映画「桐島、部活やめるってよ」あらすじ、感想【半端ない余韻の青春群像劇】

吉田大八監督による邦画屈指の青春群像劇

過去観た映画の中で一番余韻があったかも・・・。観れば観る程、より面白く感じる底知れない名作だと思います。ただ、この映画をつまらないと言う人の意見もよくわかるのです。というわけで、本記事では面白いと言われる理由と逆につまらないと感じてしまう理由を、僕なりに解説していこうと思います。

正直、この監督さんを今まであまりよく知りませんでしたが、他作品もこれを機に観てみたくなりましたね。

作品情報

第22回小説すばる新人賞を受賞した朝井リョウ先生のデビュー作が原作。映画は2012年に公開となりました。

  • 最優秀作品賞
  • 最優秀監督賞 – 吉田大八
  • 最優秀編集賞 – 日下部元孝

アカデミー賞は3部門受賞、橋本愛東出昌大は新人俳優賞優秀賞となっています。

はっきり言って役者の皆さん、全員素晴らしかったと思います。特に個人的に大好きな太賀はいつも通り最高でした。相変わらずの丁度良い目立たなさw末恐ろしい俳優ですね。

あらすじ

ありふれた時間が校舎に流れる「金曜日」の放課後。1つだけ昨日までと違ったのは、学校内の誰もが認める“スター”桐島の退部のニュースが校内を駆け巡ったこと…。ただそれだけの事で右往左往し交差しだす微妙な高校生の人間関係は、少しずつズレが生じ始めていく。たった数日の中で描かれる本物の青春群像劇。

桐島、部活やめるってよ

キャスト、スタッフ

監督 – 吉田大八
脚本 – 喜安浩平、吉田大八
原作 – 朝井リョウ

▼映画部
前田涼也 – 神木隆之介
武文 – 前野朋哉

▼帰宅部
菊池宏樹 – 東出昌大
寺島竜汰 – 落合モトキ
友弘 – 浅香航大

▼カースト上位の女子4人組
東原かすみ – 橋本愛
飯田梨紗 – 山本美月
野崎沙奈 – 松岡茉優
宮部実果 – 清水くるみ

▼バレー部
久保孝介 – 鈴木伸之
小泉風助 – 太賀

▼テナーサックス女子
沢島 亜矢 – 大後寿々花

▼野球部
キャプテン – 高橋周平

音楽 – 高橋優「陽はまた昇る」

今こうしてまとめながら書いていて気付いたんですけど、あれ松岡美憂だったんですねwつい先日観た万引き家族とは別人でしたわ・・・本当役者ってすごいですね。

 

ここからはネタバレ有りの感想になるのでご注意くださいな。

 

 

 

 

感想(ネタバレあり)

  • 青春群像劇の皮をかぶった何か
  • 無駄な説明を一切省いた映画らしい映画
  • 若者じゃなくても突き刺さる恐ろしい刃を持った作品

描いたものは若者ではなく日本人の闇

物語は恐ろしいほど静かに始まる。

高校2年生の日常をただ淡々と描き続ける序盤は、クラスメイトの友人関係図や部活の風景を、まるでただ高校でカメラを回しただけかのように良い意味で”雑”に映していく。映画を普段観ない人を蹴落とすかのように現実を描いていき、そこには映画的、エンタメ的なツカミというものがほぼない。結構この時点で離脱したくなった人も多いと思うが、何故か少しハラハラというかワクワクしながら観続けてしまう。その見続けてしまう理由こそ・・・桐島という存在。タイトルにもなっている桐島というキャラクターがいつ出てくるのか?という期待感は映画を観る前から頭にあるので、どうしても待ってしまう。しかしそんな勝手な期待感を持って観ていると、いつのまにか話の本筋に引きずり込まれていくんだ。

基本的には二人の真逆の主人公が物語を引っ張っていく。一人は映画部で映画が大好き、映画秘宝を楽しそうに愛読している映画オタクの前田(神木隆之介)と、もう一人は高身長でイケメン、スポーツも勉強もそつなくこなすクラスのカースト最上位リア充、宏樹(東出昌大)。

前田は同じく映画好きで映画部の武文くらいしか友達がいないが、2人は毎日映画の話をしつつ、ゾンビ映画の撮影を楽しみながら高校生活を送っている。反面、宏樹はイケメン美女揃いのカースト上位グループの一人で、彼女もいるし同じくカースト最上位である桐島とは親友。ただ・・・何かに打ち込めるほど好きなものがないせいか、どこか退屈そうに高校生活を過ごしている。

ってこれ、別に学生の頃だけじゃないよね。社会に出たってこのヒエラルキーは保たれていて、もっと言えばこの映画自体が大人を含めた全ての人達を縮小化したような構図。だから次々に出てくる様々な学生の誰かを自分と重ねて観てしまう。つまり今作品が描いたものは若者の実情というよりも・・・それはそれは恐ろしい現実なんだ。

はっきり言うけど、この映画は世間で言われている青春群像劇モノとは全く違うから気を付けてくれ!

この映画をいまいち楽しめなかった人もいる。それは何故か?

何故つまらないと感じてしまう人がいるのか?答えは簡単だ。この映画にDISられてるからさ。

この映画の恐ろしいところは青春群像劇とうたって僕らに超絶リアルな現実という刃をつきつけてきた事だ。「神木君出てるんだー!」とか「橋本愛かわいい!」とか、そんなライトなきっかけで観た人達をバッサリなで斬りするかのような・・・多分、いまいち楽しめなかったという人はこの映画に対してなんか突然終わったというふわっとした感覚があるんじゃないかな。え?これで終わり??みたいな。

モヤモヤした何かが心にひっかかっているんだけど、そのひっかかっているモノが何なのかはわからない・・・。

あのね、実は僕を含め今作品を超面白い!と言ってる人達も同じモノが引っかかっているんだ。そしてその引っかかってるモノとは誰もが現実で避けてきた事なんだよ。言うなれば誰もが抱えている潜在的な禁忌。「これ、君のトラウマじゃない?落としたでしょ、拾ってきてあげたよw」とニヤニヤしながら渡してきたのが吉田大八監督。しかも、かなり説明を端折って気付きにくく作ってきてる。いやらしい性格してるよ、この監督!(誉めてます)

「よくわからなかった」

「ただ高校生活をちょっとリアルに描いただけじゃないか」

「なんで最後宏樹は泣きそうになったの?」

もちろんこんな意見が出てもおかしくないんだよ。世に言う煌びやかな青春群像劇を観に来た人達にとってはほとんど罰ゲーム。極めつけにラストのエンドロールで高橋優のあの曲を聴かされたらたまったもんじゃないw

でもだからこそ面白いんだ。ここまで心をエグってくる映画ってかなり希少だし、演出や構成の完成度たるや尋常ではないと僕は思った。

この映画は話したい事がありすぎて終わらなくなるから、全ての答えとなる最後のシーンだけ解説しておくね。

ラストシーンをどう考えるべきか(ネタバレ注意)

皆の憧れである桐島、彼は部活をやめたと噂がたち学校に来なくなっていたが・・・とうとう屋上に姿を見せる。

それに気づいたクラスメイトの女子4人組、桐島と同じバレー部員、そして宏樹たち、皆が走って屋上へと向かう。しかしそこに桐島はおらず、代わりにゾンビ映画の撮影をしていた前田たちがいた。「桐島いねえじゃねーか!」とイラだった久保孝介は前田たちが使っていた小道具を蹴っ飛ばしてしまう。それに怒った前田が「謝れよ」と突っかかると、久保は「なんなんだよ!桐島はいねえしおかしいのに絡まれるし」と言うが、それに対し前田が「お前らの方がおかしいじゃないか!

ここから前田の胸倉をつかむ久保、それを煽る沙奈、そして久保に「試合できなくなる」と止めに入る風助、ここぞとばかりイキる友弘、さらにはそれをまわりで見てる子たち・・・彼ら全員、桐島という青春の象徴のような人間に憧れてるがゆえ、振り回されている。

しかし前田にとっては部活をやめて学校にこなくなった桐島なんて正直どうでもよくて、そんな事よりも大好きな映画の撮影の方が大切なんだよね。そんな好きな事に青春を注いでる彼からしたら、そりゃ桐島に振り回されながら高校生活を送ってきた彼らは「おかしいやつら」ってわけだ。でも彼らは最下層の前田に言われたからなのか、気付かない。自分の事をリア充だと思いこんでいて、縋り付いていて気付こうともしない。すごい皮肉だよね。

ひと悶着が終わり皆が屋上から去った後、実は一番桐島に振り回されたであろう宏樹が前田にとうとう話しかけてしまう。そこで宏樹は自分が持っていないモノをしっかりと持っている前田を通して気付く・・・自身の空虚さ、しょうもなさを自覚してしまう。耐えきれず屋上から去り、途中で桐島に電話をかける。

このラストシーンまでの流れ、本当に素晴らしい。

宏樹は全力で打ち込めるモノが自分にないという事実に気づきたくなかっただろう。それをボヤかす為に毎日桐島筆頭のリア充グループとつるんでいたんだから。そんな桐島も部活をやめちゃって、自分から離れていってしまうような感覚の中・・・実は空っぽで何も持ってなかったという事を、まさかの最下層であった前田に突き付けられてしまったんだ。そりゃ心を揺さぶられるさ。

最後、桐島に電話をかけてしまったのは完全に現実逃避。このまま気付かなかったフリをして周りからチヤホヤされる生活に戻りたいというヘルプミーのサインとも言える。でも電話をかけながらも視線は野球コートへ・・・そして電話のコール音はなくなり、代わりに野球部の声が響く。果たして宏樹は途中で電話を切ったのだろうか?

というところで、エンドロールと共に高橋優の曲が流れ始める。歌い出しは「自分だけが置いてきぼりをくらってるような気がする

恐ろしい破壊力である。

最後、もし電話を切ってないなら宏樹はしょうもない人生を送るであろうバットエンド、切っていたら逆に本当の意味で充実した人生を送るであろうハッピーエンド。どっちに感じたかは貴方の今までの人生次第で違うのでは?とニヤついてるのが吉田大八監督って寸法だ。えげつない、これ以上ないエグさだ。

もう1度最後に言うが、この映画はただの青春群像劇ではない・・・恐ろしい現実を描いた超名作である。

評価

いやあ・・・この映画は誰かと話したくなりますねw

僕は高校生時代、音楽にハマりましてバンドでギターをしていたんですが、当時聴いていたAIRの「Kids are alright」という曲の「すましたツラしてシニカル気取ってるチキン! 蹴とばせ、Kick off now!」という歌詞を思い出して苦笑いになりましたよw

青春時代って大半の人はまわりに合わせて何となく友達の輪に溶け込んで生きていませんか?これは大人になったって同じで社会経験を積んだ分、自分や周りをごまかすのが上手になっただけで、本来はこの辺りに踏み込むのってアンタッチャブルというか・・・何かしら忖度してすましたツラしてるもんじゃないですか。

前田と、あと実は野球部のキャプテンもそうなんですけど、ようは桐島に振り回されず本当に好きな事をして生きてる人ってかなり稀で、実は超かっこいいし憧れる生き方なんですよね。僕は今、ある程度好きな事して生きてるので、この映画を観た時は「皆がんばれー!」って親戚のおじさんみたいな視点で観れたのですが、20代前半の時とかにこれ観たら心をえぐられてヤバかったかもしれません・・・w

この映画は油断して観ると本当に痛い目をみますが、心をえぐられるような感情になる事だって一つの良い経験だと思いますし、そんな気持ちを揺さぶってくる映画って世界を見渡しても正直あまりないと思います。

まだ観てない方は是非!久しぶりに貴方自身を覗くような感覚・・・味わってみてはいかがでしょうか?名作である事は保証しますよ!

では、良き映画の時間をお過ごしください。