今作品はNetflix配給によるフランスの長編アニメ映画となります。
監督のジェレミー・クラパンは元々グラフィック・デザイナーで、過去にはSkhizeinやPalmipedariumといった短編アニメーション作品を作っており、フランスの映画祭などで高い評価を受けてきました。今作品はそんなクラパン監督の初長編映画となります。独特な世界観の中で描かれる人間ドラマに、アドベンチャーや恋愛など様々な要素が入っているんですが、非常に観やすい作品でした。
[ジャンル]アドベンチャー、ヒューマンドラマ[作品時間]81分
[公開日]2019/11/29
- 予告動画やキャスト情報
- ネタバレありの感想
- 評価と鑑賞方法
もくじ
作品情報
- アヌシー国際アニメーション映画祭 – 長編映画賞、観客賞
- ニューヨーク映画批評家協会賞 – アニメ映画賞
- ロサンゼルス映画批評家協会賞 – アニメ映画賞、音楽賞/ダニエル・レヴィ
ロッテントマトの批評家評は相当いいですね!ちなみにアカデミー賞でも長編アニメ映画賞にノミネートしております。内容も良かったですが、個人的にはダニエル・レヴィによる映像に丁度良くフィットした音楽が印象的でした。
あらすじ
ある日、切断された手はパリのとある医療研究施設を抜け出し、街を彷徨い始めた。一方、体の持ち主であるナウフェルは、ピザ配達のバイトをしながら過去を胸に生きていた。しかし彼は、ある日ガブリエルという女性との出会いを境に前を向くようになる。果たして切断された手はナウフェルの元へ帰れるのか?ナウフェルの運命とは?
スタッフ・キャスト
原作 – ギョーム・ローラン「Happy Hand」
監督 – ジェレミー・クラパン
脚本 – ジェレミー・クラパン、ギョーム・ローラン
音楽 – ダニエル・レヴィ
ナウフェル – ハキム・ファリス
ガブリエル – ヴィクトワール・デュボワ
ジジ – パトリック・ダスンサオ
原作の小説「Happy Hand」を書いたギョーム・ローランは、2002年にアメリの脚本で第74回アカデミー賞の脚本賞にノミネートされた方です。
※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。
感想
- 手首の大冒険!
- アニメだからできた表現法
- 素晴らしい文学的な〆
手首が冒険するという奇天烈な発想
アニメ映画の事をなめていたよ。
正直、僕はアニメに疎い。もちろん声優の方々も詳しくないし、絵の好き嫌いはあれど作画の良し悪しなんて全くわからない。日本のアニメだって初期のジブリは何度も観たけど千と千尋の神隠しあたりから怪しいし、好きな人がいたら大変申し訳ないんだけど、ワンピースの事を「感動の押し売り」と呼んでいるくらいアニメに対してあまり愛がない。今作品もNetflix作品でアカデミー賞にも名を連ねていたから、なんとなく観始めてみただけで・・・ぶっちゃけ期待はほぼしていなかった。
それがなんだよ、めっちゃ面白いじゃないか・・・!
登場人物もシンプルでわかりやすいしストーリーも良い。現代人に突き刺さるメッセージ性も素晴らしかったし、何よりも手首の大冒険というファンタジーと、主人公ナウフェルのヒューマンドラマの交差・・・その構成の巧みさには驚いた。すげーじゃん、アニメ映画!
今作品最大の特徴はやっぱり手首だ。本体と切り離された手首が元の体を求めて街中を彷徨う・・・観た事ない人にはホラーのように感じるかもしれないけど、決してそんな事はない。時にはネズミに襲われ間一髪で逃げたり、アリ達に食べられそうになったり、ビルの屋上から傘を持って飛び降りたり・・・とんでも映像ではあるんだけど、こうしたアドベンチャー的な手首の物語には見事にハラハラさせられた。
同時に主人公ナウフェルの何とも寂しい日常が描かれていくんだけど、彼は小さい頃に事故で両親を失ってから夢や希望も捨ててしまい、今ではピザデリバリーをしながら孤独に生きている・・・それはそれはなんとも悲しく、狂おしいほど味気ない日常だ。
手首と主人公ナウフェルの日常・・・一体何が関係あるのか?
この絶妙なミステリー要素はかなり引き込まれたし、薄々ナウフェルの手首なのだと気付き始めてからも今度は「どうして手首が失くなってしまったのか?」というブラックボックスが出現するので観ていて全く飽きがこない!なんだこの脚本は・・・誰が書いたんだ!?
アメリのギョーム・ローラン!
すごく納得した。発想も面白いし展開も秀逸・・・今作品はアニメ云々の前に脚本の時点で勝ってるよ。
アニメーションだから良かった点
今作品が、もし実写だったらどうだったのか?
ナウフェルとガブリエルのヒューマンドラマパートなんてもちろん実写化できるし、瑛太と長澤まさみあたりが演じて、岩井俊二なんかがメガホンをとってくれたら僕は駆け足で映画館に行く。問題は手首パートだ。ただ手首に関しても、別に現在のCG技術を使えばもっとリアルな映像で表現できただろう。でも絶対にそんな事しちゃいけない・・・。
リアルに動く手首とかいう超グロ映像など、今作品に全く必要ないんだ。
それこそゴリゴリのホラーになってしまう。アニメーションだからこそ手首がポップに映ったし、アドベンチャーとしてのハラハラ感を楽しめた。もっと言えば手首パートがホラーじみてなかったからこそ、ナウフェルとガブリエルのヒューマンドラマがより浮き上がり、そしてより映えたと思う。
日本のアニメだと、ジブリや新海誠のように元々映画として作っている作品もあるけど、基本的には人気のある漫画や小説、ゲームなどの延長線上にあって、アニメにする必要性があるか?と問われたら「人気があるから」という理由以外は無いと言っていいよね。何が言いたいかというと・・・
そもそも今作品はアニメじゃないとだめだったという事だ。
実際、制作者の方々に聞いたわけじゃないから本当のところはわからないけど、必要性があったからアニメという表現になったんじゃないかと僕は感じた。キャラクターや声優を前に出すのではなく、ストーリーに軸を置いて作ってくれた事が映画ファンとしてはすごく嬉しかったし、面白く観る事ができた。
日本で夏休みやGWによくやってる某アニメの映画版ではなくて、こうした生粋のアニメ映画なら僕は大歓迎だ!
伏線を綺麗に回収した秀逸なラスト
何度も見返したくなる素晴らしいストーリーだった。
事故で亡くした両親との淡い思い出だけ見つめて、今を生きようとしていない主人公ナウフェル・・・過去の回想シーンは白黒で表現されているけど、まさに彼の日常であまりにも色がない。夢や希望もなく、ただ寝て起きて食べて働くだけ・・・その描写はまるでジョーカーのアーサーを見ているようで心が痛くなってくる。
ただアーサーと違ったのは、ガブリエルという女性と出会った事・・・彼女は名も無きピザ配達員のナウフェルに優しい言葉をかけてくれた。ガブリエルの派手なヘッドホンというのも、色の無いナウフェルの日常との対比になっていて素晴らしかったね。そんな2人がある夜、屋上で語り合うシーンがある。
ナウフェル「運命を信じる?」
ガブリエル「変えられないと思う」
ナウフェル「異常な事をすれば変えられるかも・・・例えばここからクレーンに飛び乗ったり」
ガブリエル「運命から逸れた後はどうするの?」
ナウフェル「つき進む、盲目で進み成功を祈る」
最高の脚本じゃねーか・・・なんだよ、この静かなエモーショナルは!これが秀逸なラストシーンへの伏線の1つになっているんだけど、また回収の仕方が洒落ていて素敵なのよ。今作品をレビューしてる人の中には、ナウフェルは最後自殺したんじゃないか?と思った人もいるようだけど、僕には全く違うものに映った。
まさに異常な事をして運命を変えたんだ。
確かにその後のナウフェルは描かれないし、クレーンに飛び移った後の映像はガブリエルの妄想・・・夢物語と解釈しても面白いと思う。何だったら、その解釈の方がメッセージ性はエグいし、より世の中に突き刺さったかもしれないwでも僕には、盲目につき進み小さくとも人生の幸せをつかむ事に成功したナウフェルが見えたし、それを目の当たりにしたガブリエルも「もしかしたら運命は変えられるのかも」と考えを改めてくれたんだと思えた。いや、そう思いたい。
カセットの録音機と手首という過去の思い出を捨てて、やっと人生を謳歌し始めたナウフェル・・・彼がクレーンで発した乾いた笑いには安堵を感じさせる素晴らしい余韻があったよ。
フランス産アニメ映画・・・すげえじゃねーか!
評価・鑑賞方法
作品を彩ったダニエル・レヴィの音楽
手首のアドベンチャー、ナウフェルの成長譚、その間をうまく繋いだミステリー要素と素晴らしいバランスで構成された名作だと思いました。特筆すべきは、このカテゴライズに悩む様々なジャンルを取り入れたストーリーと映像に、丁度よくハマっていたダニエル・レヴィの音楽でしたね。
ミステリアスでどこか淡くエモーショナル・・・不安を煽るようで心地よさも共存してるような不思議な旋律は、個人的にかなり良かったです!音楽って映画では非常に大切な役割を担ってますよね。ちなみに今作品のように音楽が良い仕事している映画ならアイ・アム・レジェンドもオススメです。ゾンビホラーなのにボブ・マーリーが流れてるんですよ!これが不思議とハマってるんですw機会があれば是非!
「失くした体」の鑑賞方法
Netflixは映画の他にもドキュメンタリー、ドラマ、アニメや受賞歴のあるオリジナル作品などが月額800円(税抜)から楽しめます。追加料金がかかる事はないので安心のVODサービスですよ!
では、良き映画の時間をお過ごしください。
(C)Netflix