衝撃のBL作品「性の劇薬」の監督・脚本を務めた城定秀夫による青春映画です。
今作品の原作は、2017年に開催された第63回全国高等学校演劇大会にて最優秀賞を受賞した高校演劇が元となっています!
とっても観やすいキャッチーな青春映画ですが、中身は全世代に突き刺さるしっかりとしたメッセージとテーマがあり、75分とは思えない濃密なストーリーは最後まで見応え抜群でした。超オススメです!
[ジャンル]青春[作品時間]75分
[公開日]2020/7/24
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作品情報
あらすじ
スタッフ・キャスト
[原作] 籔博晶(兵庫県立東播磨高等学校演劇部)
[監督] 城定秀夫
[脚本] 奥村徹也
[撮影] 村橋佳伸
[編集] 城定秀夫
[主題歌] the peggies「青すぎる空」
[安田あすは/演劇部] 小野莉奈
[藤野富士夫/元野球部] 平井亜門
[田宮ひかる/演劇部] 西本まりん
[宮下恵/帰宅部] 中村守里
[久住智香/吹奏楽部部長] 黒木ひかり
[進藤サチ/吹奏楽部] 平井珠生
[理崎リン/吹奏楽部] 山川琉華
[厚木修平/英語教師・茶道部顧問] 目次立樹
※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。
感想
- 遊び心もある極上の会話劇
- 登場人物の心情描写が秀逸
- 見応え抜群の75分
「桐島、部活やめるってよ」を彷彿とさせた青春群像劇
今作品の予告を観た時、僕がまず頭に浮かべたのは青春映画の金字塔「桐島、部活やめるってよ」だった。
様々なキャラクターを通して描いたリアルすぎる高校生達の青春はあまりにも衝撃的で、2013年の日本アカデミー賞では圧巻の最優秀作品賞に輝いた。キャストも豪華で、神木隆之介を筆頭に東出昌大、橋本愛、山本美月、松岡茉優、仲野太賀などなど・・・恐ろしい布陣だ。そんなモンスター作品に比べて、今作品は予算もキャストも全ての規模が劣っていると言わざるを得ない。
しかし観終わってみたらどうだ?全く引けを取ってない。というか・・・めちゃくちゃ面白いじゃないか!
他の青春映画では学生Aとクレジットされそうな4人が、アルプススタンドのはしの方で他愛もない会話をしているだけだというのに・・・なんだこれは!泣けて笑える上に、心揺さぶるクライマックスから後味の良いラストまで・・・正真正銘の傑作だった。
「低予算の割には面白かった!」
こんな無礼極まりない感想ではなくて、脚本や構成、俳優陣の演技に音楽と・・・何もかもよくできていて心から面白かったのだ。描いているテーマは「桐島、部活やめるってよ」と似ているところがあって、未来への不安や自我の覚醒など学生が抱えるリアルな青春が中核となっているんだけど、今作品が決定的に違うのはリアルなのに重くないのだ。
例えば同じく高校生の青春を描いている矢口監督のウォーターボーイズやスウィングガールズは「こんな青春いいなー!」と思わせてくれるような軽めに楽しめる作品だよね。本来、青春映画とはこれでいいと思うし、もちろんこれらを否定するわけじゃないんだけど、つまりは非現実的な理想の青春時代を描いているという事だ。
一方、今作品は前述したように「桐島、部活やめるってよ」と同じくリアルな青春を描いているから重みのあるテーマとメッセージを積んでいるのにも関わらず、軽く楽しめるポップな仕上がりになっているのだ。
これは単にアイデアの勝利だけじゃない・・・制作陣の圧倒的な努力と技術、そして熱量が入り混じった令和を代表する傑作青春映画だ。
名言連発の超面白い会話劇
今作品でまず絶賛したいのは終始楽しすぎる会話劇だという事。
過剰ではなく等身大のセリフ回しや、長回しによる見ごたえあるやり取りは世界に自慢できるレベル。特に野球を知らない女子たちが、犠牲フライを考察するくだりは何とも愛らしく、それでいて遊び心もあって非常に好感を持ってしまったよw
「もしかして私たちにはキャッチしたように見えたけど、実は落としてたんじゃない?」
「それだ!じゃあアウトじゃなかったんだ!」
スコア表に顔を向ける二人・・・
「アウト増えてるじゃん!なんで!?」
「迷宮入りだね・・・」
男性からすると、ルールがわからないのに観ていて何故楽しいのか?と思わせる実に女性らしいやりとりだよねw
こうしたほのぼのした笑えるセリフで構成された序盤から、ストーリーが進むにつれて少しずつ変化していく登場人物たちの心情と共に、気が付けばエグいパンチラインが飛び交う展開は実に楽しかった。
今作品は冒頭に「しょうがない」というセリフから始まるんだけど、様々な会話劇がこの言葉に集約していく様は見応え抜群だった。リアルさとわかりやすさが丁度よくブレンドされた素晴らしい脚本と構成には脱帽して土下座するレベル。そこら辺の凡作では到底太刀打ちできない間違いなく一級品の代物だよ。
戯曲が元だからセリフ回しが秀逸なのは当たり前?いやいや、今作品はもう1つ絶賛するべきところがある。
俳優陣の目線で表現した心情描写
今作品は野球の観戦席が舞台になっているが、試合のシーンは一切出てこない。
あくまでもタイトル通りアルプススタンドのはしの方で観戦する4人の学生をメインに描いている。彼らの会話劇こそが中核であり、それだけで十分楽しめるのは間違いない。でも全く出てこない野球の試合展開が実に素敵なスパイスになっているのだ。
例えば「カキーン!」という快音や歓声など試合が盛り上がりを見せる場面では、野球のルールがわからない女子も含め、否応なく4人はグラウンドに目を向けてしまう。とはいえ序盤ではまだ心に影を持つ4人・・・どこか野球に熱中できていない。しかしストーリーが進むにつれて本音を吐露し始めた彼らは自覚し始める。
「何をしてるんだ?自分はこのままでいいのか?」と。
4人の会話劇は確かにわかりやすく楽しい。別に友達でもなかった彼らが、アルプススタンドの端っこで少しずつ距離を縮め仲良くなっていく姿はもどかしくも、とても愛らしい。でも実のところ・・・彼らは会話なんてしてないに等しいのだ。それぞれが別々の方向を向いていて、試合が盛り上がった時だけ無意識にグラウンドへ目を向けるだけ。
まさに青春時代の若者の心情そのものと言っていい。
そんな4人の心のベクトルが滅茶苦茶な方向へ飛び交っている中、今作品は演劇部・田宮が「頑張れえええ!」と叫んでから一変する。この名セリフから始まるクライマックスは半端じゃない・・・原因不明の嬉し涙に襲われ、映画館だろうが危うく立ち上がってしまいそうな高揚感が迫ってくる。どうか覚悟して観て欲しい。
今作品はそんじょそこらの青春映画じゃない。俳優陣の演技と監督の演出や構成がギラギラ光る傑作だ。ラストシーンからエンドロール・・・すごい気持ちよかったなぁw
これ1回観たら、定期的に何度も観たくなっちゃうやつだと思うよ。
評価
75分とは到底思えない満足度
城定秀夫監督は役者の良い表情を撮るのが上手な方ですね!レビューでは主要4人くらいにしか触れませんでしたが、先生や吹奏楽部の3人もとても良かったですし、全てのシーンが丁寧で印象に残る楽しい画角だと思いました。特にアルプススタンドに絶妙な距離感で観戦する4人の姿を映したところでタイトルが入った冒頭のシーン・・・ここだけで「多分、この映画は面白い」と思わせる圧倒的な安心感がありましたw次作も期待しております。
有名な俳優陣が並んでるわけではありませんが、是非とも1度ご覧になってみてください。誇張抜きにめちゃくちゃ面白いですし、75分という短さが今でも信じられません。
そこらの2時間映画よりも見応えと満足感がありました!
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(C)2020「アルプススタンドのはしの方」製作委員会