映画「菊次郎の夏」あらすじ、感想【笑えて泣ける！北野ノスタルジー】

北野武監督による8作目となるコメディ映画。

バイオレンスなヤクザ映画の印象が強い北野映画ですが、今作品は真逆と言っていいほど穏やかで優しい仕上がりになっています。

僕は北野武監督作品で、これが一番好きですね。何度観ても笑い、何度観ても「この映画を観て良かった」と思わせてくれるんです。ベタだけど愛のある笑いや、いつ観ても感じる懐かしさがたまらないんですよ！

作品情報

批評家側は61％と少し低いですが、北野映画は海外でバイオレンスな印象がかなり強いので刺激が足らないと思う人が多かったようです。

受賞歴

岸本加世子の下町のおばちゃん感は最高でしたｗ序盤しか出てこないのに印象に残る絶品の演技だったと思います。

あらすじ

スタッフ・キャスト

※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。

感想

「Summer」が名曲である理由

Summer･･･今作品を語るにはまずこの名曲だ。

カローラのCMやテレビ番組などでも使われて、今では誰もが聴いた事のある夏の定番と言ってもいいよね。

映画は世界観の演出の為にも音楽は本当に重要だ。全て綿密に計算されているとまでは言わないけど、オープニングとエンディングはもちろん挿入曲まで、作り手側のセンスがかなり問われてしまう。

北野武監督はいつも映画を作る際に「音楽は専門外だから」と、とりあえず久石譲が作ってきたものに少し注文を付ける程度らしいんだけど、今作品は事前に「リリカルなピアノものでいきたい」と明確に依頼したそうだ。

コント集のようなギャグ満載の映画なのに大丈夫なのか･･･？

当時、久石譲は心配したらしい。でも北野監督が「大ギャグをやってるシーンに悲しい音楽を流して」と指示を出し、登場人物の心に持つ悲しさを表現した事で大変驚いたという･･･。

確かにそうなんだよね。夏休みなのに遊ぶ友達がいない正男の悲しさは、別にこの曲がなくても理解できるけど菊次郎というキャラクターは違う。菊次郎はこれまでどうやって生きてきたのか殆ど描かれていない。でも背中の入れ墨や老人ホームにいる母親、不器用な性格や言葉遣いなどが、Summerという名曲のおかげで勝手に菊次郎のバックグラウンドを想像してしまうんだ。

久石譲のSummerは間違いなく夏を感じる素晴らしい名曲だ。でも今作品の印象があまりにも強く残っているからこそ、ポップで明るいメロディの中にどこか哀愁や懐かしさ、さらには寂しさ、悲しさなども感じさせてくれるんだと思う。

北野武という映画監督、やはり天才だわ。

ロケ地からも感じる日本の情緒とノスタルジー

今作品にはダイナミックなクライマックスがあるわけじゃない。

グッと食いつかせるフックも皆無だ。なんせただ正男が走ってくるだけのシーンなんだからｗでもそんな変哲もない冒頭にも関わらず、しっかりとにじみ出てくる懐かしさは一体なんなんだろう？

浅草が地元じゃない人でも感じない？田舎に住んだ事がない人でも懐かしくない？

正直わけがわからない･･･我々日本人だけが持つ特殊能力か何かなのか。僕は今作品を何度観たかもはや覚えてないけど、いつ観ても懐かしくなって少し泣いてしまう。

いつも定位置でたまってる不良学生や「〇〇君、あそぼ！」の掛け声、どうやって生活してるのか全くわからないおじさんやおばさん等･･･僕は東京の人間だからか序盤は特にたまらない。この映画に出てくる登場人物達にとてつもないリアリティを感じてしまうんだよ。

北野作品はどれを観ても思う事がある。それは役者さん達が演技をしているというより芝居なのだ。これは個人的な捉え方だけど、演技とはあくまでも誰かを演じていて、芝居というのはただそこに居る状態というイメージがある。

今作品も演技が下手な人がチラホラ出てくるんだけど、圧倒的なリアリティがあるんだ。まるで本当にいそうな雰囲気というか･･･麿赤兒が演じたトイレの変態男とか、池袋の夜の公園で何度も見た気がするよｗ

加えて今作品は浅草、静岡県、愛知県豊橋市などロケ地も素晴らしく、例えば殺風景で何もないバス停とかも作り物じゃないしっかりと日本のリアルを感じさせてくれる。こうしたリアリティの蓄積が独特な懐かしさを作ってるのかな～と思うけど、正直本当にわからない･･･とにかく何故か少しだけ泣けちゃうんだよ。

僕はこれを北野ノスタルジーと呼んでる。

物語が進むにつれて変化していく笑いの質

今作品はコメディだ。誰の日常にも起きるごく普通の笑いが散りばめられている。

序盤は主に浅草が舞台で、カツアゲしてる中学生をカツアゲする菊次郎、競輪場でのオバカなやり取り･･･旅が始まってからもホテルでの悪ふざけや、トラックの運ちゃんとの喧嘩、バス停でのツービート漫才などずーっと楽しい。

こうした過剰な演出をせずノンビリとしたくだらない笑いだけでも本当に心地良いんだけど、今作品は正男が母親に会ってからがすごい。特に変なおじさん達とのキャンプシーンは最高に楽しい時間と化している。

最近は世界中で差別やLGBTなど人権問題への意識が高いし、社会全体でコンプラコンプラと厳しくなり映画やテレビでの表現も制限されてきたよね。確かに誰も傷つけない笑いというのは素晴らしいと思うけど、今作品で菊次郎がデブやハゲのおじさん達を罵倒する事で起こる笑いを世間はどう捉えるのだろう？

僕は子供を笑わせる為に必死になってるおじさん達から、人間的な愛と優しさを感じるんだよ。

夏の思い出を沢山作って浅草に戻ってきた菊次郎と正男･･･隅田川横でのラストシーンは何度観ても気持ちがいい。「お婆ちゃんを大切にするんだよ」と優しく抱きしめてからの「菊次郎だよ！バカヤロウｗｗ」

今作品から終始にじみ出る“大人は子供にかっこ悪いとこ見せちゃだめなんだよ”的メッセージが僕は大好きだ。

こういうのでいいんだよ、邦画はこういう後味の良さがいいのよ。

評価・視聴方法

北野武の映画は感性を震わせる

お笑い芸人ビートたけしが映画を撮ったらどうなるのか？

はじめは芸能界もそんなノリで作らせたのかもしれませんが、初監督作品のその男、凶暴につきから既に独特な雰囲気を帯びていますよね。世界まで手玉に取った日本を代表する素晴らしい映画監督だと思います。

北野映画でよく見かけますが、人を真正面から撮った静止画のようなシーン･･･僕はあの絶妙な間が大好きです。今作品でも浜辺で天使の鈴を鳴らしながら空を不器用に見上げるシーンなんかたまらないですね！人によって好みはあるでしょうけど、今作品は個人的に超オススメですので、是非一度は体感してほしい一本だと思います。

ちなみに主人公・菊次郎とは北野武監督のお父さんの名前で「異常に照れ屋で恥ずかしがり屋だった父を、そのまま映画に持ち込んだのは間違いない」と仰ってました。

「菊次郎の夏」の視聴方法

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