1979年公開。実際にあった連続殺人事件が基になる今村昌平監督の作品。
今作品は何とも胸糞悪くなったり、主人公の行動の意味がわからなかったり、タイトルの意味がピンとこなかったり・・・と観た後にモヤモヤする人が多いようですので、そこら辺も解説していこうと思います。ちなみに映画作品としてはもちろん面白いのですが、何よりも俳優陣の演技が素晴らしいです。演技と思えない程のリアリズムは一見の価値がありますよ!
本記事ではあらすじ、キャスト・スタッフ情報の他に、個人的な感想、視聴方法なども記載しています。
もくじ
作品情報
第3回日本アカデミー賞での受賞一覧はこちら↓
- 最優秀作品賞
- 最優秀監督賞 – 今村昌平
- 最優秀脚本賞 – 馬場当
- 最優秀助演女優賞 – 小川真由美
- 最優秀撮影賞 – 姫田真左久
原作は佐木隆三の小説です。当時は映画化権を巡って色々ともめたそうですね。結果、今村監督がメガホンをとりアカデミー作品賞の他にも、数多の映画賞を受賞しています。
あらすじ
九州、浜松、東京で五人を殺した上、史上最大と言われる重要指名手配の公開捜査をかいくぐって、時には大学教授、時には弁護士と称して詐欺と女性関係に明け暮れる犯罪王・榎津巌(えのきづ いわお)。彼がどうしてこのような人間になってしまったのか、何が原因だったのか・・・。罪なき人達を殺し、逃げ回り、巌はどこへ向かうのか?実際に起きた西口彰事件を基に描かれる1人の男の物語。
キャスト、スタッフ
原作 – 佐木隆三
監督 – 今村昌平
脚本 – 馬場当、池端俊策
撮影 – 姫田真佐久
榎津巌 – 緒形拳
榎津鎮雄 – 三國連太郎
榎津かよ – ミヤコ蝶々
榎津加津子 – 倍賞美津子
浅野ハル – 小川真由美
河井警部 – フランキー堺
吉野調査官 – 浜田寅彦
桑田警部補 – 園田裕久
他にも脇に火野正平や菅井きんなどが出演しています。昭和の名優だらけですね!
※ここからは若干ネタバレがあるのでご注意ください。
感想
- シンプルなクズの半生
- ドキュメンタリーのようなリアリティ
- ハルを殺した動機に人間性がある
元ネタは?圧倒的なリアリティで描いた殺人事件
元ネタは1963年~1964年に起きた西口彰事件という連続殺人事件。
西口彰は人を騙しては金をとり、人に取り込んでは殺して逃げる。得た金で博打をうってはまた人騙す・・・狂おしい程のクズだ。今作品はかなり忠実に描いており、主人公の榎津巌(えのきづ いわお)もまさにクズで凶悪だ。
お金が殺人の動機というのは往々にしてあるけど、大金というわけでもなく、その日暮らしの為に人を殺していったという部分にこの男の狂気がある。しかも巌は反省してないどころか、終始どこかふざけているというか・・・妙に明るいのだ。逃亡中に自殺を偽装するわ、弁護士と偽って詐欺で金をだまし取るわ、やりたい放題した挙句また人を殺し、気が付けば犠牲者は計5人という・・・一体何のために生きているのか。こんな人間とは絶対に関わりたくないと思うだろうけど、これがまた一見普通なのが恐ろしい。
今作品のすごいところは今村監督の持ち味であるリアリティにある。中でも驚いたのは、旅館での殺人シーンが実際に西口彰が殺人をした旅館で撮影されたという点・・・旅館の遺族にどう説明したのか、当時の世間はどう感じたのか等と色々気になるけど、何にしても監督・今村昌平をはじめ制作陣の意気込みは感じざるを得ない。
ただリアリティのある映画というのは、面白いかもしれないが題材がクズによる殺人事件となると少し引っかかるのも事実で、映画化権でもめた当時の東映側は「連続殺人犯の映画はヒットしない」と怒って反対したそうだ。事実を基にした殺人事件の映画というのは今なら当たり前にあるジャンルの1つだけど、正直なところ被害者の感情をないがしろにしてしまう可能性がある作品という事は制作側も観る側も頭に入れておくべきじゃないかなと個人的には思う。
ただ、実際の殺人事件をこうしてリアルに描いた理由は・・・今作品のタイトルの真意に繋がるのだ。
「復讐は我にあり」の真意
僕はどんな映画でも観終わった後にタイトルを確認する。
というのもタイトルを見直した時に「なるほどなー!」としっくりくる事が名作にはよくあるのだ。しかし今作品はタイトルを見てもよくわからなかった。そこで「復讐は我にあり」という言葉自体を調べてみたら、すごく納得!原作の佐木先生の真意が理解できた。
「愛する者よ、自ら復讐すな、ただ神の怒に任せまつれ。 録して『主いひ給ふ、復讐するは我にあり、我これに報いん』」(新約聖書(ローマ人への手紙・第12章第19節)より)
なるほど、聖書からの引用だったのか。引用文の「我」っていうのは神の事。ざっくり言えば「悪い奴がいても報復するな、それは神がやる」って事なんだね。どうだろう?これであなたも「なるほどなー!」となったんじゃ?
目先の金の為に人を殺しまわり、ギャンブルと女に明け暮れ、反省もせず場当たり的に生きたクズ男・榎津巌・・・映画だとわかっていてもリアリティのある作風に緒形拳の迫力抜群の演技・・・正直むかついてモヤモヤした2時間だったけど、これでストンと納得してしまった。このクズ野郎を許せないという感情こそ正解だったのだ。こんな奴はもはや人や法律、国家が裁けるレベルではなく、神様に委ねるしかないって事。
本当にその通りだよね。逆に考えていくと、映画を観終わった人に面白いとかつまらないとかよりも、ただただむかつく主人公だったと思わせたなら、制作陣と役者、そして原作自体が素晴らしかったという証明なんじゃないかな。
でも・・・こんな簡単に人を殺す主人公だけど、サイコパスとか快楽殺人者というわけではない。それは最後の殺人として描かれる愛人を手にかけたシーンにある。
最後の殺人に榎津巌の人間性を見る
最後の愛人・ハルを殺した直後、巌は「ありがとな・・・」と呟く。
他の殺人では目先の金や場当たり的に殺しているのに対し、ハルの殺人には明らかに違う動機があった。ハルはつまらなく辛い日々の現実に嫌気がさしていたからこそ、非現実的な巌に惹かれてしまった。彼女にとっては現実逃避に近いものがあったんじゃないかと思う。連続殺人犯だと知っても受け入れてしまうハルと、もはや捕まるのは時間の問題である巌・・・僕には最後のハル殺しが無理心中に見えた。
では何故「ありがとな・・・」と言ったのか?
人間とは元来醜悪な狂気を持っている。それを理性で抑えるところに美徳があり、その理性とは社会で育まれる。社会から離反して生きてきた榎津巌は、理性を得られず代わりに狂気をまといクズになってしまった・・・そんな悪人・榎津巌を1人の男として唯一愛してくれたハルを、無理心中だろうが殺した巌のどこに人間性があるだろうか。
そう言いたくなるが、巌がハルを殺した後に「ありがとな・・・」と言ったのは、自分によくしてくれたハルへの感謝の気持ちがあったという事・・・それはつまりサイコパスではなかったという証明であり、クズで凶悪で本当にどうしようもないが・・・哀しいかな、彼も人間だったという事だ。
こんな奴、神様でも裁けるんだろうか?
評価
今は亡き昭和の名優たちは必見
まるでドキュメンタリーのような完成度の高いサスペンスですね。
ここまでリアリティを追及したところに、実際の犯人である西口彰に対する制作側の怒りを感じますし、今村監督ならではだったと思います。終始むかついて観ていたのに面白いと思える映画って稀だし不思議なものですよねw
あまりにも身勝手な生き方をした榎津巌ですが、僕は恋人を作っては無理心中を繰り返した日本史上きってのダメ男、太宰治を思い出しました。ただ太宰ともまた違いますよね・・・太宰は今でいうメンヘラみたいな人ですが、榎津はどちらかというと陽キャというかw何にしても自己中心的でクズで凶悪・・・こんな危ない人とは関わりたくないと思わせる主人公でした。
誤解してほしくないのは、散々主人公の榎津巌をぶった切ってますが、それ位むかつかせるキャラクターというだけで、1本の映画としてはヒューマニズムを皮肉ったような意外と奥の深い名作だと思ってますからね!今は亡き名優が沢山出てきますので、一見の価値あります。
緒形拳は日本史上でも名優中の名優・・・めっちゃくちゃかっこいいですよ!
「復讐するは我にあり」の視聴方法
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実際に起きた凶悪な殺人事件をモチーフにした映画なら葛城事件もオススメです。かなり・・・胸糞ですよ!
では、良き映画の時間をお過ごしください。