カルト宗教の実態をブラックユーモア全開で描いたビートたけしの原作を、北野映画の助監督を務めていた天間敏宏がメガホンをとった上質なコメディ映画です。
げのちゃん
オウム真理教が引き起こした地下鉄サリン事件が1995年、その教祖であった麻原彰晃は、1991年にビートたけしと対談をしています。そしてこの問題作が公開されたのは1993年・・・もはや予言ともいえるようなタイミングでした。
別にオウム真理教のお話ではないですが、宗教や人間の怖さと滑稽な様を皮肉たっぷりに描いた今作品の風刺は現代でも通用する非常に面白い1本と言えます。
[ジャンル]コメディ、ヒューマンドラマ[作品時間]95分
[公開日]1993/11/20
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もくじ
作品情報
受賞歴
- 優秀助演男優賞 – 岸部一徳
- 新人俳優賞 – 萩原聖人
- 話題賞(俳優部門) – 萩原聖人
この頃の萩原聖人さんは飛ぶ鳥を落とす勢いでドラマにも引っ張りだこでした。ただ、2019年のダウンタウンなうに出演した時「当時はかなり尖がっていた」と言ってましたw
あらすじ
スタッフ・キャスト
[原作] ビートたけし「教祖誕生」
[監督] 天間敏広
[脚本] 加藤祐司、中田秀子
[音楽] 藤井尚之
[高山和夫] 萩原聖人
[司馬大介] ビートたけし
[呉] 岸部一徳
[駒村哲治] 玉置浩二
[洋子] 山口美也子
[久栄] 南美江
[朋子] 国舞亜矢
[運転する男] 津田寛治
[政子] もたいまさこ
[イチャモンをつける男] 寺島進
[初代教祖] 下條正巳
※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。
感想
- 宗教の裏側をシニカルに描いた傑作
- 玉置浩二の演技がリアルで怖すぎw
- クライマックスとラストのオチが秀逸!
カルト宗教にハマる理由とは?
今作品はあくまでもカルト宗教をコミカルに描いた上質なコメディだ。
一人旅をしていた主人公・和夫・・・萩原聖人が演じてるわけだからもちろんイケメンなんだけど、これが良い意味でどこにでもいそうなごく普通の青年に仕上がっている。
和夫は旅の途中である新興宗教団体の方々に出くわす。ビートたけし&岸部一徳という邦画界屈指の胡散臭さを誇る2人が囲む真ん中に下條正巳演じるこれまた胡散臭い教祖wあまりにも濃すぎる3人・・・彼らは信者を引き連れて過疎地に出向き老人達の前で勧誘演説をしていた。
「今日は皆様の目の前で奇跡が起こります!まず水の上を渡る!次に水の中で10分間呼吸を止める!そして万病を治します!」
こんな戯言をビートたけしが言ってるんだから冒頭から笑ってしまうw実際に昔のテレビ番組で、たけし軍団の皆様が似たような事をやらされてた気がするけど、とにかくそれくらい滑稽な事を宣っているのだ。
これが少数の人達は信じてしまうんだから宗教とは恐ろしい。別に映画の中の話だけじゃないよね・・・オウム真理教を筆頭に今でも世界中で数多に存在するカルト宗教団体。別に真っ当な宗教を信仰するのは否定しないけど、明らかに嘘だとわかるような言葉や状況を信じ、のめり込み、気が付けばギンギンな目つきで布教活動してる信者の姿はあまりにもえげつない。
では、何故信じてしまうのか?
大方、洗脳されていると言っていいのだろう。客観的に見たら可哀そうに思えてしまうけど、実際の当人は意外と心地よい人生だと感じている事が多いのも宗教の不思議なところ・・・今作品が描いているのは、こうした詐欺そのものと言ってもいいレベルのクソカルト宗教の裏側だ。
ぶっちゃけ今作品はゾッとするような恐ろしい世界を描いているんだよね。でもこんなアンタッチャブルな題材だというのに、ケラケラ笑えてしまう上質なコメディになっているのがシンプルにすごすぎる。
北野武という天才は常に唯一無二の才気を放っていると思うけど、この時代は特にヤバい。
玉置浩二の怪演がやばい!信者そのもの!
今作品はリアルな人間臭さのある登場人物が多い。
遊び半分でついてきた主人公の和夫、たちの悪い小悪党・司馬と呉、元ホームレスの教祖様と、どいつもこいつもエッヂの効いたキャラクターだけど「こういう奴いるいるw」と思わせるリアリティはしっかり持っていて、それは「実話を基にしてる?」と疑うレベル。その中でも、ひときわ異様な雰囲気を醸し出しているのが玉置浩二の演じた駒村だ。
駒村は真面目で献身的、しかも優しく温厚な性格。金儲けしか興味がない司馬や呉と違い、心から教祖様を尊敬しており宗教とその教えを広めようとしている皆のお手本のような男・・・しかしこの駒村がホラー映画のような怖さを持っている。
何が怖いって、明らかに人を騙して金を設けている司馬や呉のやり方を知っている事なのだ。それでもこんなカルト宗教に入信したのは何故か?冒頭で駒村は真っすぐな目をしてこんな事を言っている。
「私が入った理由は、神様に一番近づけるからです。」
一体どういう思考回路してるのか・・・自分で決めた道を進む!と言えば聞こえはいいけど、ぶっちゃけ盲信してるだけだよね。玉置浩二の演技も絶品で決してやりすぎない適度にリアルな信者の姿は、役作りの為にどこかのカルトに入信してきたのか?と思えるほどの怪演・・・パっと見ただけならまともに見えるんだけど、よく見ると狂人にしか見えなくなる駒村はあまりにも怖かった。
ストーリーが進むにつれて司馬や呉への不満が増長し、どんどんと思考が危なくなっていく駒村の表情は必見だ。都合の悪い事は都合の良いように脳を書き換える・・・信仰という名の洗脳をうまく表現していたよ。
間違いなく、この駒村こそ今作品の肝と言っていい。
必見のラストと、そこまでの展開が超秀逸!
もう1度言うけど、今作品はあくまでも上質なコメディだ。
ストーリーの展開やテンポも無駄なく進むし、ビートたけしらしさの光るショートコントのようなシーンもクスッと笑えるものが多く、とっても観やすい映画になっている。
途中、寺島進が演じたチンピラが「お前ら詐欺集団だろ!」と絡んできた時の呉とのやり取りや、バスの中で競馬を楽しむ司馬と教祖の会話なんて北野映画そのもので、個人的に大好物だ。
今作品はカルト宗教団体の裏側を描いてるんだけど、萩原聖人が演じる主人公の和夫と一緒にどこか客観的な目線で見てるような感覚で楽しめる。だから狂信者の駒村や小悪党の司馬たちの怖い一面も、少し薄めに映って滑稽に感じるんだと思う。
この主人公の客観的視点・・・これが今作品最大の仕掛けになっている。
ストーリーは中盤から信者も増えていき、教団も一大宗教となっていくんだけど、同時に狂っていく駒村と司馬の対立も描かれ「最後はどう終わらせるんだろう?」とクライマックスへの期待が高まっていく。そして・・・気が付けば、今作品はコメディとはまるで思えないくらいゾッとするシリアスな物語に変貌していた。
あまりにも自然すぎた展開には舌鼓どころじゃない。バカげたカルト宗教団体の人達を、あくまでも客観的に見て楽しんでいたはずなのに・・・「なんでこんな事になってるんだ!?」的クライマックスは、まるでカルト宗教にハマった信者の過程そのものだよw
今作品は確かに上質なコメディなんだけど、宗教の裏側と怖さを描いてるわけで、それはそれは世にも恐ろしいオチだった。さすが北野武だ・・・まんまと落とし穴にハマっちゃったよw
ラストシーンでオマケのように置いといてくれた笑いも見事だった。
こんなに面白い邦画が埋もれてはいけない。北野武の映画が好きな人は絶対に見逃しちゃいけない傑作コメディだよ。
評価・視聴方法
隠れた北野作品と言える傑作コメディ
今作品の中身は北野映画そのもので、風刺の効いたシニカルな笑いがそこかしこに散りばめられています。宗教という触れにくい題材で、ここまで観やすくなっているのは間違いなく原作を書いた北野武という天才のおかげだと言いたいですね。
北野武監督作品は面白いものが多いですが、アウトレイジのようなバイオレンスなものではなく、菊次郎の夏や龍三と七人の子分たちのようなコメディタッチのものが好きな方ならハマる事間違いありません。
豪華な俳優陣の演技も素晴らしかったですし、間違いなく邦画史に残る傑作だと思いますので、北野映画が好きな方は是非ご覧になってみてはいかがでしょうか?
「教祖誕生」の視聴方法
現在ネットで視聴する方法はありません。
VODサイトで観る事ができるようになる日まで待てない人はDVDやブルーレイの購入、もしくはレンタルをオススメします。
(※2020/5/1調べ)
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(C)PONY CANYON