映画「戦場のメリークリスマス」あらすじ、感想【坂本龍一の名曲が光る難解作品】

戦場のメリークリスマス

1983年公開。大島渚監督による日本、英国、ニュージーランドの合作映画です。

第二次世界大戦時の同性愛と不思議な友情を描いた映画で、デヴィッド・ボウイ坂本龍一ビートたけしという、今もなお世界に名を轟かせる3人の天才がキャスティングされた、かなり異色な作品となっています。公開から30年以上たった今でも十人十色の感想と解釈が飛び交う名作ですよ。

本記事ではあらすじ、キャスト・スタッフ情報の他に、個人的な感想、視聴方法も記載しています。

ジャンル:戦争ヒューマンドラマ
作品時間:123分

作品情報

  • 優秀作品賞
  • 優秀監督賞 – 大島渚
  • 優秀助演男優賞 – ビートたけし
  • 優秀音楽賞 – 坂本龍一
  • 優秀美術賞 – 戸田重昌
  • 作品部門・話題賞

最優秀作品賞をとってそうなイメージがある映画ですが、日本アカデミー賞では6部門ノミネート、残念ながら受賞まではいきませんでした。確かに評価が人によってかなり変わる難解作品ですから仕方ないかもしれませんw公開当時もかなり賛否両論だったそうです。

あらすじ

1942年、英国陸軍中佐ジョン・ロレンスは日本統治下にあるジャワ島レバクセンバタの捕虜収容所にいた。ロレンスは日本語が少し話せた為、他の捕虜と日本陸軍の兵との間に入る事が多く、所長のヨノイ陸軍大尉やハラ軍曹と不思議な人間関係を築いていた。そこに新しく捕虜となった英国陸軍少佐ジャック・セリアズがやってくる。セリアズは反抗的な態度ながら、その魅惑の容姿と雰囲気にヨノイは彼に惹かれていってしまう・・・。

キャスト、スタッフ

原作 – ローレンス・ヴァン・デル・ポスト
監督 – 大島渚
脚本 – 大島渚、ポール・メイヤーズバーグ
製作 – ジェレミー・トーマス

音楽 – 坂本龍一

ジャック・セリアズ – デヴィッド・ボウイ
ヨノイ大尉 – 坂本龍一
ハラ・ゲンゴ軍曹 – ビートたけし
ジョン・ロレンス英軍中佐 – トム・コンティ

ヒックスリー俘虜長 – ジャック・トンプソン

金本 – ジョニー大倉
デ・ヨン(オランダ軍兵士) – アリステア・ブラウニング

フジムラ中佐 – 金田龍之介
イワタ法務中尉 – 内藤剛志
イトウ憲兵中尉 – 三上寛
拘禁所長 – 内田裕也

女性が1人も出てこないというのもこの映画の1つの大きな特徴と言えますね。実は日本兵の中には当時新人だった三上博史が出ていますよ!

※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。

 

 

感想

  • ホモセクシャルがメインテーマではない
  • 今の日本人こそ観るべき1本
  • 全てを洗い流す坂本龍一の音楽

描いたのは同性愛ではない

邦画でも屈指の難しさを誇る映画だと思う。

どういった解釈が正解なのか?そもそも正解の解釈があるのか?今作品の批評はまさに十人十色・・・当時の映画評論家でさえ感想が全く違う。面白いのは意見が対立してるのではなく違う感想になっているという点だ。

この映画は序盤に、朝鮮軍属の金本という男が捕虜のオランダ人兵士を犯してしまい、それにより罰せられるというシーンがある。これにより同性愛=禁忌という認識を観客はすりこまれる。その上で裁判のシーンにて、セリアズに見とれてしまうヨノイ・・・別に作中で説明があったわけではないけど、この時ヨノイはセリアズに一目惚れしてしまったのだろう。

これは二・二六事件で死ぬはずだった事を、ある意味で誇りとして生きているヨノイにとって、あまりにも衝撃的な自我の目覚めになってしまう。同時に日本人の高尚な精神性を守り、軍律に準じて生きている中で強い自己矛盾葛藤を覚えてしまった。剣術に勤しんでいたのは、抑えても無限に湧き上がってきてしまう欲情を拭い去る為・・・なんて育ちの良い若者の青春なんだw

一方、ハラロレンスの不思議な関係性が同時進行で描かれていく。ハラは攻撃的で短気、品性など生まれる前に捨ててきたような男だが、どこか子供っぽさを持っていて、日本語が話せるロレンスと少しずつ仲良くなっていく。「メリークリスマス!」ハラは、唯一覚えた英語をロレンスに何度も何度も嬉しそうに言っていた。ヨノイや他の陸軍兵士には絶対に見せない純真無垢な笑顔で・・・。なんと粗雑な男の青春だろうかw

確かに舞台は戦時中のジャワ島だけど、見せられているものはまるで学生達の群像劇だ。

今作品はあまりにもヨノイとセリアズの同性愛というイメージが強いが、それはあくまでも禁忌を犯してしまいそうなヨノイの心の揺れ動きを表現する為に使われた1つに過ぎない。ヨノイの不器用な愛情と、ハラの子供っぽい友情・・・そして、その対比をしつつ描かれた日本人の愛らしくも奇妙な人間性こそ今作品の本質だと僕は解釈した。

1人で勝手に自己矛盾と戦い自制したり、愛情表現の仕方がわからず悩んだり、外国へのコンプレックスからくる憧れが強く、そこからにじみ出るミーハー気質、反面素直な吸収性・・・全て日本人らしさがあるよね。

そして何よりもラストシーンのハラの笑顔・・・ここにこそ日本人の本質がよく描かれていた。

ラストシーンの真意

メリークリスマス、メリークリスマス!ミスターロレンス

あまりにも印象的なラストシーンだよね。現代映画の方程式が1つもハマらない大島渚独自の論法で描かれていく今作品は、理解に苦しむ人も多いかもしれない。それでも、このラストシーンにビートたけしが笑って放った名ゼリフと、その直後に流れ出す坂本龍一の名曲によって深く考えさせられてしまう。

「なんだろう?この映画・・・」

もはや大半の人は何について考えさせられてるのかさえもわからないのに、深く深くこの映画について考えてしまう。僕は僕なりに1つの解釈に着地して今こうして書いているけど、他の全く違う解釈をした人を否定するつもりは全くない。何なら「そういう解釈もあるのか!」と意見交換したいくらいだ。それぐらい今作品は人によってとらえ方が変わると思う。

もし大島渚が狙って作ったとしても、天然でこうなったとしても・・・どちらにしても素晴らしい監督だ。

ちなみにラストシーンでのハラの笑顔、僕はロレンスに対する感謝悔しさ・・・そして悔しさを見せない為の気概を感じたよ。ハラとロレンスの間には戦時下でも嘘偽りなき友情が育まれていた。次の日に処刑が決まっているハラの所に会いに来てくれたロレンス・・・ハラは嬉しさもあるが、反面あまりにもやりきれない辛く悔しい気持ちも持っている。でもその悔しさを友人であるロレンスには見せるべきではないんだよね。だからこそハラは目を赤くするも涙を流さず、全力の笑顔でおちゃらけたんだ。

友人に気を遣わせまいとするその気概・・・これこそ日本人らしい相手への敬意の表し方であり、最大限の礼儀だと言えるんじゃないだろうか。

坂本龍一、素晴らしすぎ

僕は大島渚監督がこの映画を作って残してくれた事に感謝したいし、最大限の拍手を贈りたい。

今の日本人というのは老若男女問わず、僕も含めて腑抜けてしまったよねw景気が下がっただの、格差が広がっているだの、たまにストレスがたまると社会批判という大義名分を使って八つ当たりをしてみたり。自身でもあまりよくないよな~と思いつつも、つい低俗な思考になったりしてしまう。

でもこの映画に出てくる日本人のヨノイとハラは全く違う2人だけど、どちらも高貴な精神性を持っている。それは現代の日本人が忘れてしまったものだ。つまり今作品を誰も観なくなり、観ても理解できなくなってしまった時こそ、日本人という民族の消滅なのかも・・・なんて三島由紀夫みたいな事を思ってしまった。三島と対談した事がある大島渚監督もどこかで意識していたんだろうか。

余談が過ぎたけど、最後に坂本龍一について。

まるで映画全体を優しく包み込むような名曲だ。特にエンドロールへの入り方は異常な余韻を作り出している。この映画で描かれる同性愛、友情、戦争、人間の生き方など様々な物事全てにフィットする不思議な旋律、もはや天才という言葉じゃ安っぽく感じるレベル。それもたった1曲の音楽で・・・どういう感性をしてるんだか、素晴らしすぎるよね。

この曲を「映画の音楽なんだ!」と言えるのはシネフィルにとって、そして日本人にとって大きな財産だよ。

評価、視聴方法

これぞ異色のキャスティング

大島渚監督は生前に「俳優は演技よりも人物そのものが大切なんだ」みたいな事をおっしゃったそうです。

この映画の為の言葉と言っても過言ではありませんよねwデヴィッド・ボウイ坂本龍一ビートたけし・・・確かに3人とも俳優が本業ではないですし、決して演技が上手なわけではありません。ですが三者三様の異彩を放っているというのは、さすがであり何とも不思議な光景でしたね。

この作品で坂本龍一は初めて映画音楽を手掛け世界にその名を轟かせました。ビートたけしは後に世界の北野と呼ばれる素晴らしい映画監督になっていきましたが、大島渚監督にはかなり影響をうけたそうです。これ程まで異色の才能が集った映画は他にないかもしれません。今は令和の時代ですが、是非若い世代にも昭和の名作を堪能してもらいたいと思います。

心地よい見応えがありますよ。

「戦場のメリークリスマス」の視聴方法

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大島渚監督の事を「僕と大島は戦友だった」と語った篠田正浩監督の少年時代も、今作品と同じく戦時中のお話を綴った映画でかなり素晴らしい名作なので心よりオススメしますよ!

では、良き映画の時間をお過ごしください。