映画「のぼうの城」あらすじ、感想【田楽踊りで戦った成田長親】

のぼうの城

400年前の史実に基づいた歴史もの。コメディ的な作品かな?と思って観たら意外に感動しちゃいます。

TBS開局60周年を記念して作られたのでキャストも超豪華!脇に主役級が集まってますが、主役の成田長親を演じた狂言師の野村萬斎がこの映画において一番の光を放ってますね。独特な声と演技は唯一無二、特に目の演技というか目力?が個人的には大好きです。

ジャンル:ヒューマンドラマ歴史モノ
作品時間:144分

作品情報

第36回日本アカデミー賞において、以下の10部門で優秀賞を受賞してます。

  • 優秀作品賞
  • 優秀監督賞 – 犬童一心、樋口真嗣
  • 優秀主演男優賞 – 野村萬斎
  • 優秀助演男優賞 – 佐藤浩市
  • 優秀音楽賞 – 上野耕路
  • 優秀撮影賞 – 清久素延、江原祥二
  • 優秀照明賞 – 杉本崇
  • 最優秀美術賞 – 磯田典宏、近藤成之
  • 優秀録音賞 – 志満順一
  • 優秀編集賞 – 上野聡一

ちなみにこの年の最優秀作品賞は「桐島、部活やめるってよ」という邦画屈指の傑作でしたが、善戦したというか、めちゃくちゃ評価高かったのがわかりますね。

あらすじ

「この城、敵に回したが間違いか」天下統一目前の秀吉が唯一、落とせない城があった。天下統一目前の豊臣秀吉に唯一残された敵、北条勢。周囲を湖で囲まれた「浮き城」の異名をもつ「忍城(おしじょう)」もその一つ。忍城ではその不思議な人柄から農民たちから“のぼう様(でくのぼうの意)”と呼ばれる、成田長親(なりた ながちか)が城を治める事に。それに対し、秀吉より2万の兵を預かった石田三成は忍城に迫る。忍城にはたった500人軍勢・・・相対するは2万の大軍!絶対絶命の戦、果たして勝利はどちらに転ぶのか?

キャスト、スタッフ

監督犬童一心、樋口真嗣
原作和田竜『のぼうの城』
脚本和田竜
プロデューサー久保田修、小川真司

成田長親 – 野村萬斎 
正木丹波守利英 – 佐藤浩市
甲斐姫 – 榮倉奈々
酒巻靭負 – 成宮寛貴 
柴崎和泉守 – 山口智充
成田氏長 – 西村雅彦
成田泰季 – 平泉 成

石田三成 – 上地雄輔
大谷吉継 – 山田孝之
長束正家 – 平 岳大
豊臣秀吉 – 市村正親 

和尚 – 夏八木勲
北条氏政 – 中原丈雄
珠 – 鈴木保奈美
たへえ – 前田 吟
かぞう – 中尾明慶
ちよ – 尾野真千子
ちどり – 芦田愛菜

ひゃー!総額いくらかかったんだろwてかあの子供、芦田愛菜だったんですね・・・今初めて気が付きました。

※ここからはネタバレもあるのでご注意ください。

 

 

感想

  • 戦国の世で笑いと喜びを求めた人
  • 上地雄輔が侮れない名演技
  • 田楽シーンは圧巻の野村萬斎節!

のぼう様と民に愛された成田長親

時代は戦国、秀吉が天下統一まであと一歩というところ。埼玉県の行田市にあった忍城(おしじょう)が舞台。

成田長親はこの忍城を治める成田家の一人、ただ城主ではなく城主の親戚。昔の日本では直系の長男以外は立場がないというか、城主になれないので武芸や書など何かしら別の道を極める事を目指したんだけど、実際はやる事ないからふてくされて今でいうニートになったり不良化したりしてたんだよね。

ちなみに北条家がいたのは小田原。だから埼玉の奥地の忍城なんてあまり力を入れなくていい地域なんだけど、石田三成に武功をあげさせたい秀吉からターゲットにされてしまう。忍城の城主・成田氏長は北条方として小田原城に援軍へと向かうので、長親の父・泰季が城主の代わりとなるが病に倒れてしまう・・・というわけで”でくの坊“と呼ばれていた長親が城代に着任する。攻めてくる石田三成は2万の軍勢、対して成田家家臣は500人・・・本来、この圧倒的な差は戦争しないで成田家が頭さげて終わる話。というか勝てるかっ!

もちろん家臣から末端の兵、農民までもが「こりゃ大変だ、こりゃ無理だ!」と慌てふためく。が、成田長親だけはのんびりだらり。「どちらにもつかず、今まで通り暮らせないかな~」とふぬけた顔で笑ってる始末。こんなバカが城代では選択肢などない・・・家臣たちは皆で話し合い北条方ではなく関白秀吉に頭を下げる事を決意する。

しかし問題は石田三成の使者が来た時に起こる・・・使者は「戦をするのか、頭下げるのか返事よこせ」と横柄な態度をとってきたが、長親はまさかの「戦いまする」と返答。その顔はふぬけたバカじゃなく城代・・・いや、武士の顔になっていた。

さてさて困った、家臣は長親を問い詰め説得するも長親は「強き者が弱き者を足蹴にする、これが人の世か?嫌なものは嫌なのじゃ!」と名言を吐きつつ言う事を聞かない。仕方ないから家臣は農民の方々に「戦する事になっちゃったから避難してくれ、すまん」と説明をしにいくが「勝てるわけないだろ!誰が戦するって決めたんだ!」と農民たちは怒る。そりゃそうだ、2万人vs500人って・・・。

呆れ、怒りつつも家臣は「・・・長親じゃ!」と叫ぶと、農民らは大爆笑しながらこう言うんだ。

長親?しょうがねえな、のぼう様が戦するってえなら俺ら農民が助けてやるしかねえだろ!

このシーンはとても良い。至極良い。何をやらせてもダメな”でくの坊”であるのぼう様・長親、でも面白くて農民の事を大切に考えている事を農民たちはよく知っていたんだね。

  • 2万人vs500人(農民含めても計3000人)
  • でくの坊であった長親が殿様として民の前に立つ!
  • その長親に訳も聞かず全面協力する農民たち

素晴らしい導入だよね。映画として、もちろん一つの物語として、この前提条件はもはや名作である。

圧巻の戦シーン、上地雄輔から忍城を守れ!

とうとう石田三成が2万の軍勢と共に到着、忍城の前に陣を張る。一方、忍城側は農民を含めても3千・・・各門に名だたる役者が相対する。

この戦のシーンがまた素晴らしく、昨今の大河ドラマよりもしっかりできていると思う。

そして何より石田三成を演じる上地雄輔がかなり良い。この映画は2012年公開、これよりほんの少し前にヘキサゴンという島田紳助司会のテレビ番組で上地雄輔がバカキャラとしてよく出ていたから、当時は上地雄輔を役者としてみてる人って少なかったのでは?むしろ嫌いって人も多かったと思う。しかしご覧あれ、この作品において彼は素晴らしい悪役を務めている。いやいや、他の映画でも本当に良い演技をしていて心から素晴らしい役者の一人だと言っていい。芸人・品川庄司の品川祐が監督した漫才ギャングや、超高速!参勤交代クローズZEROなど、若手バイプレイヤーの中ではかなりの安定力である。

そんな上地三成は消耗戦ではなく、天下の秀吉を真似して水攻めを決意。これは史実なので、今もその一部が残っていて、当時なんと石田堤という全長28kmにも及ぶ巨大な防波堤を作らせた。そして三成の号令により川を決壊・・・忍城はそのほとんどを飲み込まれてしまう。その為、赤子も含め沢山の農民が犠牲になった。それを目にした長親は涙を堪えながら叫ぶ。

わしは悪人になる!」と。

この言葉の真意については最後に。

長親が命を賭けた田楽踊り

さて佳境に入り、この映画の大見せ場がくる。

水攻めで、沢山の犠牲も出た中、何とか生き残った忍城の面々だが逃げ場は無し、もはやこれまでか?という時に一隻の舟が敵の大軍の前に現れる。忍城の動きを見張っていた2万の石田軍はざわめき、どよめく。その舟に乗っていた男はひょうきんな声と動きで田楽踊りを舞い始める。石田方の兵は爆笑し、気が付けばその男の田楽踊りに合いの手をいれ、共に踊り出してしまう。実はこの男こそが忍城の城代・成田長親本人なのだが、末端の兵はわかるわけもなく。

石田三成は家臣から長親本人だという事を聞くも「なんと豪気な!」と感嘆していたが、そんな折、秀吉が水攻め見物として現地に来ると一報が入り、焦った三成は即座に長親を銃で撃ち殺せと命ずる。山田孝之演じる大谷刑部は「敵も味方も魅せられておる、今やつを討ち取るのはやめろ!」と止めるが、三成は聞く耳持たず。銃弾は長親を撃ち抜いてしまう。

だが、これこそが長親の狙いだった。

ここは長親のバカげた田楽踊りのせいで、まるで有名アーティストのライブ会場のように盛り上がって笑っている面白いシーンなんだが、同時に長親の覚悟を知っている為、ハラハラが全然止まらない。それどころかその覚悟ゆえ、涙さえ流れてくるほどだ。さすがにこれが全て史実とまでは言わないが、一国のTOPが民の為に体を張る姿というのは見入ってしまうよね。それにしても映像と真逆の感情を抱かせるというこの構成と仕掛け、制作陣の狙いは完璧に表現されていたと思う。

結果、その姿を見た農民らが奮起し石田堤を壊し水を決壊させる。水はひき、またも2万vs3千の全面戦争という泥沼に突入するかと思った矢先・・・三成のもとに小田原城陥落の報せが入り終戦。これにて映画・・・いや、長親と忍城の戦いは終焉を迎える。

評価、視聴方法

「わしは悪人になる!」の真意

観終わったあと調べてみましたが、脚色はあれど確かに史実でした。

素晴らしいドラマのある物語ですね。日本史において決してメインにはなりませんが、戦国の世において平和を願い、小さな笑いと喜びを大切にし、民を愛し、そして愛された成田長親。城下に降りてきて一緒に農作業をしたり子供と遊んだりする”でくの坊“、こんな人が殿様だったら楽しいでしょうね。

さて・・・「わしは悪人になる!」と怒った長親、これはどういう意味だったのか?

そもそも2万vs3千という勝ち目のない戦い・・・その上、水攻めでもはや負け濃厚でした。この状況下で兵を鼓舞するというのは死に追いやってしまう事と同義なんですよね。ただ、そうしてでも長親の中で理不尽な戦というのが許せなかったんでしょう。そしてこれが人の世だというのが悔しかったんじゃないか?と僕は思います。でも戦だろうがなんだろうが、自分についてきてくれた人達を死なせてしまう道を選ぶ・・・つまり、民にとって悪人になってでも筋を通すという苦渋の決断と覚悟だったのでしょうね。

キャストだけ見ると三谷映画のような雰囲気があるのでコメディっぽく思ってる人も多いかもしれませんが、結構シリアスで邦画歴史物の中でも屈指の名作ですから観てない方は是非ご鑑賞を!

「のぼうの城」の視聴方法

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では、良き映画の時間をお過ごしください。