仁義なき戦いを彷彿とさせるコンプライアンスそっちのけのバイオレンス映画。
昭和の広島を舞台に警察 vs ヤクザの抗争を描く。監督は凶悪や日本で一番悪い奴らなど、危なっかしいクライム系に定評のある白石 和彌(しらいし かずや)
近年、東映はプリキュアや仮面ライダー系で収益が安定してますが、元々は仁義なき戦いから始まった実録やくざ映画が根幹にある制作会社です。世間様がコンプラコンプラとうるさく厳しくなっている中で今作品を世に出した東映には心より拍手を送りたいと思いましたね。
本記事ではキャスト情報や感想の他に、続編の情報も含めて書いていきます。
作品情報
- 最優秀主演男優賞 – 役所広司
- 最優秀助演男優賞 – 松坂桃李
- 最優秀美術賞 – 今村力
- 最優秀録音賞 – 浦田和治
- 優秀作品賞
- 優秀監督賞 – 白石和彌監督
- 優秀脚本賞 – 池上純哉
- 優秀助演女優賞 – 真木よう子
- 優秀音楽賞 – 安川午朗
- 優秀撮影賞 – 灰原隆裕
- 優秀照明賞 – 川井稔
- 優秀編集賞 – 加藤ひとみ
この年は万引き家族、カメラを止めるな!など熾烈な争いでした。その中で12部門受賞ってすごすぎますが、ちゃんとそれに見合う面白い作品です!
あらすじ
昭和63年、暴力団対策法成立直前の広島。所轄署に配属となった日岡秀一、彼は暴力団との癒着を噂される刑事・大上章吾の相棒となるが、彼の常軌を逸した違法捜査に納得がいかない。そんな中、とうとう暴力団同士の抗争が激化し巻き込まれていく2人、警察組織と暴力団の間に挟まれた中で少しずつ見えてくる真実とは・・・?
キャスト、スタッフ
監督 – 白石和彌
脚本 – 池上純哉
原作 – 柚月裕子
呉原東署
大上章吾 – 役所広司
日岡秀一 – 松坂桃李
友竹啓二 – 矢島健一
土井秀雄 – 田口トモロヲ
菊地 – さいねい龍二
有原 – 沖原一生
毛利克志 – 瀧川英次
尾谷組
尾谷憲次 – 伊吹吾郎
一ノ瀬守孝 – 江口洋介
備前芳樹 – 野中隆光
永川恭二 – 中村倫也
加古村組
加古村猛 – 嶋田久作
野崎康介 – 竹野内豊
吉田滋 – 音尾琢真
苗代広行 – 勝矢
五十子会
五十子正平 – 石橋蓮司
吉原圭輔 – 中山峻
岡田桃子 – 阿部純子
上早稲潤子 – MEGUMI
嵯峨大輔 – 滝藤賢一
高木里佳子 – 真木よう子
高坂隆文 – 中村獅童
瀧井銀次 – ピエール瀧
多すぎw役者は全員素晴らしかったし、テレビでは絶対に見れない演技とキャラクターで、これぞ日本のバイオレンス映画!と言える衝撃シーンの連発です。必見ですよ!
※ここからはネタバレもあるのでご注意ください。
感想
- 役者たちが皆ハマりすぎ!
- 過去の邦画への敬意と未来を感じさせる
- これこそ東映の面白いヤクザ映画
全役者が光った素晴らしい演技
主要キャラの役所広司、松坂桃李はもちろん、今作品は目立たない脇役まで全員が素晴らしかった。
相変わらず少しチンケな組長が似合う石橋蓮司、東映ヤクザ映画らしいスター感のある江口洋介、リアルで捕まっちゃったけどアウトロー役が本当似合うピエール瀧に、声も素敵な滝藤賢一、この辺りは安定も安定で一切文句無し!
もう書ききれない位、役者の誰もが素晴らしかったけど・・・中でも竹野内豊と中村倫也!
深作欣二監督の仁義なき戦いに出てた?と思わせるような古い昭和のヤクザ感があってたまんなかったね。仲村倫也なんか川谷拓三を思い出させる丁度良い雑魚感というか、ストーリーの軸には絡まないけど作品にとってはとても重要なスパイスになっている。
その他には女性陣も面白く、主要キャラの真木よう子も艶のある魅力的なママを演じたが、阿部純子のいそうでいない感じの丁度良い可愛らしさが作品の癒しになっていて良かった。ちなみに冒頭のMEGUMIは一瞬気付かなかったよw
とまあ・・・本当に書ききれないレベルで役者が光りまくっていた今作品だけど、やっぱり一番は主要の2人!
役所広司は、もはや日本映画界の至宝だよね。
イカれたきたないオジサンやらせたらもう勝てる人いないよ。中島哲也監督の渇き。の時もすごかったけど、今作品でも恐ろしい狂気をまとった最高の演技だった。この大上章吾、通称ガミさんのエピソードだけで何本も映画を撮ってほしくなるような魅力があって、それは間違いなく役所広司が演じたからと言っていい。
そして怪演の役所広司をおさえて一番良かったと思ったのは相棒役の松坂桃李。
今作品は東映らしいというか仁義なき戦いらしいというか・・・まさにドンパチヤクザ映画なんだけど、実は結構面白い骨太なストーリーで、特に松坂桃李が演じた日岡秀一の心情変化こそが一番重要なところ。この繊細な心情の変化を丁寧な演技で表現してたと思う。
僕は監督や映画自体の構成、演出に注目してレビューする事が多いけど、この映画は役者の演技こそ一番書きたくなった。でも昔の東映ヤクザ映画って本来そういうものだよね。僕も別に世代じゃないけど菅原文太、松方弘樹、梅宮辰夫みたいなスクリーンのかっこいいスター達に憧れて観客が不良化する位の作品・・・それくらい影響を受けちゃうのが映画の真髄なはず。
今作品は間違いなくその昭和の路線を世襲した役者が主役のかっこいい映画だ。
コンプライアンスを超えてきた傑作
今作品を観た時、すぐ思い出したのは仁義なき戦いだった。
正直な気持ち、北野武監督のアウトレイジは面白かったし確かにヤクザ映画だけど、どうしても北野映画として観ちゃうというか・・・北野武ならではの独特なテンポがあるので東映のヤクザ映画とはまた違うんだよね。
そもそもヤクザ映画というジャンルはコンプライアンスが厳しくなり、近年は日の当たる場所にほとんど出てこなくなった。アウトレイジが出た時は「お!コンプラ少し緩和したのか?」と思わせたけど、結局メインストリームにはならず。Vシネマというレンタルビデオでの作品では出てるっちゃ出てるんだけど、決して表舞台の作品とは言えない・・・。
そんな中でここまで骨太な映画は何年も観てない気がする。パッと今思い出せるのだと同監督の日本で一番悪い奴ら、それと結構前(2002年)になっちゃうけど、三池崇史監督、岸谷五朗主演の新・仁義の墓場くらい?あと何かあったっけか。
確かに殺害シーンや血も飛び交うようなグロい映像はダメな人はダメなんだろうけど、子供の悪影響だとか過激表現だからダメだとかは、個人的にはあまり納得がいかない。ホラー映画だから幽霊が出てくるんだし、恋愛映画だから綺麗な女性やカッコイイ男性が出てくるんだよね?ならヤクザ映画には怖いヤクザが出てくるだろ!と。ヤクザが出てきたら殺し合いのシーンは必然なわけで、血も飛び交うだろ!と。
よく猟奇的な犯罪者が捕まるとすかさずテレビで「容疑者の部屋にはアニメのDVDが沢山あり・・・」みたいな報道がされて、まるでアニメが悪影響を及ぼした的な印象操作があるけど声を大にして言いたい。
それ創作物な!
もちろん映画にはノンフィクションジャンルもあるよ、でもあくまでも創作されたエンターテイメントなんだ。ただ悔しい事に世の中のコンプライアンスとかいう超規制によって色々な表現ができなくなっている。
それを乗り越えて今作品を撮った白石和彌、そして世に出した東映は本当に頑張ったと思うし、何よりも映画愛を感じた。
加えて、仁義なき戦いから始まった過去の名作への敬意を感じられたよ。
虎狼の血というタイトルの意味
で、ストーリーはどうなのよ?というと、これがまた良かった!
警察 vs ヤクザというわかりやすい暴力を描く今作品だけど、松坂桃李演じる日岡の心理変化がストーリーの軸となっていて、一人の若者の成長を描いている。まだ青い若者・日岡を振り回すのが役所広司演じる通称ガミさん。刑事なのにヤクザともズブズブでその言動はもはやヤクザよりもヤクザwそんな狂気に満ちたガミさんだけど、彼の信条はカタギの人間を絶対に守る事、傷つけない事・・・その為なら違法捜査もお構いなし、なんでもしちゃう。
って、これ昔の任侠ヤクザそのものなんだよね。はじめは日岡も違法捜査しかしないイカれたガミさんに嫌悪感を持ちながら行動を共にしているが、少しずつ見えてくる真実とガミさんの本当の姿、反面ヤクザよりもえげつない警察上層部に挟まれて日岡の正義感は葛藤する。
中盤、養豚場で日岡がガミさんにかみつくんだけど結構印象に残るシーンだった。
「こんなの捜査じゃない、正義とは言えない」
ガミさんはそれに対して「極道を法で押さえつけて、やつらがバッチ外して背広着てカタギと見分けつかなくなるのが正義かい」と返す。
まさに青臭い日岡の正義と、現場で生き抜いてきたガミさんの正義のぶつかり合い、僕には観客・世間に対して「今はこうなっちゃったねw」という皮肉にも感じた。
日岡の青臭い正義感は間違ってないけど現実では通らない場合もある・・・。それに気づき始め少しずつ変化していく日岡。そんな繊細な変化を表現した松坂桃李は本当に素晴らしく、特に最後の目つきなんかまさにこれからガミさんのように生きていくのかなと思わせるようなギラつきがあった。
虎狼とは一匹狼で立ち回るガミさんの事、そして血とはガミさんの生き様、信念・・・その虎狼の血を受け継いだのが日岡という事だね。
題材としては良く描かれる設定とストーリーかもしれないが、その完成度はかなり高い。間違いなく傑作である。
評価、視聴方法
待望の続編は出るのか?
2018年5月・・・続編製作決定の報がありました!
というか、そもそも原作者の柚月裕子先生は2年後を舞台とした第2作「凶犬の眼」そして完結編となる第3作「暴虎の牙」を既に書いており、三部作も全然ありえるでしょうね。もちろん東映製作・・・個人的に監督は全部白石さんで頼みたいと思う程、今作品は素晴らしい出来だったと思います。
この続編制作の発表にて東映の多田憲之社長はこうおっしゃってました。
「孤狼の血は東映らしい作品となりました。このジャンルの映画を続けていかなくてはならないと思い、続編の決定を致します」
別に最近の邦画がつまらないわけではないですし、むしろ傑作が増えているようにも思います。ただ東映らしい映画は本当になくなっているんですよね。世間の逆風が厳しい中で東映の社長がこういう発言してくれたのは一映画ファンとして非常に嬉しく感じました。時代に沿わないヤクザ映画ですし、バイオレンスな描画が苦手な人がいるのもわかりますが、少しでもこうした骨太映画が世に出る事を願います。
個人的には北野武監督のアウトレイジシリーズも好きですけど、今作品はもっと面白かったと感じましたよ。
「虎狼の血」の視聴方法
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これを機に仁義なき戦いなんかも一緒に観てみるのはいかがですか?菅原文太かっこいいですよ~!
では、良き映画の時間をお過ごしください。