2016年公開。
凶悪、虎狼の血の白石和彌監督による日本警察史上、最大の不祥事とも言われる稲葉事件をモチーフにした映画です。
白石監督は、近年ものすごいスパンで映画を撮っていますが、どれも本当に面白いのでオススメの監督さんですよ!個人的にはこの映画が監督作品の中で一番好きかもしれません。まるで深作欣二のようなバイオレンスな雰囲気と、伊丹十三のコミカルでスピーディーなテンポを併せ持ったような・・・気軽に観れちゃう大人の映画といった感じですね!
本記事ではあらすじ、キャスト・スタッフ情報の他に、個人的な感想、視聴方法を記載しています。
もくじ
作品情報
第40回日本アカデミー賞では綾野剛が優秀主演男優賞に輝きました。
って、いや少なっ!信じられません!1本の映画として相当面白いんですが、何故か作品賞のノミネートもされませんでした。
確かにこの年は、是枝監督の怒り、宮沢りえ主演の湯を沸かすほどの熱い愛、そして最優秀作品賞となったシン・ゴジラ・・・アニメでも君の名は。が話題となり、のんの声優が素晴らしかったこの世界の片隅になど・・・非常に豊作だったんですが、はっきり言って今作品も全然負けていないと思います。
何か見えない力が働いたんじゃないか?と勘ぐってしまいますねw
あらすじ
諸星要一(綾野剛)は、大学時代に鍛えた柔道の腕前を買われて北海道警の刑事となった。正義感が強く真面目な諸星は先輩刑事の村井(ピエール瀧)から「刑事は点数、点数稼ぐには裏社会に飛び込みスパイを作れ」と教えられ、暴力団との関係性を深くしていく。やがて、裏社会のスパイと共に自ら悪事に手を染めていくが・・・。
キャスト、スタッフ
原作 – 稲葉圭昭「恥さらし 北海道警・悪徳刑事の告白」
監督 – 白石和彌
脚本 – 池上純哉
音楽 – 安川午朗
主題歌 – 東京スカパラダイス・オーケストラ feat. Ken Yokoyama 「道なき道、反骨の。」
諸星要一 – 綾野剛
山辺太郎 – YOUNG DAIS
アクラム・ラシード – 植野行雄(デニス)
猿渡隆司 – 田中隆三
岸谷利雄 – みのすけ
漆原琢磨 – 勝矢
国吉博和 – 音尾琢真
栗林健司 – 青木崇高
小坂亮太 – 中村倫也
加賀谷力 – 木下隆行(TKO)
常見裕樹 – 長田成哉
柔道部監督 – 高阪剛
田里由貴 – 矢吹春奈
廣田敏子 – 瀧内公美
村井定夫 – ピエール瀧
黒岩勝典 – 中村獅童
綾野剛が非常に光っていました。かっこよくて怖くて、でも悲しくて・・・素晴らしい怪演だったと思います。なんと役作りの為に10キロ太ったそうですよw
※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。
感想
- 伊丹十三を彷彿とさせるドタバタ感
- コメディなのに震えるストーリー
- 綾野剛主演の最高傑作
オープニングに見える伊丹の香り
この映画は実際に起きた稲葉事件という警察の不正を描いている。
しかもそこらのクライム映画じゃない・・・チャカ、シャブ、ロシアンマフィアにヤクザと反社会的なものがうじゃうじゃ出てくる。だからストーリー自体は非常に重く考えさせられるものになっているんだけど、これをケラケラ笑いながら観る事が出来てしまうというのが素晴らしい。
僕は今作品のオープニングで非常に懐かしさを感じたと同時に「これはコメディを作ったのかな」と思った。というのもオープニングでかかってる音楽が、日本の誇るレジェンド監督伊丹十三を彷彿とさせるんだよね。シリアスとコミカルが秀逸なバランスで共存する伊丹作品・・・昔はよくテレビでもやってたんだけど、今はコンプラ的に無理なのかなw
観た事無い人にザックリ説明すると、伊丹作品の特徴とはストーリーはドタバタする人間模様を描き、ヤクザモノなんだけどコメディで、登場人物がいちいち面白いキャラクターばかり出てくる喜劇映画だ。まさに今作品はそれを世襲したかのような映画になっている。
綾野剛演じる主人公・諸星を筆頭にピエール瀧の村井や、中村獅童の黒岩、そして仲間であるラシードと太郎も本当に面白いキャラクターで、演技も最高だった。特に綾野剛は前半の押忍押忍言ってるザ・体育会系の柔道バカ感も良かったし、ギラついたヤクザのように変化していってからの脳が完全に焼き切れたような後半の悲壮感・・・全て絵になっていた。かっこよく、ダサく、悲しく、そして笑えた。
こんな奴いるかよ!いたら怖えよw
と、言いたくなる人生のキャラクターだが、これが本当にいたんだから恐ろしいもんだよね。
この映画は伊丹作品のようなテンポの良いコメディのように仕上がっているが、根底に実話というリアリティがあるからこそ、非常にシリアスで怖い雰囲気が常に充満している。笑っちゃいけないような話なのに笑えちゃう。そんな白石監督の素晴らしいバランス感覚とセンスが光った映画だと思う。
警察の会話とは思えないやり取りとシーン
この映画はセリフ回しが非常に面白かった。
銃器の取り締まりが強化されるという事で、北海道県警は血眼になってチャカの検挙に勤しむが、真面目に捜査なんかしていても見つかるはずもないので、諸星達は検挙数を稼ぐ為にあの手この手でチャカをかき集める。その中で北海道県警のヤクザみたいな刑事達が話す内容は最高にシュールだ。
「諸星、10丁くらい一気にいけねえか?」
「内地にいる知り合いのヤクザなら良心的な値段で売ってくれるはずです」
終いにはロシアに行って仕入れてくる計画までwこれが警察署内で繰り広げられてる会話というだけで面白い。モデルとなった稲葉事件の当事者達が本当にこんな会話をしていたかはわからないけど、想像すると笑えない話だけど笑えてしまうよね。
北海道県警がチャカを集めている事に躍起になっていると知った本物のヤクザ達は、足元を見て倍の値段を吹っ掛け始める。そのせいで首が回らなくなってきた諸星達は、アジトにて神妙な面持ちでイカれた会話をし始める。
「チャカ買う為にシャブさばくか」
「でもそれ犯罪だろうがよ」
「やろうよ!金さえあれば俺達ももっと頑張れるよ!」
いやいやww本末転倒ともまた違う・・・なんだろう、この頭のおかしい会話wでも登場人物達は真剣なんだよね。繰り返しになるけど、今作品はこのシリアスとコミカルのバランスが本当に秀逸だった。
綾野剛の怪演は過去最高
綾野剛・・・彼は決して演技が上手なわけじゃないと思う。
それに俗にいうイケメンというわけでもない。でも他の同世代の俳優が持っていない存在感と雰囲気があるよね。今作品の諸星というキャラクターは非常にフィットしていたように思う。表面上はやんちゃで怖いチンピラ兄ちゃんというキャラクターで包んでいるけど、内面には底知れない闇があり、純粋すぎるが故、堕ちきった時の悲しさ・・・綾野剛にしか演じる事が出来ないと言える程、彼の良さがかなり出ていた。
しかも役作りの為に10キロも太ったり、顔にお酒を塗り込んでむくませたりと相当無理をしたそうで、その努力がスクリーンからしっかり伝わってきていたように思う。
新宿スワンでの白鳥というキャラクターは、個人的に綾野剛の良さを殺していたように感じたが、今作品の諸星は最高にかっこいい綾野剛を演出していた。どことなく渡部篤郎感があり、浅野忠信感があり、何よりも松田優作感があったハイブリッド俳優・綾野剛・・・50代60代と年を重ねていったら日本一渋いバイプレイヤーになりそうだなあw特に後半の綾野剛はその未来を感じさせるから絶対1度は観た方がいい。
その後半からは段々とコミカルなテンポから、シリアスに寄せたクライマックスへとつなっていくんだけど、不思議と観終わった後に爽快感みたいなものがある。主題歌のスカパラと横山剣の軽い歌声のおかげもあるけど、その選曲も含め監督白石和彌の手腕だと言いたい。
怖くて笑えて考えさせられる、最高のエンターテイメント映画・・・面白かったわ。
評価、視聴方法
邦画の未来が楽しみになる監督・白石和彌
これは僕の個人的な感覚でしかないんですが、冷たい熱帯魚などの園子温や、告白などの中島哲也は次世代の監督ってイメージがあるんですけど、白石和彌という人は深作欣二や伊丹十三のような激動の昭和の香りがする最後の監督のように感じるんですよね。
骨組みがグラついていない、どっしりとした映画というか・・・一言で言えば見応えがあるんです。新しい事をしない古いセンスと言えば、そうなのかもしれませんが、無くなってほしくない古典でもあるんです。
僕は世界で戦える日本映画って下手にハリウッドのモノマネみたいな作品じゃなくて、白石和彌監督が作るような飛び道具一切無しの骨太な作品じゃないかと思います。
こういう素晴らしい監督の作品は、つい「新作早く!次はどんなの撮るの?」と求めてしまうんですけど、どうか無理をせず、これからも最高の映画人でいて欲しいものです。
白石監督、最高!
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では、良き映画の時間をお過ごしください。