映画「紙の月」あらすじ、感想【タイトルの意味とラストの解釈】

紙の月

2014年公開。宮沢りえを主演に迎え、桐島、部活やめるってよで知られる吉田大八監督の5本目となる長編作品です。

今作品は数多の映画祭やメディアが絶賛していますね。比較したら個人的には桐島の方が断然好きですが、こちらも十分面白かったです!脇役のキーキャラクターになる小林聡美と元AKBの大島優子も素晴らしかったですね。ちなみに原作は八日目の蝉で知られる角田光代先生でございます。

本記事ではあらすじ、キャスト・スタッフ情報の他に、個人的な感想、視聴方法も記載しています。

ジャンル:クライムサスペンス
作品時間:126分

作品情報

  • 最優秀主演女優賞 – 宮沢りえ
  • 優秀作品賞
  • 優秀監督賞 – 吉田大八
  • 優秀脚本賞 – 早船歌江子
  • 優秀助演女優賞 – 大島優子、小林聡美
  • 新人俳優賞 – 池松壮亮
  • 優秀撮影賞 – シグママコト
  • 優秀照明賞 – 西尾慶太
  • 優秀録音賞 – 加来昭彦(録音)、矢野正人(整音)
  • 優秀編集賞 – 佐藤崇

すごいですよねwアカデミー賞でこれだけ評価されてるんですけど、最優秀作品賞は受賞できなかったという・・・ちなみにこの年の最優秀は岡田准一主演の永遠の0なんですけど、実は僕まだ観ていないんですよねw

あらすじ

バブル崩壊直後の1994年・・・夫と2人暮らしの主婦・梅澤梨花は、銀行の契約社員として外回りの仕事をしており、何不自由ない生活を送っていた。しかし自分への関心が薄い夫との間に小さな亀裂が入り始めていたある日、梨花は営業先である平林孝三の孫で年下の大学生・光太と出会う。これを機に少しずつ変貌を遂げてゆく梨花、いつしか金銭感覚と人生がずれ始めた彼女の行き着く先には・・・。

キャスト、スタッフ

原作 – 角田光代
監督 – 吉田大八
脚本 – 早船歌江子
主題歌 – ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ「Femme Fatale」

梅澤梨花 – 宮沢りえ(中学生時代 – 平祐奈)

平林光太 – 池松壮亮
隅より子 – 小林聡美
相川恵子 – 大島優子

梅澤正文 – 田辺誠一
井上佑司 – 近藤芳正

内藤課長 – 大西武志
小山内等 – 佐々木勝彦
小山内光子 – 天光眞弓
今井 – 伊勢志摩
奈々 – 藤本泉

平林孝三 – 石橋蓮司
名護たまえ – 中原ひとみ

中原ひとみは昔、結婚するまで東映現代劇の看板女優だった方です。今作品ではボケ始めてるお婆ちゃん役ですが、何とも言えないどこか寂しさのある笑顔で、観てるこっちが罪悪感を感じちゃいましたね。素晴らしい女優さんです。

※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。

 

 

感想

  • 大幅に改変してるからこそ読みたくなる原作
  • 圧倒的に美しい宮沢りえが美人に見えない不思議
  • 観客に委ねたラストシーン

何故引き込まれるのかわからない冒頭

吉田大八監督の作品は本当に不思議だ。

全てがそうだとは言わないが、数多の映画は冒頭10分内にインパクトを残すシーンがあるものだ。しかし今作品はかなりの徐行でスタートを切る・・・これは桐島、部活やめるってよでもそうだった。しいて言えば、宮沢りえがエロい目をした石橋蓮司に襲われそうになったシーン?いやあ・・・ここもそんなに強いフックとは言えないし、あとはよくある日常と会話を淡々と描いただけ。

にもかかわらず・・・グッと引き込まれてしまう。

どうなってるんだ!この監督の頭の中では何が行われているのか、僕みたいな凡人には全く理解できない次元で映画を作っている気がするよ。

はっきり言って、吉田大八監督はセリフなく状況やキャラクターの心情を描くのが、世界で一番上手いと思う。もちろんそれは役者の演技力もあるんだけど、目線ひとつで全てを説明したり、原作を大幅に削る引き算のセンスは本当に素晴らしい。これが全て計算してやっているのか僕にはわからないが、この無駄なきシーンの積み重ねが映画らしい余白になっていて、それが観終わった後に心地よい余韻を作っていると思う。

僕が印象に残ってる具体的なシーンだと、序盤の宮沢りえが地下鉄のホームで後ろを振り向くシーンや、終盤のデート中にいきなり真顔で一点を見つめる池松壮亮とか。別にこれらのシーンは意識して観てなきゃ気付きにくいし、もっと言えば気付かなくても問題ない。ただここが不思議なんだけど、吉田大八監督の撮る映画は何となくこういうシーンが観客の心に残るんだ。

マジでどうなってるんだろ・・・こうした説明しすぎない映画って個人的にはすごく好きだけど、一歩間違えれば意味がわからない映画になりかねないよね。冒頭から淡々と描いてるのにハラハラして、ワクワクして気が付けば鑑賞後に考えさせられてしまっている。

他の作品も次々と観たくなる映画監督だ。

紙の月というタイトルの意味

英語に直すとペーパームーン。

ペーパームーンというのはニセモノ、まやかしなんかの意味で使われる。あとニセモノでも信じれば本物に見えるという意味合いでも使われるそうだ。今作品ではまずお金だよね。そして主人公・梅澤梨花の人生そのものでもある。ただ、果たして主人公だけだったんだろうか?

小林聡美が演じた隅より子や、大島優子が演じた相川恵子・・・田辺誠一が演じた夫や、中原ひとみが演じたボケお婆ちゃんまで・・・誰もがニセモノ、まやかしの人生を歩んでいるとも捉えられる。ただ、それは現実で生きている誰もがそうだよね。友達や上司はもちろん身近な家族にだって少なからず忖度するものだし、それで人間関係のバランスをとっているんだから。

つまり、僕は紙の月=人生という意味も含んでいると感じたよ。原作の角田光代先生の考えと合ってるかわからないけど、何にしてもお金という紙の月がキッカケで破滅に向かっていった梅澤梨花・・・彼女が歩んだ人生にはピッタリのタイトルだったと思う。

ただ、ラストシーンは人によって解釈のわかれるものになっていた・・・やらしい事をしてくる監督だよ!(褒め言葉)

解釈のわかれるラストシーン

本物に見えても本物じゃない。はじめから全部ニセモノ・・・ニセモノだから壊したっていい、そう思ったら自由を感じた。だから本当にしたい事をした。

終盤、梨花が放ったセリフだ。中学生の頃から壊れていた彼女らしく実に子供じみた発言だし、身勝手な生き方だよね。でもそんな梨花と同じように抑圧された人生を送ってきた隅より子に「一緒に行きますか?」と言った時の彼女には何故か爽快感があった。忖度して生きる人生がニセモノと言われたら観てるこっちもカチンとくるんだけど、どこか羨ましくも思ってしまう。

そして問題のラストシーン・・・彼女はある地である男性に出会う。あの時、梨花がどう感じ何を考えていたのか。

ここで解釈がわかれるようになっている。ちなみに僕は自由と善意をはき違えた人間の末路に見えた。梨花は中学生時代、シスターに「受けるより与える方が幸いだとシスターは言ったじゃないか、寄付をした相手が喜んでいると思うと私は幸せなんだ」と突っかかったが、シスターから「ひけらかしは恥ずべき行為、寄付(善意)とは慎ましく行うべきだ」と叱られてしまう。

最後、梨花に果物をくれた男性はまさに善意だった。見返りを求めない慎ましい善意・・・自身の幸せの為に寄付(善意)をした梨花とは違うんだよね。今後も彼女は人の善意に気付かず、悲しき人生を自由だと勘違いしながら歩んでいくと思うと・・・何とも言えない後味の悪さがあった。

まさにニセモノ、まやかしの生活・・・つまり彼女の人生自体が紙の月そのものだ。

「ざまあみろ!」と言いたいところだけど・・・自由を制御してる事を自覚して生きている隅より子(僕達)と、自由だと勘違いしながら生き続けるであろう彼女・・・果たしてどちらが正解なのかはわからないよねw前述したようにどちらもニセモノ、まやかし・・・紙の月なのだ。

本当に吉田大八監督は性格が悪いよ!

桐島、部活やめるってよでもそうだったけど、大衆が触れないで欲しい部分をつついてくる吉田大八監督のこういうところ・・・僕は大好きだよw

むかつくけど素晴らしい映画なのは間違いない。面白かった。

評価、視聴方法

宮沢りえにしかできない芸当

今作品では池松壮亮との濡れ場も結構出てきますが、少しずつ色気が増していく宮沢りえには驚きますよ。

ただ、これは僕だけなのかもしれませんが・・・めちゃくちゃ美人なのに序盤は魅力を感じないんですよ。で、少しずつ歪んだ人間になっていっているはずなのに、何故か魅力は高まっていくんです。他の女優さんだったら・・・と考えても、僕の中では宮沢りえにしかできなかったように思いますね。

そして梨花(宮沢りえ)と対比で描かれている隅より子(小林聡美)もまた良かったです。真面目すぎてちょっとウザいおばさんという実にリアリティのあるキャラクターで、こちらもまた他の人じゃだめだったように思いましたねw他にもリアルにいそうな人が沢山出てくるので、今作品は役者達の名演技だけでも観る価値がありますよ。

おすすめ度を★3にしたのは主人公に少しむかつくからですwでもそう思わせる演技力と演出が素晴らしい映画だとご理解ください!

「紙の月」の視聴方法

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吉田大八監督は最近めっちゃ好きなんですが、まずは桐島、部活やめるってよをオススメします!すごく心に突き刺さる鉄板の名作ですよ。

では、良き映画の時間をお過ごしください。