映画「羅生門」あらすじ、感想【人間の虚栄心を描いた黒澤明の傑作】

羅生門

1950年公開。黒澤明の11作目となる映画で、これを機に世界のクロサワと呼ばれるようになりました。

公開当時は日本国内では不評で、映画会社・大映の永田社長も「訳わからん」と全く評価していなかったそうです。しかし海外から高く評価され、ヴェネツィア国際映画祭でグランプリである金獅子賞を受賞すると、永田社長は手のひらを返したように大絶賛したらしいですねw黒澤監督はそれを見て「まるで羅生門の映画そのものだ」と評したそうです。

確かに今作品はこうした人間の持つ卑しい部分をシニカルに描いていますが、逆に人間の美徳も描いていますよ。

本記事ではあらすじ、キャスト・スタッフ情報の他に、個人的な感想、視聴方法も記載しています。

ジャンル:ヒューマンドラマミステリー
作品時間:88分

作品情報

アカデミー賞では下記を受賞しています。

  • 名誉賞[受賞]
  • 美術監督賞(白黒部門) – 松山崇、松本春造

その他にもヴェネツィア国際映画祭では金獅子賞、ブルーリボン賞では脚本賞、その他の映画賞でも監督賞など世界中で評価されました!

あらすじ

時は平安時代、ある大雨の日に1人の下人が雨宿りの為に羅城門へ駆け込んできた。そこにはある殺人事件を目撃した事で、人間を信じられなくなったと落胆する杣売りと旅法師がいた。下人が詳しく話を聞いてみると、悪名高き盗賊・多襄丸が、山中で侍夫婦の妻を襲い夫を殺害したという。しかし2人が言うには、検非違使に証言した多襄丸と妻・真砂の言い分が食い違っていたと言うのだ。果たして真実は・・・?

キャスト、スタッフ

原作 – 芥川龍之介
監督 – 黒澤明

撮影 – 宮川一夫
美術 – 松山崇
音楽 – 早坂文雄

多襄丸 – 三船敏郎

金沢武弘 – 森雅之
真砂 – 京マチ子

杣(そま)売り – 志村喬
旅法師 – 千秋実
下人 – 上田吉二郎

巫女 – 本間文子
放免 – 加東大介

三船敏郎もかっこいいんですけど、個人的には千秋実が好きですね。晩年のふっくらしたイメージの方が強いですが、やせてる当時もどこかひょうきんというか愛嬌のある役者ですね。

※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。

 

 

感想

  • 白黒映画だからと敬遠しないで!
  • 癖になるボレロ調の音楽
  • 人間の醜さ、卑しさを描いた傑作

白黒でも情景が伝わってくる不思議

今作品は芥川龍之介の小説・藪の中のストーリーが大半を占めている。

正確には羅生門藪の中を基に少し脚色して練り直したストーリーとなってるわけだけど、どちらも人間の卑しさを描いているので、観ていて違和感は特にない。いや、むしろ1本の映画としてちゃんと成立していて、非常に考えさせられるテーマを帯びているので、未見の人は安心して観て欲しい。

今作品の素晴らしい点として、自然光を活かす為に鏡を使ったとか、フィルムが焼けちゃうので誰もやらなかった太陽を映す撮影法などがよく言われてるけど、僕からしたらそんな事よりも画角だ。どのシーンも1枚絵として味のある美術品のような美しさ・・・他の作品でもそうだけど黒澤明監督の1番優れている点はこの映像センスだと僕は思う。

確かに太陽を映すシーン・・・そりゃ太陽自体を映した事自体が画期的だったのかもしれないが、そうじゃなくて、木々の中にたまにギラっと光る太陽光という構図自体が素晴らしいし、羅生門でのシーンだって、あのセット自体を全部作り上げた事もヤバイんだけど、ボロボロの羅生門で大雨の中ポツンと座ってる2人の絵がたまらないんだ。

その類まれなる画角センスに加えて、何故かフィットするボレロ調の音楽と、汗や山中の音、雨音、そして最高の役者陣によって情景がしっかりと伝わってくる傑作に昇華していると僕は思う。芥川龍之介の世界を言葉による状況説明ではなく、こうした映画らしい演出で表現した黒澤明監督はやっぱり世界のクロサワだ!

白黒とは思えない圧倒的な迫力・・・是非人生で1度は堪能すべきだろう。

公開から5年後に他界した音楽家・早坂文雄

今作品は非常に面白い人間ドラマになっている。

前述した通り、黒澤明の映像センスと芥川龍之介の素晴らしいストーリーのおかげなのはもちろんだけど、もう1人・・・音楽を担当した早坂文雄という作曲家も多大なる貢献をしていると思う。

特にストーリーの中核となる山中での殺人事件回想シーンで使われている曲は強い印象を残した。ボレロ調なんだけど、どこか日本的で何とも言えないミステリー感が出ていたね。誰が本当の事を言っているのか、誰が嘘をついているのか・・・今作品は登場人物たちの証言の矛盾と謎によって最後までワクワクさせられるが、間違いなくこの曲が観客の心をより煽ったと言えるだろう。

この早坂文雄というお方・・・第二次世界大戦で世界中がワーキャーしていた時でも、関係なく作曲を続けていた本物の音楽家だ。一体どういう気持ちで世の中を見ていたのか、そしてどういう感性を持って作曲していたのか、本人にインタビューしたくなるのは僕だけじゃないと思うw幼少の頃にピアノを買ってもらえなかった早坂文雄は、近所でピアノを持っている家があると知らない人の家だろうと関係なく入っていって弾かせてもらっていたらしい・・・

完全にイカれている(誉め言葉)

ちなみに黒澤映画では酔いどれ天使以降、白痴生きる七人の侍などの音楽も手掛けているよ。興味がある人は是非調べてみてね!

何故誰もが嘘をついたのか?

この映画のテーマは人間の美徳だけど、描いているのは人間のエゴイズムだ。

三船敏郎が演じためっちゃくちゃカッコイイ多襄丸、妖艶な魅力を放つ京マチ子真砂、殺された金沢武弘の代弁をした巫女、そして一部始終を見ていた志村喬演じる杣(そま)売り・・・山中で起きた殺人事件の関係者全員が嘘をついている。

では、何故全員が嘘をついたのか?

それは人間の持つ見栄・・・他人に対し自分をよくみせようとする虚栄心だった。恐ろしい事にこれは現代人の心にも綺麗に突き刺さってしまう。ツイッターやインスタグラムなどのSNSなんて、こうした虚栄心が渦巻いているよね。

  • オシャレなお店に行ったよ!
  • 美味しいご飯を食べてるよ!
  • 世の中でこんな事が起きてるんだって!

こんなツイートがあったとしても翻訳すると・・・

  • オシャレなお店に行った自分を見て!
  • 美味しいご飯を食べてる私どう?
  • 世の中でこんな事が起きてる事を広めてる自分を褒めて!

もちろん全てがこうなるわけじゃない。ただ、少なからずこうした下心を持ってしまうのは仕方ないんだ・・・だって僕達は人間だから。でも卑しい感情だと皆わかっているから誰も声に出してわざわざ言わないよね。

芥川龍之介という人は、人生を通してこうした人間のエゴイズムを描き続けた人なんだ。

ただ・・・こうしたエゴイズムがよくないものだと理解しているからこそ人は本心を隠したり嘘をつくわけで、それはつまり罪悪感を持っている事の証明でもある。そして嘘をつくという罪を自身で認めた時に初めて、人間の持つ美徳が表面化し、この美徳こそが「人間って意外に悪くないな・・・」と未来への希望を感じさせてくれるわけだ。

最後の杣(そま)売り旅法師の会話には、それがしっかりと描かれていた。

原作の芥川龍之介には人間がどう映っていたのかわからないけど、もしかしたら自分を含め人間の未来に絶望したから自殺しちゃったのかもしれない。

蜘蛛の糸に群がる人達を横目に、黒澤明三船敏郎らと飲み会でもしてたらいいねw

評価、視聴方法

黒澤明監督の素晴らしさ

最近はVFXもすごい技術に達しているので、今さら白黒映画を観たいと思う人は少ないかもしれません。

正直、僕も最近の映画の方が観る事多いですし、今作品だって黒澤明監督じゃなければ一生観なかった可能性さえあります。ただ、殆ど同時代に同じ日本という国で、こんな素晴らしい映画監督がいたという事自体に嬉しさを感じませんか?スピルバーグジョージ・ルーカスなど世界的な映画人にも多大なる影響を与えたって冷静に考えてすごすぎます。

はっきり言って、黒澤映画よりも面白い作品なんて現代にはいくらでもありますが、このお方・・・戦前から映画を撮っているんです。この羅生門だって終戦から5年後ですよ・・・ネットはもちろん、メディアや情報が殆どない時代にこんな傑作を撮っちゃったなんて想像できません。

せっかく同時代に生きてるんですから、人生で1度は観る事をオススメします!少なくとも僕は黒澤明監督の映画を観て、シンプルに面白かったですし、何よりも観て良かったと思いました。

ちなみに黒澤映画はカラーになってからの方が好きなんですけどねw

「羅生門」の視聴方法

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黒澤明監督の他作品だと、まずは何と言っても七人の侍、あと個人的には生きるをオススメします。世間の評価はあまり高くないですが、遺作となったまあだだよも僕は名作だと思いますね。

では、良き映画の時間をお過ごしください。