映画「バリー・リンドン」あらすじ、感想【人間の美醜を描いた名作】

バリー・リンドン

1975年公開。18世紀のヨーロッパを描いたスタンリー・キューブリック監督の大作です。

個人的に大好きな作品で実にキューブリックらしい映画だと思います。当時をそのまま映像化したと言われるほどの美術やロケーション選び・・・クオリティの高さは尋常ではありません。その再現性は、もはや動く絵画状態でどのシーンを切り取っても芸術的ですよ!3時間もあるので、腰を据えてじっくり観て欲しい映画ですね。

本記事ではあらすじ、キャスト・スタッフ情報の他に、個人的な感想、視聴方法も記載しています。

ジャンル:歴史映画ヒューマンドラマ
作品時間:185分

作品情報

  • 作品賞
  • 監督賞 – スタンリー・キューブリック
  • 脚色賞 – スタンリー・キューブリック
  • 衣裳デザイン賞 – ミレーナ・カノネロ、ウルラ=ブリット・ショダールンド[受賞]
  • 編曲・歌曲賞 – レナード・ローゼンマン[受賞]
  • 美術賞 – 美術/ケン・アダム、装置/ロイ・ウォーカー、ヴァーノン・ディクソン[受賞]
  • 撮影賞 – ジョン・オルコット[受賞]

当時、興行的には振るわなかったんですがアカデミー賞では7部門ノミネートしました。この年はカッコーの巣の上でという超名作があったので作品賞では負けちゃいましたけど、個人的にはキューブリック作品で1番好きな作品ですね。

あらすじ

18世紀半ば、アイルランドの農家に生まれたレドモンド・バリーは従姉のノラと恋仲になるが、彼女は非常に裕福な家の当主であるジョン・クイン大尉と結婚を望む。嫉妬したバリーは彼に決闘を申し込み勝利するも、警察の追及から逃れる為に村を出る事になった。しかし道中で追いはぎに遭い一文無しとなったバリーは、イギリス軍の兵士に志願し七年戦争に参加する。アイルランドの田舎者バリーが成り上がる為に選んだ道とは果たして・・・?

キャスト、スタッフ

 

原作 – ウィリアム・メイクピース・サッカレー
監督・脚本・制作 – スタンリー・キューブリック
音楽 – レナード・ローゼンマン
撮影 – ジョン・オルコット

レドモンド・バリー – ライアン・オニール
レディー・リンドン – マリサ・ベレンスン

ブリンドン子爵 – レオン・ヴィタリ(幼少期/ドミニク・サヴェージ)
ブライアン・パトリック・リンドン – デイビット・モーリー
ベル・リンドン – マリー・キーン
サミュエル・ラント牧師 – マーレイ・メルヴィン

グローガン大尉 – ゴッドフリー・クイグリー
シュヴァリエ・ド・バリバリ – パトリック・マギー
ポツドルフ大尉 – ハーディ・クリューガー
チャールズ・リンドン卿 – フランク・ミドルマス
ラッド卿 – スティーヴン・バーコフ

フィーニー大尉/追い剥ぎ – アーサー・オサリヴァン
ジョン・クイン大尉 – レオナルド・ロッシーター
ノラ – ゲイ・ハミルトン

ナレーター – マイケル・ホーダーン

ライアン・オニールを筆頭に演技力に関してはあまり評価は高くないんですが、今作品のキャラクター達に丁度良いキャスティングだったと思います。マリサ・ベレンスンの美しさたるや・・・芸術作品のようでしたw

※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。

 

 

感想

  • こだわり尽くされたキューブリック節
  • シニカルコメディとして最高!
  • ヨーロッパの人は目を伏せる現実

完全主義者キューブリックのこだわり

「全部本物を使いたい。」

これは今作品を作るにあたってスタンリー・キューブリックが出した条件という名のワガママである。言葉で言うのは簡単だけど、是非想像してみて欲しい。ロケ地、衣装や装飾品、音楽、光源、カメラ、時代、状況設定・・・スタッフは吐き気どころではない。

この監督はその昔、プロデューサー中心で作られるハリウッドの映画製作に嫌気がさしてイギリスに渡ったんだけど、すごく簡単に言うと自分の思い通りに映画を作りたくなったのだ。結果、ロリータ以降の作品はどれも異彩を放っているけど、中でも今作品はまさにキューブリック節が効きまくっている。

逸話を調べてみると呆れるレベルで世界中から18世紀の衣装を買い占めさせたり、NASAしか使ってなかったレンズをどこからかゲットしてきたり、自然光蝋燭の光だけで撮影するだの、音楽は全て当時の古楽器で演奏させるだの、本物の城を使うだの・・・

完全主義者と言うより完全なる狂人である。

当時、イギリスに天才と謳われた美術監督ケン・アダムという人がいた。この人は007シリーズのセットを手掛けたすごい方なんだけど、別映画の製作に参加していた彼をキューブリックは強引に今作品のロケ地アイルランドに呼び出したそうだ。そして数多の無理難題な要求をした末に彼を精神病院送りにしているw恐ろしい事に入院中も毎日電話してきたそうだ。

「そろそろ仕事できそうか?」と。

結果、ケン・アダムは今作品以降、キューブリックとは二度と仕事をしないと心に決めたらしいwでもそれくらい彼の美術デザインに信頼を置いていたという事なのだろう。前置きが長くなったけど、今作品はこうした経緯もあって異常にリアリティと説得力のある18世紀のヨーロッパが再現されていて、見応え抜群どころではない。何がすごいって気品に溢れた高貴な部分だけではなく、当時の粗雑で下品なヨーロッパ人の一面や風景までも再現したのだ。

今作品はキューブリックっぽくない正統な伝記映画に仕上がっているように見えるけど、実は他のどの作品よりもキューブリックらしい映画だと僕は思う。

徹底的に映像化したヨーロッパの史実

今作品ほど18世紀のヨーロッパを再現した映画は他に無い。

後半は美術絵画展のような美しい映像ばかり出てくるけど、前半はインフラがされていない当時のみすぼらしい農村風景もしっかり映し出している。そして何よりも再現性が高かったのは人物描写だ。

この映画の登場人物は、ことごとくバカとクズしか出てこない。地位が低い人間は下品で利己的、何かあると暴力で解決し勝った者に正義が与えられる。逆に地位が高い人間は張りぼての品格で、世間体の為に地位と名誉を求め、頭にある事といえばSEX、酒、博打・・・決闘に憧れるも死の覚悟など微塵もなく、どうしようもないプライドを守りたいだけというクズのエレクトリカル・パレードだ。

主人公レドモンド・バリーはその最たる人間で、従姉と近親相姦に溺れて村から追い出され、イギリス軍兵士になったと思ったら戦列歩兵として参加した七年戦争の初陣で怖いから脱走を決意・・・将校の服、身分証、馬を盗んで同盟国プロイセンに逃亡。その後、プロイセンで警察のスパイとして国賊の疑いをかけられていたギャンブラーのシュバリエ・ド・バリバリの召使いとして潜入するも、初日でプロイセン警察を裏切りシュバリエの相棒として博打のイカサマ師に・・・。そして、さらなる至福の為に病弱なチャールズ・リンドン卿の若妻レディー・リンドンを寝取る事で、とうとうバリー・リンドンとなるのだ。

クズエピソードが渋滞してるよねw

でもこれは序の口・・・なんとここまでが前半パートとなり、後半パートはクズっぷりがパワーアップしたバリーがリンドン家の資産を散財するお話になっているwいくらなんでも酷すぎるだろ!と思うかもしれないけど、世界史を勉強した人なら当時の白人がどれほど酷かったのか知っているはず・・・冗談抜きでヨーロッパ史にはバリー・リンドンのような人がうじゃうじゃ出てくる。バリー・リンドンのモデルもちゃんといて、アンドリュー・ロビンソン・ストーニーという実在した人だよ。

つまり、この映画は利己的で思慮も浅い嘘つきクズ男が、沢山のクズを騙して成り上がり、そして少しの良心と共に堕ちていくという・・・なんとも醜い人間の栄光盛衰を、美しく且つ丁寧に描いた大傑作なのである。

ちなみに僕が1番好きなキューブリック作品だ。

この映画の本当のジャンルはコメディ

キューブリックは奇才!天才!芸術的!

今もなお評論家やシネフィルに絶賛される巨匠スタンリー・キューブリック・・・ただ、この人は結構誤解されていると僕は思う。シャイニングはホラーの金字塔と呼ばれ、2001年宇宙の旅はSFの金字塔と呼ばれているよね。間違ってないしどれも傑作なんだけど、この人の作る映画は基本的に研ぎ澄まされたシニカルコメディだ。

確かに圧倒的な映像美や独特な音楽の使い方はセンスしかない。今作品も「芸術的な映画だ!」と崇高に称賛される事が多いけど、本来はケラケラ笑って観るべき映画だと僕は言いたい。

キューブリックがどうして細部に至るまでこだわったのか?どうして18世紀のヨーロッパの風景や服装、雰囲気を忠実に再現したのか?それは最後のエピローグの為にある。主人公を筆頭にクズだらけの登場人物、インフラされてない農村の道と豪華絢爛な貴族達の社交場という圧倒的な格差のある社会描写戦列歩兵という戦術なんかあったものじゃない格好つけただけの低レベルな戦争など・・・これら全て利己的で虚栄にまみれた白人達の自慢の歴史であり真実なのだ。

これを3時間もかけて丁寧に描いた挙句、資産を食いつくされたレディ・リンドンが請求書にサインし続けるという哀れでエグいラストシーン・・・そこにトドメを指すかのようにキューブリックが添えた最後の一文がこれ。

これはジョージ3世の治世

つまり、この映画は白人の恥部を忠実に描いて、白人の皆様に鑑賞してもらったという事になるのだ。これがジョークじゃなくて何だというのかwその上で興行収入が振るわなかったと不貞腐れた映画監督・・・

やっぱりどうしてスタンリー・キューブリックという男、最高にイカれているw

評価、視聴方法

キューブリック作品の魅力

スタンリー・キューブリックは僕が愛してやまない映画監督の1人です。

人間の狂気を描かせたら右に出る者はいないんじゃないでしょうか?今作品も僕には18世紀のヨーロッパの人達の狂気乱舞に見えるんですよね。嘘と見栄と欲と堕落・・・それがここまで社会全体に渦巻いた時の醜さはもはや恐怖さえ感じました。それを観客にばれないようにパッケージングして、笑顔でプレゼントしてくるキューブリックの性格の悪さには惚れ惚れしちゃいますw

もちろん好みもありますし、娯楽性の強い作品ではないのでキューブリックが苦手な人も多いと思いますが、映画沼にハマったら是非1度は体感する事をオススメします。ここまでアイデンティティに溢れる唯一無二の映画監督は他にいないと言い切れます。特にイギリスに活動の場を移してからの作品は極上ですよ!

イギリスに移ってからのキューブリック作品一覧↓

「バリー・リンドン」の視聴方法

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1人の人間の人生譚ならジョーカーなんていかがでしょう?アメコミ作品とは思えない重厚なテーマを持った傑作ですよ!

では、良き映画の時間をお過ごしください。