2009年公開。ポン・ジュノ監督による長編映画4作目です。
この監督は、もはや韓国だけではなく世界でも屈指の名匠と言えるんじゃないでしょうか。殺人の追憶やグエムル-漢江の怪物-もかなり面白いですが、今作品もずば抜けた異彩を放つ傑作となっています。ただの母子のヒューマンドラマと思ったら大間違いですよ!
本記事ではあらすじ、キャスト・スタッフ情報の他に、個人的な感想、視聴方法も記載しています。
もくじ
作品情報
- オンライン映画批評家協会賞 – 最優秀外国映画賞
- ロサンゼルス映画批評家協会賞 – 最優秀外国映画賞
- ボストン映画批評家協会賞 – 最優秀外国映画賞
- 第28回ミュンヘン国際映画祭 – 最優秀作品賞
- 第10回釜山映画評論家協会賞 – 最優秀作品賞
- 第30回青龍賞 – 最優秀作品賞
上記は受賞した中の一部でしかありません。他にもそこら中で最優秀作品賞を受賞しています。(あと3倍くらいw)韓国というだけで少々嘘くさく感じる人もいるかもしれませんが、観れば納得できると思います。
あらすじ
知的障害を持つ息子トジュンとその母親は、貧しいながらも2人で慎ましく生活していた。ある日、トジュンは酔った帰りに偶然通りかかった少女に声をかけるも逃げられてしまう。翌日・・・その少女が死体となって発見された事で、トジュンは容疑者として逮捕されてしまう。しかし息子の殺人など到底信じる事ができない母親は自ら真犯人を探す為に奔走し始め、とうとう真相に辿り着くが果たして・・・。
キャスト、スタッフ
監督 – ポン・ジュノ
脚本 – パク・ウンギョ、ポン・ジュノ
音楽 – イ・ビョンウ
母親 – キム・ヘジャ
息子・トジュン – ウォンビン
ジンテ – チン・グ
ミナ – チョン・ウヒ
アジョン – ムン・ヒラ
ヒュント(アジョンの友達) – イ・ミド
ミソン – チョン・ミソン
ジェムン刑事 – ユン・ジェムン
セパタクロー刑事 – ソン・セビョク
廃品回収老人 – イ・ヨンソク
チョンおばあさん(アジョンの祖母) – キム・ジング
ミナの母(スナック マンハッタンのママ) – チョ・ギョンスク
コン・ソッコ弁護士 – ヨ・ムヨン
チョンパル – キム・ホンジプ
ウォンビンは兵役後、5年ぶりとなる復帰作になりますが、トジュンの役がかなりハマっていたように思います。それとやはり韓国屈指の女優キム・ヘジャは素晴らしかったです!圧巻の演技でした。
※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。
感想
- 繊細に描かれた母親の強さ
- 映画史に残る圧巻のラスト
- シリアスなのに笑えるポン・ジュノ作品
キム・ヘジャのダンスで始まる不気味な出だし
何にもない寂しい草原をキム・ヘジャが歩いてきて、無表情で踊りだす・・・。
全く意味のわからない映像なのに、この映画は劇薬を積んでるという事だけはハッキリと理解できてしまった。なんと不気味な映像なんだろうか・・・常軌を逸してるとしか思えないフックだよ。
映画において冒頭のシーンというのは非常に大切だ。なんていうかフックとは、その映画の自己紹介みたいなもの・・・だからアクション映画なら派手な戦闘や爆発シーン、スリラー系なら殺害シーンなど少しエッヂの効いたインパクトのある映像を持ってくる。感動モノなら重要人物の語り部から始まったり、群像劇なら主要の登場人物が全員出てきたりなんていうのも良いよね。個人的にはクライマックスよりも練りに練って作ってほしい部分だ。
それを今作品は1人の女優に不気味なダンスを踊らせただけで全てを表現してきた。
たったこれだけで主人公である母親の心情や、この映画が悲しい物語だという事、そしてこれ以上観たらまずいかもしれないと思わせるような危険な香りまで漂った。はっきり言って、この冒頭のダンスシーンがなくてもストーリーは理解できるし、全カットしてキム・ヘジャが藁をぶつ切りにしてるシーンから始まっても全然観れちゃうはずなんだ。いきなりウォンビンが車に轢かれるという目を引くシーンもあるんだから。でも最後まで鑑賞すれば誰もが口を揃えて言うと思う。
このダンスシーンがなきゃだめだ、と。
今作品はポスターや予告編を見て、よくある感動的な母子の物語?韓国映画あるあるの胸糞系?そこにちょっとサスペンス要素いれた感じ?と思って観るのを先送りにしてる人って結構いるんじゃないかな。少なくとも僕はそうだった。でもどうか騙されたと思って、まずは1度観て欲しい。
散々冒頭のダンスシーンを絶賛しておいて申し訳ないけど・・・ラストはこれを超えてくるからね。
ポン・ジュノという世界屈指の変人
一体この人の頭の中はどうなってるんだろうか。
もし覗けたとしても理解できる気がしない。今作品は様々なジャンル要素が入っているというのも見応えがあった。母子のヒューマンドラマとしても秀逸だし、殺人事件のミステリーとしても素晴らしい。そして韓国の格差を描いた風刺でもあって、そこにエグく切り込んだブラックコメディにもなっている。それでいてゴチャゴチャしておらず、むしろシンプルで観やすく綺麗にまとまっているんだ。
軸は冤罪で逮捕された息子を助ける為に、母親が死に物狂いで真犯人を探すというだけ・・・。要は子供の為には誰よりも強くなる母親を描いた映画なわけで、こんなストーリーは世界中にいくらでも転がっているよね。愛情の向こう側にある狂気を描くというか・・・近いものだとダンサー・イン・ザ・ダークや日本だと八日目の蝉なんかを思い出すけど、今作品は狂気のもう1つ先を描いたように僕は感じた。
ただ「もう1つ先って何?」と問われると困るwあの圧巻のラストシーンで抱く感情はなんなんだろうか。悲しいわけではない、でも楽しいわけでもない・・・後味が良いわけでも悪くもない!
やべえ映画を観た・・・としか言えない。
別にネタバレしないように書いてるからこんな抽象的になってるわけじゃなくて、本当に言葉では言い表せないような感情にさせられるんだ。なんていうか人間が踏み込んじゃいけない領域を見せられたようなwただ映画として最高の着地をしてるという事だけは明確にわかってしまう。久しぶりにエンドロールで固まったね。
ポン・ジュノ監督は世界屈指・・・いや、世界で1番の変人かもしれない。
原題「마더」に隠された意味
実はキム・ヘジャの演じた主人公には名前がない。
クレジットでは「마더」と表記されていたから、観終わったあとに読み方が気になって翻訳サイトで調べてみた。すると「마더」は英題でもある「mother(マザー)」という意味だそうな。僕はここで名前が無かった事に気付いたんだけど、さらに気になる疑問が頭に浮かんだ。
どうして日本語訳したのに「母親」ではなく「マザー」なんだ?と。
日本語でも「お母さん」や「ママ」など呼び方は色々あるし、いくつかある言葉のニュアンスの問題なのかな?と思って、ふと「母親」を韓国語翻訳してみたら「어머니」と出てきた。読みは「オモニ」だそうで、確かにこっちの方が焼肉屋さんの店名とかで目にした事がある。というわけで今度は「마더」の読み方を調べてみたら、どうやら「マド」と読むそうだ。要は外来語なわけだね。まさか今作品を観て韓国語の勉強をし始める事になるとは思わなかったけど、興味本位でさらに調べていったら韓国の外来語で「殺人」を意味する「murder(マーダー)」の書き方を知った。
「머더(モド)」というんだそうだ。
母親をメインに描いた殺人ミステリーという今作品・・・ポン・ジュノ監督の尖りに尖った前衛的なセンスに脱帽どころではない。こりゃ傑作なわけだ。
評価、視聴方法
とうとう新作「パラサイト半地下の家族」が公開!
新作が公開する度に興奮してしまう映画監督っていますよね。
僕の中ではデヴィッド・フィンチャー、クエンティン・タランティーノ・・・最近はアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、吉田大八あたりも映画館ですぐに観に行きたくなる監督なんですが、今作品のポン・ジュノもその1人ですね。そんなポン・ジュノ監督の新作パラサイト 半地下の家族がとうとう公開となりました!(2020/1/13 早速映画館で鑑賞してきましたw)
しかもパルム・ドールを引っ提げ、ソン・ガンホと共にw
これは必見どころではないと思います。唯一、懸念があるとすれば今作品を超えられるのか?という事ですねw僕の中で「母なる証明」というこの映画はそれくらい面白かった1本でした。少々暗い雰囲気があり若干重い空気が漂う作品なので、日常的に映画を観ないライト層にはきついかな?と思っておすすめ度は★4にしましたが、個人的には満点の傑作です。是非とも新作の前でも後でもいいので1度は手に取ってみてください。
本当に心から素晴らしい完成度の映画ですよ!
「母なる証明」の視聴方法
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ポン・ジュノ作品なら殺人の追憶も面白いですよ!ただ日本のミステリーも負けていません。例えば怒りなんて最高に痺れるので超オススメです!
では、良き映画の時間をお過ごしください。