Netflix映画「Mank/マンク」あらすじ、感想【フィンチャー版・市民ケーン】

Mank/マンク

セブン」「ファイト・クラブ」などで知られるデヴィッド・フィンチャー監督による「ゴーン・ガール」以来6年ぶりとなる新作です。

今作品は2020年12月4日よりNetflixで配信予定ですが、一部劇場で先行公開されたので早速映画館に行ってきました!いやぁ、すごいです。やっぱりフィンチャーはすごい監督でした。そして主演のゲイリー・オールドマンもまたすごすぎましたね。圧巻とはこういう作品の事を言うのでしょう。もう冒頭からフィンチャーらしさが全開だし終始楽s・・・失礼、とにかく本記事では感想を書いていきます。

まずはコロナの中で上映してくれた事に心から感謝!Netflixありがとう!

[ジャンル]Netflix作品ヒューマンドラマ
[作品時間]131分
[公開日]米:2020/11/13,日本:2020/11/20,配信:2020/12/4

作品情報

予告動画

あらすじ

1930年代・・・脚本家のハーマン・J・マンキーウィッツは皆から愛され”マンク”と呼ばれていた。ある日、交通事故で足を怪我したマンクの元に、当時ハリウッドで頭角を現してきたオーソン・ウェルズより「60日で新作を書き上げて欲しい」と依頼が舞い込む。アルコール依存症でもあるマンクは、まだ何も成し遂げていない自分への葛藤と過去の想いから筆を走らせる。映画史に燦然と輝く不朽の名作「市民ケーン」を手掛けた男の見た世界とは一体・・・。

スタッフ・キャスト

スタッフ

[監督] デヴィッド・フィンチャー

[脚本] ジャック・フィンチャー

[音楽] トレント・レズナー、アッティカス・ロス

[編集] カーク・バクスター

キャスト

[ハーマン・J・マンキーウィッツ] ゲイリー・オールドマン

[マリオン・デイヴィス] アマンダ・サイフレッド

[ウィリアム・ランドルフ・ハースト] チャールズ・ダンス

[リタ・アレクサンダー] リリー・コリンズ

[ルイス・B・メイヤー] アーリス・ハワード

[ジョセフ・L・マンキーウィッツ] トム・ペルフリー

[ジョン・ハウスマン] サム・トラウトン

[アーヴィング・タルバーグ] フェルディナンド・キングズレー

[サラ・マンキーウィッツ] タペンス・ミドルトン

[オーソン・ウェルズ] トム・バーク

[チャールズ・レデラー] ジョセフ・クロス

[シェリー・メトカーフ] ジェイミー・マクシェーン

[デヴィッド・O・セルズニック] トビー・レオナルド・ムーア

[ジョージ・S・カウフマン] アダム・シャピロ

[フリーダ] モニカ・ゴスマン

[ベン・ヘクト] ジェフ・ハームス

[イヴ] レヴェン・ランビン

※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。

感想

マンク/アイキャッチ画像2

市民ケーンのオマージュがすごすぎる

映画ってこんな事までできるのか・・・傑作って言葉では足らなすぎる。

今作品は1941年に公開された不朽の名作「市民ケーン」の脚本を手掛けた男の話。そして「市民ケーン」とはアメリカで当時新聞王と呼ばれた男の話・・・正直さ”80年前の作品を作った人の物語”と言われても、いまいちピンとこなくないすか?

  • 「現代の人が観て本当に楽しめるの?」
  • 「市民ケーンなんて観た事ないし・・」
  • 「そもそも興味わかないんだけど!」

わかるよ!わかる。今や世界じゃ超能力で宇宙人と戦うヒーロー達やぶつかって入れ替わるある男女のお話など、たくさんの楽しいエンタメが飛び交っている。それらの傑作と比べたらどうしても今作品は堅苦しく感じるに違いない。はっきり言って僕もフィンチャー監督の新作じゃなきゃスルーしてたかもしれないし、映画好きと豪語しておいて実は市民ケーンなんか観た事なかったよ。

げのちゃん

白黒だし・・・戦前の映画だもんね><

正直あまり気乗りしなかったけど、市民ケーン・・・渋々観てみたのね。まあ面白かったよ。ある程度は楽しめた。80年前なら斬新な切り口とカメラワークだったんだろう。ただ個人的には人生で心に残る作品までではなかったよ。だからいくら好きなフィンチャーの新作とはいえ、そこまで期待せずに観にいったんだけど・・・。

圧巻だよ。なんだよ、この映画w

フィンチャー節は全くサビてなかった。相変わらず静かな立ち上がりから始まったと思ったら、気が付けば前のめりで観てる始末。最高のセリフ回しとテンポのよい展開には舌鼓を打つし、まるで1930年代にタイムスリップさせてくれるような小気味良いスウィングジャズには目がキラキラしてしまった。加えて映画界の至宝ゲイリー・オールドマンが、さらに彩ってくる。久しぶりに「タバコの吸い方かっこええ!」と唸っちゃったよ。いやでもこの程度の絶賛ならいつものフィンチャーワールド。

今作品の恐ろしい点はオマージュにある。

オマージュってさ「過去作を知っているとより楽しめるよ!」という、あくまでも遊びの範疇じゃない?例えばスピルバーグ監督のレディ・プレイヤー1シャイニングのオマージュをしてるけど、別にメインストーリーに関わるわけではないよね。でも今作品は違う。あえて白黒で撮られたのはもちろんだけど、マンク達の会話から市民ケーンの様々なシーンを連想できるように作られているし、逆に「市民ケーンで使われたセリフのモデルがこの会話なのか!」と思わせるシーンなんかも出てくる。さらに市民ケーンをなぞったかのような時系列をいじった演出と展開。

市民ケーンは、何がなんでも事前に観てくれ!

なんだこの時空を超えた輪廻のようなオマージュは・・・こんなハイクオリティな演出は今まで観た事ないよ。楽しさが倍どころじゃない。言ってしまえばカレーライスをルー抜きで食べるようなもの・・・まるでミルフィーユのように何層にも巻かれた展開から生まれた物語の深みと面白さは圧巻の一言。デヴィッド・フィンチャーという人は頭の中でどう編集してるんだよ・・・やっぱりこの人は映画を作るのが上手すぎる。

もう1度言うけど、市民ケーンは何があっても事前に観ていただきたい。

プロパガンダの中で傑作を作った男

今作品はフィンチャーからの宣戦布告・・・映画界に喧嘩を売ってきている!

作中では資本主義vs共産主義が叫ばれる1930年代に、民衆を誘導する為のプロパカンガ映画を作る背景が描かれている。簡単に言えば当時は映画界に政治の圧力があり、映画制作会社も忖度の中で映画を作る事があったようだ。

主人公マンクが書き上げた市民ケーンという作品は、民意の誘導など朝飯前の新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストをモデルとした伝記映画となっている。ハーストは元々持っていた富と権力を最大限に活かし、利益追求ではなく民衆に真実を伝えるという大義から新聞屋を始め大成功した男・・・しかし、一方でその為なら何でもやってきた闇の部分も大いにある。そんなアンタッチャブルな闇ハースト本人には内緒で描いたのが市民ケーンという名作なのだ。だから知ったハーストはブチ切れw実際に市民ケーンの上映を妨害したりネガキャンも連発して、結果アカデミー賞では脚本賞しか受賞しなかったと言われている。

そうなんです!ハーマン・J・マンキーウィッツは妨害された中でも脚本賞をかっさらっているのです。

エイガスキー

言ってしまえば北朝鮮で某総書記のヘイト映画を作った公開したようなもん。だから元々は市民ケーンのクレジットにハーマン・J・マンキーウィッツの名前は載らない予定だったし、作中でも市民ケーンの監督・製作・主演であるオーソン・ウェルズから「クレジットに名前を載せる事がどれほど危険かわかってるのか!」とマンクさんは怒られているw

当時は色々と大変だったんだろうなぁ・・・

果たして1930年代当時だけだろうか。悲しい事に現代だって他人事じゃないよね。上からの圧力なんて様々な業界であるし、それに忖度して仕事を進める・・・世界中の誰もがやっている事だ。なんだったら「社会とはそういうものだから」と諦めに近いというか・・・もし子供が「どうして?」と、こんなアンタッチャブルな部分に触れてきようものなら「大人の世界には色々あるのよ」とかいうフワフワした妄言で煙に巻いているのが現実。

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こうして文章にすると、まだ作品を観てない人にはマンクが大悪人を征伐する正義の執行人・半沢直樹のようなキャラクターなのかと思うかもしれない・・・でも全く違う。マンクはいつも人を煙に巻くかのようなジョークを飛ばしながらも、常に社会を冷静に見ており、それでいて身分関係なく全ての人に優しく紳士な対応をする。にも関わらずアルコール依存症で浮気もするような人間味があり、とってもお茶目で可愛い人なのだ。作中に飛び交うマンクのウィットに富んだセリフの数々は何とも小気味良く全てが名言レベル。これがまた演じたゲイリー・オールドマンの極上の演技も相まってまあ楽しい楽しいw気が付けば、こうしたマンクのシニカルでオシャレな言葉を今か今かと待ってる自分がいるんだよ。

ただ前述したように市民ケーンという作品は時代の寵児ハーストに喧嘩を売るような映画の製作だ。下手したらマンクは殺されてもおかしくなかっただろう・・・でもそんな中で、彼はどういった経緯や背景で脚本を書き上げたのか?アカデミー脚本賞を受賞した男には何が見えていたのか?マンクが市民ケーンを通して世界に伝えたかった事とは何だったののか?そして、そんなマンクを描いた今作品を通して、フィンチャー監督が伝えたかった事とは何だったのか?

僕にはマンクフィンチャー監督が重なって見えてしまった。

数々の名言とフィンチャーらしいラスト

今作品が産んだいくつもの名言は必ず映画史に残ると断言する。

この映画は字幕を追うだけで頭がクラクラするほどスピーディーに会話が飛び交うから、観ていて疲れちゃう人もいるかもしれない。でも要は登場人物の人間性さえわかればそれで良いのだと思う。例えばマンクだったら表には出さないけど超いいヤツだと理解できれば、あとは流し見しても良いくらい。驚くのは集中して観てなくてもバシバシ突き刺さる名言が沢山あるという事。

  • 「社会主義は富を分け合うもの、共産主義は貧しさを分け合うもの」
  • 「2時間で男の一生は描けないが、一生を見たように思わせる事はできる。」
  • 「この商売じゃ金で買えるのは記憶だけ、作品は売った人の手元に残る。それが映画の魔法だ。」

なんてお洒落で皮肉の効いたセリフだろう。こんな名言を最高峰の役者陣が素晴らしい映像と音楽に載せてサラッとやってのける。なんて事ない数秒のシーンが、フィンチャー監督の魔法で何年も語り継がれる名シーンに変貌しているのだ。

もちろんフィンチャーの魔法はこれだけじゃない。展開の巧さだ。この人の作品はいつもそうだけど起承転結がとっても綺麗で、憎たらしいほど上手にピリオドを打ってエンドロールを流してくれる。時系列も過去と未来をいったりきたりしてるのに、どうしてここまでわかりやすいのだろう。映画を観終わった後に「あのシーン良かったなぁ」なんて思う事あるじゃない?今作品はほぼ全てのシーンがそれに近い余韻を持っている。人を小馬鹿にしたような、それでいて後味の良いラストシーンは実にフィンチャーらしい。まるで「最近、映画の底力をなめてただろ?」と言われたような感覚だった。

最後にNetflixにもお礼を言いたい。デヴィッド・フィンチャーという天才にまた映画を撮らせてくれてありがとう。この映画を観た事はまぎれもなく人生の財産になったよ。

評価・視聴方法

マンク/アイキャッチ画像2

奇才デヴィッド・フィンチャーの映画愛

今作品の評価
物語・テーマ
(5.0)
配役・演技
(4.5)
演出(音楽/映像/etc)
(4.5)
観やすさ
(3.0)
余韻
(4.0)
総合評価
(4.0)

期待を遥かに上回る傑作だと思います。ただ唯一ダメ出しをするのであれば「観やすさ」でした。というのも市民ケーンを観ずに今作品を観た場合、どうしても退屈だったと感じてしまう方がいても仕方ないと思うのです。ただそれを踏まえても、これ程まで研ぎ澄まされた完成度で仕上げてくるのは「さすがフィンチャー」としか言えません。こんなに尖った映画愛はこの監督にしか表現できないのではないでしょうか。

市民ケーンでは受賞できなかったアカデミー作品賞ですが、今作品が華麗にオスカー像を持っていくのではないかと個人的には信じています。間違いなく100年後も語り継がれる珠玉の一作ではないでしょうか。是非市民ケーンを鑑賞の上でご覧ください!

「Mank/マンク」の視聴方法

2020年12月4日よりNetflixで配信予定。

では、良き映画の時間をお過ごしください。

(C)Netflix