・ハル
検視官 – シェーン・カルース

作中の大半は主人公のハンクとメニーしか出てきませんが、2人ともずっと観ていたくなるような素晴らしい演技でした!

※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。

 

 

感想

  • アイデアが奇抜だけどわかりやすい
  • 万人受けはしないけど傑作
  • テーマは生きる事の素晴らしさ

ラドクリフ最高!ハリー・ポッターだけじゃない!

ジェットスキーの要領で死体に乗って沖合へと向かう・・・

何を言ってるんだ・・・と思うかもしれないけど、この言葉通り冒頭からダニエル・ラドクリフ演じるメニーの死体に乗って、ポール・ダノ演じるハンクが海を疾走する・・・どういう思考からこんなわけのわからない発想が生まれたんだかw今作品はこのアイデアの段階でまず勝ちと言っていい。

メニーは死んでいるんだけど、不思議と色々な機能を備えている。オナラでジェットスキーのように海でも前に進むし、お腹を押すと口から水が出てきたり、死後硬直を利用したテコの原理で木材を切ったり叩いたり・・・あとお話も出来ちゃう。なんて多機能なんだ!十徳ナイフならぬ、十徳ラドクリフ!もう1人の主演であるポール・ダノも相変わらず素晴らしい演技力なんだけど、こんな奇妙奇怪な役に飛び込んだダニエル・ラドクリフもまた最高の死体を演じていた。

今作品は終始メニーの多機能っぷりで笑わせてくれて楽しいコメディに仕上がっているけど、死体という点で引っかかり生理的に受け付けない人もいるようだ。一部では「死者を冒涜してる」と嫌悪感を示した人も見かけた。確かに死体をジェットスキーのように乗り回すとか悪ふざけの発想だし、このように言葉として羅列していくと「クソオバカコメディかよ!」と言いたくなるかもしれないねw

でも中身は飛び道具無しの直球ヒューマンドラマなんだよ。

人生の素晴らしさを訴えてくる傑作

生きる事を諦めた男が死体に生きる楽しみを教える映画。

またも何を言ってるんだ・・・と思うかもしれない。でも実際そうなんだから仕方がないw主人公ハンクは無人島で首を吊る一歩手前だった。そんなハンクが多機能死体であるメニーと出会い、中盤からメニーはまるで生きてるみたいに話す事ができるようになる。しかしメニーは人間的な常識観念知識はなく、ハンクが色々と教え始める。例えば「恥ずかしいからオナラをしたくなっても人の目を避けてしたり我慢するんだ」とハンクは教えるが、メニーは問いかける。

「悲しい事だ、何故自由を否定するのか」

人前でオナラをする事は常識的に考えれば相手に嫌な思いをさせるし、自身も恥ずかしい思いをする。これがオナラだからくだらなく感じてしまうかもしれないけど、SEX自慰行為だったらどうだろうか。ある女性に好意を抱き性的に興奮する・・・ざっくり言えば男なら勃起してしまう事は常識的に考えれば人前では恥ずべき行為だが、冷静に考えると何故これが否定されなければいけないのか。こうした人間の抱える不思議な矛盾に対して、メニーは純粋だけど痛烈なメッセージを放ち、その言葉はことごとく現代社会に突き刺さってしまう。それでもハンクはそれが人間なんだと、社会なんだとメニーを説き伏せる。

一体何を見せられているんだ!

十徳ラドクリフでケラケラ笑っていたのもつかの間、気が付けば人生について考えさせられていた。ハンクの言っている事や感情は実に人間らしい思考だし間違ってないはずなんだけど、メニーの言っている原始的な疑問や意見もまた忘れてはいけない人間的な思考なのだ。

バスの中から窓ごしに見る街並みや、恋をする楽しみ、友達と騒ぐ瞬間など・・・日々の生活の中にある普遍的な幸せというものを現代社会の人間はちゃんと楽しめているのか?それこそが素晴らしき人生なんじゃないのか?といったシンプルで直球なメッセージがこの映画の本質だ。ジェットスキーの要領で死体にまたがって・・・とか言ってるから気軽に観たら意表を突くなんてもんじゃない。急にグレネードランチャーを撃ち込まれたようなレベル

ダニエルズとかいう2人の監督には脱帽だよ。

不思議な音楽で幕を閉じるラストシーン

今作品は幻想的な音楽が散りばめられている。

しかも作中にハンクとメニーが口ずさんだ歌がそのままBGMになっていて、これが綺麗な多幸感を作り出していた。特にラストシーンからのエンドロールは素敵な余韻があったね。常識的な世界で生きている人間達がメニーの起こす奇跡を目の当たりにした事で、不思議と笑顔になってしまうんだ。最後ハンクがメニーの耳元でなんと囁いたのか・・・セリフに無いからわからないけど「ありがとう、多分もう死のうなんて考えないよ」みたいな感謝を述べていたんじゃないかと僕は思う。

現代では1人で生きていくってそんなに難しい事じゃなくなったよね。スマホで殆どの情報が手に入るし、食事だって飲食店やスーパーがいくらでもある。そんな中で戦争や汚職などネガティブなニュースが流れると、今度はSNSで不特定多数の人が言葉の武器を持って誰かに襲い掛かっている。こうした人間の醜さを見ると悲しくなるどころじゃない、呆れも超えた絶望に近いものだ。

今作品は優しい映像と音楽に彩られたアートのような映画だけど、中身のメッセージは「生きる事を楽しもう」という普遍的な人生の幸せについて描いている。確かに死体をあの手この手でいじっているから万人受けするとは思わない。でも誰かに裏切られたり、失恋したりと・・・生きていて立ち止まりたくなる事があったら是非観て欲しい作品だ。

滅多に出会う事ができない映画である事は間違いないよ。

評価、視聴方法

今後要注目!ダニエルズという2人の監督

これは次作も期待しちゃいます。

発想が飛びぬけて面白かった今作品ですが、構成も上手だったと思いますし、特に主役2人のセリフ回しは非常に面白いものに仕上がっていました。もちろんポール・ダノダニエル・ラドクリフの素晴らしい演技力があってこそ成立した映画だとは思いますが、これが初の長編映画とは思えないほど素晴らしい出来だと思いますね。ちなみにミュージックビデオを制作してきた2人は様々なところから評価されてきたようです。

 

 

確かにこうしてみるとかなり独特な映像ですよねw今作品でもスローモーションはよく使われていて、実に幻想的で美しい映像になっていました。昨今、新しい映画監督ってどうしてもMCUとか大作シリーズの続編で器用されて評判良ければ・・・みたいな事が多いですが、久しぶりに新進気鋭と言える監督だと思いました。

ダニエル・シャイナートダニエル・クワン・・・要注目です!

「スイス・アーミー・マン」の視聴方法

Amazonプライムなら年間プラン4,900円(税込)または月間プラン500円(税込)で映画の他にも松本人志のドキュメンタルアニメprimeオリジナル作品なんかも見放題なのでお得ですよ!

「スイス・アーミー・マン」をamazonで観る

死生観や人生を考えさせられる作品なら戦場のメリークリスマスをオススメします。デヴィッド・ボウイ坂本龍一ビートたけしというかなり異色なキャスティングの名作ですよ!

では、良き映画の時間をお過ごしください。