1968年に公開された映画史上、最も難解な映画と言われるスタンリー・キューブリック監督の名作です。
SF映画の金字塔であり、同時に上質なミステリーとなっています。これまで沢山の人が今作品について意見交換してきましたが、辿り着いた答えは十人十色・・・キューブリック亡き今、解釈の正解はわかりませんが、逆に言えば何十年と続く余韻を今も残し続けているとも言えます。賛否両論あるでしょうけど、これ程見応えのある映画は他に無い!という事は断言してもいいんじゃないでしょうか。
本記事ではあらすじ、キャスト・スタッフ情報の他に、個人的な解説と感想、視聴方法も記載していきます。
もくじ
作品情報
- アカデミー賞 – 視覚効果賞
- ヒューゴー賞 – 映像部門
- 英国アカデミー賞 – 撮影賞、音響賞、美術賞
本当に1968年に作られたとは思えません・・・映像美はもちろんなんですけど、人類が月に行く前という事を考えると、その発想力というかイメージの具現化力というか・・・圧巻の一言です。
あらすじ
ある日、猿人たちの前に、黒い石板のような謎の物体「モノリス」が出現する。やがて1匹の猿人が謎の物体の影響を受け、動物の骨を道具・武器として使うことを覚えた。時は流れ、進化を続けた人類は月に住むようになっていた。フロイド博士は月で発掘された謎の物体「モノリス」を調査していたが、400万年ぶりに太陽光を浴びたモノリスは強力な信号を木星に向けて発し始めた・・・。
キャスト、スタッフ
監督・制作 – スタンリー・キューブリック
脚本 – スタンリー・キューブリック、アーサー・C・クラーク
撮影監督 – ジェフリー・アンスワース、ジョン・オルコット
SFX – ウォーリー・ビーバーズ、ダグラス・トランブル、コン・ペダースン、トム・ハワード
特殊メイク – スチュアート・フリーボーン
編集 – レイ・ラヴジョイ
衣装 – ハーディ・エイミーズ
美術 – トニー・マスターズ、ハリー・ラング、アーネスト・アーチャー
デヴィッド・ボーマン船長 – キア・デュリア
フランク・プール – ゲイリー・ロックウッド
ヘイウッド・R・フロイド博士 – ウィリアム・シルベスター
HAL 9000(声) – ダグラス・レイン
※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。
感想
- 難解だけどシンプルなストーリー
- キューブリック監督のセンスを楽しもう
- 1968年公開とは思えない映像美は必見!
各章ごとの解説
1.人類の夜明け
冒頭から20分程、猿人たちのドキュメンタリー映像みたいなものが流れる。何もない荒野で原始的に生きる猿人たちの前に、突如として現れた謎の石板モノリス・・・このあまりにも急な非現実に猿人たちはパニックになるも、惹かれ近づき触れてしまう。これはアダムとイブのリンゴのようなもので、本能の赴くままに生きていた猿人たちが、モノリスに触れる事で進化の一歩を踏み出したという事を描いている。
そして伝説のシーン・・・ある1匹の猿人が動物の骨を手にとり、初めて道具として使う様が描かれる。交響詩「ツアラトゥストラはかく語りき」が後ろで流れる中、猿人がスローで骨を振り下ろすわけだけど・・・これはキューブリックが完全に笑わせにきてると僕は思う。どんなセンスしてるんだかw
ちなみに交響詩「ツアラトゥストラはかく語りき」とは、ボブ・サップの入場テーマソングと言えばわかる人も多いんじゃないだろうか。
で、シーンは一気に切り替わり原始時代から超近未来の宇宙へ。人間は進化を続け月に住むようになっており、その月で例のモノリスが発掘される。そこでフロイド博士は極秘調査として月面に向かうが、モノリスは400万年ぶりに太陽光を浴びた事で、突如ある強力な信号を木星に向けて発信しだす・・・。
一体、何を見せられているのか。
大半の人はこのあたりで脳から煙が出る。意味が全くわからないかもしれないけど、そんなに難しく考えないで欲しい・・・キューブリックは冒頭から1時間かけて人類史の起源と現在を描いただけなんだ。問題なのは、これがただの導入部分という事・・・小説でいうなら前書きでしかない。
ちなみにキューブリックという監督・・・彼は異常なまでに人間の狂気が好きな方で、道徳は説く反面、愚行も犯すといったような、矛盾と葛藤の中で生きている人間が大好物。こうした人間の狂気はシャイニング、時計じかけのオレンジ、フルメタル・ジャケットなど、ほぼ全ての作品で表現している。今作品もまた同じく、モノリスから知性を与えられてやっと進化していった人間が、宇宙を探索し知的生物として君臨しているという狂気の沙汰を描いていると思っていい。
2.木星使節
今作品は大きな印象を残すものが2つある。1つは謎の黒い石板モノリス、何故かめちゃくちゃ怖いよね。で、もう1つがこの章に登場するHAL9000という人工知能。今では様々な作品で人類を超越したコンピュータが、人類に反乱を起こすというアイデアは使われているけど、起源はこいつw
月でモノリスが発掘され、木星に向けて信号を発信しだした事で人類は木星探索に向かう。宇宙船ディスカバリー号には、人口冬眠中の3名のクルー、そしてフランク・プールと船長のデビッド・ボーマンという計5人の乗組員・・・そして人工知能であるHAL9000。
HALは今回の木星探索計画に疑問を抱いている事をボーマン船長に打ち明けるが、その会話の最中に船外である部品が故障している事に気づき調査するべきだと言い出す。しかし、実際に調査してみると特に故障はしていなかった・・・。
人工知能が木星探索計画に疑問を抱いている事、そして部品が故障しているという判断ミスをした事・・・この2点を目にしたボーマン船長とプールの2人は、HALの異常を疑い思考部の停止を計画する。が、HALはこれを察知し、船外活動中のプールに対して宇宙服の機能を破壊し殺害、人工冬眠中の3人は生命維持装置を切られてしまう。生き残ったボーマンは何とかHALの思考部を停止した。すると本来は木星到着後に流れるはずの動画が再生され、ボーマンは木星探索の真の目的を知る事となる・・・それはモノリスの調査であった。
だから何を見せられているのか。
映画ソムリエたちは、ここらで泡を吹く。原始時代からスタートし、説明一切無しでモノリスとかいう謎の石板が出てきたと思ったら、今度は宇宙で人間を殺す人工知能の話・・・で、また石板モノリスの登場!理解できるか!
集中して観たってわかりにくい。後日談でもあるんだけど、当時は製作予算が足らなかったりキューブリックの思い付きもあり、大幅に省略したシーンもあって余計わかりにくくなっている。ただ1章を考えずに、この章のストーリーだけ切り取ればそこまで難しくはなかったんじゃないだろうか。むしろこの章で注目すべきは、内容を理解できたかどうかよりも・・・人工知能が人間を殺すというプロットだ。HALが無機質に、そして機械的に人を殺していく恐ろしさ、SFホラーの原点と言ってもいいと思う。
3.木星 そして無限の宇宙の彼方へ
生き残ったボーマン船長は1人で探索を続け、とうとう木星の衛星軌道上でモノリスと遭遇する。そして・・・そこに発生したスターゲイトという謎の空間を通り、ボーマンは人類を超越した存在であるスターチャイルドへと進化を遂げましたとさ。
難しすぎる。
ここで名だたる映画評論家たちの心も折れ、とうとう理解したフリをして拍手喝采をしだした。特にこの最終章はえげつない程、難しい。スターゲイトのシーンは約10分・・・その間ずーっと不協和音と共にイカれた映像を見せてくるわけだから、観客からしたら罰ゲームのレベル。
と、これが今作品の全貌なんだけども・・・そりゃ理解できない人がいてもおかしくないよねw初めて観た当時小学生の僕も、意味が全くわからずフリーズした覚えがある。
でも、この映画の描いている事って難解に見えて、実はシンプルなストーリーなんだ。
この映画の解釈について
「人類の歴史ってこんな感じだったら面白いと思うんだけど、皆はどう思う?」
ざっくり言うと、これが今作品のメッセージ。
人類はモノリスを通じて猿人から人間に進化を遂げ、400万年後、今度はモノリスを通じて人間からスターチャイルドという存在へ進化したよって話なんだ。1章で人類の起源~現代(映画内においての現代ね)、2章で現代に起きた事件(HAL)、3章で未来(スターチャイルド)を描いてる。つまりキューブリック監督とアーサー・C・クラークが描いたのは、人類史+人類の未来(予言)というわけだ。
ちなみに3章でスターゲイトを抜けたあと、ボーマン船長が綺麗な部屋で暮らしながら老いていき、突如としてまたもモノリスが出現・・・そしてスターチャイルドが出てくるよね。ここが今作品で最も難解な部分かもしれないけど、変な言い方すると理解できなくていいんだ。僕達現代人は、まだスターチャイルドに進化してないよね。未来とは、そんな簡単に理解や想像できるものじゃなく、理解しがたい何かじゃないといけない。それを映像で表現したのがスターチャイルドという事だ。
どうだろう?確かに難解な映画だけど、キューブリックとアーサー・C・クラークという変な2人の妄想を映像化しただけってわかったら、愛を持って言いたくならないかな?
「こいつら、バカじゃねーのw」と。
ただ。こいつらね・・・人工知能HAL9000だとか、モノリスという発想、今でも通用する宇宙空間の映像美やスターチャイルドというオチ・・・これ全部、今から50年以上前に考えて作ったんだよ。貴方は50年後の人間ってどうなってると思う?どんな進化を遂げてると考える?それを映像化するとなったら、どんなアイデアが浮かぶ?そんな自問自答をすればするほど、この映画がどれ程すごい作品なのかと驚嘆してしまう。
100年後の人間はこの映画を観て何を思うんだろうか。意見を聞いてみたいのは僕だけじゃないはず・・・。
評価、視聴方法
SF映画の原点にして頂点
この映画は公開当時も賛否両論で真っ二つだったそうです。
そりゃそうですよねw現代の僕らが観たって理解しがたいものが描かれているわけですし、まだ人類が月に行く前・・・1968年の段階で、既にこの構想と映像表現の技術、感性を持っていたのは信じられないレベルです。
ちなみに製作期間は4年で、当時は色々な学者を集めてディティールをつめていったらしいですよ。それともう1点すごいと思うのは、色々な手法とアイデア。特に2章の人工知能が人間を襲うというプロットは、秀逸なSFホラーとしてエイリアンやターミネーターなどにも受け継がれてますが、今でも通用しますよね!
今作品は日常的に映画を観ない方でも人生で1度は観て欲しい作品です。もしかしたら面白くないと感じる人もいるかもしれないですが、それでも何かしら心に残るシーンがある映画だと思いますよ。
キューブリックとはそういう作品を撮る監督です。
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キューブリック作品はかなり好みがわかれますが、シャイニングやフルメタル・ジャケットなんかも面白くて超オススメです!
では、良き映画の時間をお過ごしください。