映画「葛城事件」あらすじ、感想【モデルは宅間守の無差別殺人事件?】

葛城事件

赤堀雅秋監督による舞台作品を映画化したもの。

赤堀監督は舞台を主戦場とする方で、劇団「THE SHAMPOO HAT」の旗揚げメンバーであり、同劇団の全公演の作・演出を務めている方です。

元々舞台はある事件をモチーフにしていると監督ご自身でおっしゃっていて、今回映画化するにあたって様々な事件を調べ複合化したとの事でした。ある事件とは、2001年に起きた附属池田小事件・・・宅間守が起こした小学生無差別殺傷事件が一番のモデルだと思われます。

というわけで、一応は創作ストーリーなのですが、個人的にはジャンルをノンフィクションと位置付けました。本記事ではあらすじやキャスト情報の他に、視聴方法や1本の映画作品として感想を書いています。

ジャンル:ノンフィクションヒューマンドラマ
作品時間:120分

作品情報

  • 第8回TAMA映画賞
    最優秀男優賞 – 三浦友和
    最優秀新進男優賞 – 若葉竜也
  • 第41回放置映画賞
    主演男優賞 – 三浦友和
  • 第38回ヨコハマ映画祭
    主演男優賞 – 三浦友和
  • 第31回高崎映画祭
    主演男優賞 – 三浦友和
  • 第26回東京スポーツ映画大賞
    主演男優賞 – 三浦友和

ご覧の通り、三浦友和氏が高い評価を受けています。主演として圧倒的な存在感で間違いなく今作品の軸なんですが、他の役者陣も素晴らしい演技で非常に面白い映画でした。

あらすじ

抑圧的で思いが強い父親、長男はリストラされて孤立、妻は精神を病む。そして次男は無差別殺傷事件を起こし死刑囚に。そこに死刑反対の立場をとる女性が現れ、死刑囚の次男と獄中結婚し彼の本質に触れる。こんな救いのない結論に至った原因はどこにあったのか?壮絶な、ある家族の物語。

キャスト、スタッフ

監督・脚本 – 赤堀雅秋

葛城清(父) – 三浦友和
葛城伸子(母) – 南果歩
葛城保(長男) – 新井浩文
葛城稔(次男) – 若葉竜也
星野順子 – 田中麗奈

新井浩文は暴行事件で逮捕されちゃいましたが、役者もやめちゃうんですかね。今作品では絶妙な兄役を演じています。

※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。

 

 

感想

  • よくできた脚本・・・異常な嫌悪感が漂う
  • 僕らの生活の地続きにいる狂人
  • 救いのない胸糞映画から学ぼう、気付こう!

次男が殺人犯になってしまった原因とは?

これは人によって意見がわかれる映画なんだろうか?

こうした実際の凄惨な事件をモチーフにした映画というのは時間が経つとエンタメになる場合もあるけど、近年の事件だとドキュメンタリーを観るかのような視点になってしまうね。被害者遺族は、この映画を観る気にはあまりならないだろうし、どうしてもレビューする側も感情が入ってしまう。ただできる限り客観的に感想を述べる努力はしてみる。

まず今作品は最初から最後まで恐ろしいほどの絶望感が漂う。

まず父親・・・かなりの頑固者で説教好き、その説教もどこか的外れで且つ自覚がないタイプ。その上、無神経で身勝手・・・はっきり言ってろくでもないオヤジだ。

で、父親だけかと思ったら母親もダメダメで、手料理を一切作らずネグレクト状態の為、出てくる食事はコンビニ弁当やデリバリーばかり・・・父親が次男に説教をし出すとすぐに話を変えて現実逃避をしようとする。

両親だけかと思ったら長男も長男でダメ人間・・・結婚し子供もいて社会的には自立してるが、仕事もリストラされて朝自宅を出てから公園で時間をつぶす日々を過ごしている。

ゾッとしてしまうのは彼らが一見普通の人達に見える事で、これにより観客は身近に感じてしまう。この映画をレビューしている人達の意見でよく見かけたのは、普通の家族だったのに少しずつ歯車がずれていったのかも・・・といった内容だった。確かに僕も「確かにこういう人いるな~」と身近には感じたが感想は全然違う。

少しずつ歯車がずれていったのではなく、元からずれているんだ。

今作品は事件前と事件後を交互に描いているが、事件後にガラっと変わった描写をしているのは少しだけで、はじめからどんよりとした不協和音のある家族を描いている。三浦友和演じる父親は冒頭で外壁の落書きを消しながら目が虚ろだが、息子が無差別殺傷事件を起こしたから?いや違う。自分が望んでいた家族が吹き飛んだからだ。

無差別殺傷事件を起こし死刑を言い渡された次男も含め、この家族は全員が尋常ではない身勝手・・・しかも自覚がない。

こんな家族、僕ならとっくに絶縁して家を出てしまうよ。

セリフの中に沢山のブラックユーモアがある

この映画を観たら誰もが嫌悪感を感じるだろうね。

それは家族全員がクズだからというのもあるけど、彼らが言う言葉が全て「お前が言うな」と言いたくなるからだろう。少し例をあげると・・・

序盤、清(父)が星野順子(次男と獄中結婚した女)に「そんなんだから日本は世界でリーダーシップをとれない」と稚拙な政治家のような説教をするが、その直後に描写される家政婦を雇っている事で苦笑いしてしまう。そもそも自身で掃除もできないような奴に高尚(笑)な説教されてもねw

また、そのシーンで星野順子が返す言葉は「稔(次男)さんと本当の家族になり、他人の痛みがわかる・・・そういう心が彼の中に芽生える事を望みます」他人の家族にズケズケと上がり込んできて、自分勝手な偽善を振りかざすような奴が「他人の痛みがあーだこーだ」と語る絵はもはや狂気だ。

その他にもリストラされてる保(長男)が引きこもりの稔(次男)に「働けよ」と言ったり、その引きこもりの稔が真っ暗な部屋でコンビニ弁当食べながら窓の外の井戸端会議している奥さんたちに「他にすることねえのかよ」とぼやいたりw

もうとにかく登場人物全員が自覚のないクズばかりで、ブーメランを投げまくっている。

こんなダメ人間だらけで救いのない物語だが、一瞬だけ平和な描写がある。それは家出した伸子(母)が2人の息子とご飯を食べるシーン・・・少しゆがんではいるものの、この時だけはまともな家族の会話が展開されている。そこに清(父)が踏み込んできてからはまた家族の絆が崩れ、絶望がスクリーン全体に広がってしまう。この時の照明が段々と暗くなっていく演出は監督の気持ちが少し聞こえたような気がした。

この父親さえいなければ、もしかしたら・・・」と。

確かに父親さえ違っていたら凄惨な無差別殺傷事件は起きなかったかもしれない。でも前述したように父親だけじゃなく家族全員が身勝手・・・やはり歪な家族である事は変わらなかったんじゃないかな?とも思う。

ラストシーンの解釈

最後まで救いがない絶望を描いた監督に、僕は称賛したい。

このラストシーンは人によって取り方が違うみたいだね。少なくとも僕の解釈は大多数の意見と少し違った。

伸子(母)は精神崩壊し精神病棟に、保(長男)は自殺、そして稔(次男)は無差別殺傷事件の末、死刑・・・誰もいなくなった家に1人でコンビニのまずそうな蕎麦を食べる清(父)。そこに最後の挨拶にきた星野順子は、求刑されてから1年しか経ってないのに稔の死刑が執行された事に納得がいかない気持ちを語る。

星野順子が帰ろうとしたところを清(父)は襲い掛かり「唇くらいいいじゃねえか」とのたまい、その上「俺が3人の人を殺したら、お前は俺と結婚してくれるのか?」と言い放つ。これに対して星野順子は「あなたそれでも人間ですか!」と泣き叫ぶ。そして1人になった清は既にいない家族の名前を呼びあげて、少しずつゆっくりとリビングで暴れまわり、外の木で首つり自殺をはかるが枝が折れて失敗・・・。またゆっくりと部屋に戻り、蕎麦を食べる絵でエンドロール。

父の清は1度酔って「稔が死刑になったらあいつの望む通りになるだけだ、生きる苦しみを味合わせた方が罰になる」と話していた布石があったからか、他のレビューを見ると「星野順子が最後に言ってくれて少し救われた!このラストシーンは1度は死のうとした父親が、苦しみを味わうであろう「生きる事」を選択したんだろう」と解釈している人が大半だった。

僕は少し違う解釈だったよ。

まず星野順子、彼女は今作品で2番目にクズだと僕は感じた。この女は死刑反対活動している自分に酔っていて、本心では葛城一家の事など微塵も考えていない。最後の挨拶で「もう少し時間があれば・・・結局私には何もできませんでした」とか言いながら悲しそうな顔をする場面なんて蹴り飛ばしたくなるレベル。この女の恐ろしいところは完全に自覚症状がないんだ。そして最後のシーン「3人殺したら結婚してくれるのか?」と言った清(父)に「それでも人間ですか!」と叫んだ時にはじめて自覚する・・・。

そのセリフは死刑になった稔(次男)に言うべき言葉だった事を。

次に1番クズな清(父)、彼は別に「生きる事」を選択したなんていう高尚な判断をしたわけじゃない。自分勝手に生きてきて家族を自分の駒のように束縛し、その家族が離散して孤独になった。最後「3人殺したら結婚してくれるのか?」などと無神経な事を言い放ち、絶対に折れるであろう枝で中途半端な自殺を試みただけ・・・正確には自殺というより自殺を体験しただけ

つまりこの父親は最後まで何も変わってない。稔(次男)の殺人や保(長男)の自殺、伸子(母)の精神崩壊の原因は自分にあったという事は最後少しだけ気付いたのかもしれないが、それでも彼にとっては正直どうでもいい事だったのだろう。

一生身勝手に生きていればいい、こんな”奴ら“に救いなんかいらない。

これが監督のメッセージだと僕は解釈した・・・ただ、これは僕の願いなのかも。そう考えると確かに意見がわかれる映画なのかもしれないねw

どちらにしても面白い映画なのは間違いないよ。

評価、視聴方法

胸糞映画の存在意義

素晴らしい脚本最高のキャスト陣による、非常にディープでヘビーな作品でした。

正直僕は、犯人が無差別殺傷事件を起こしてしまう経緯や背景って知りたいという気持ちがありますし、何よりもこうした殺人を犯す非道な人間の存在、事件そのものを未来永劫残すべきだと思うので今後も映画化はするべきだと思います。

ここまで読んでくれた方は気づいたかもしれませんが、こういうノンフィクション的映画のレビューはどうしても感情が入ってしまいますねwただそれは役者陣が素晴らしい演技をしていたのもあると思います。三浦友和田中麗奈は危うく嫌いになりそうな位の怪演でした!

こうした救いが全くない胸糞映画って避ける人も多いですが、逆に観る事によって日常の小さな幸せを感じたり、他人への感謝の気持ちを再認識させてくれると思うのでオススメなんですけどね。

「葛城事件」の視聴方法

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この作品は何故アカデミー賞に引っかからなかったんですかね。無差別殺傷事件だから?同じように凶悪犯罪というテーマで事実を基にしている映画でも復讐は我にありなんか過去にアカデミー作品賞を受賞してるんですけどね。

では、良き映画の時間をお過ごしください。