2016年公開、李相日監督による独特な温度とスピードで描かれる完成度の高い名作です。
人間の感情・怒りをテーマにして3つのエピソードで構成された作品なんですが、サスペンスのハラハラ感を保ちつつ最後は泣けてしまいました。プロパガンダ映画と言う人もいますが、そんな事ないので是非1度観てみる事をオススメします。
本記事ではあらすじ、キャスト情報などの他に感想や視聴方法も記載しています。
もくじ
作品情報
- 最優秀助演男優賞 – 妻夫木聡
- 優秀作品賞
- 優秀監督賞 – 李相日
- 優秀脚本賞 – 李相日
- 優秀主演女優賞 – 宮崎あおい
- 優秀助演男優賞 – 森山未來
- 優秀助演女優賞 – 広瀬すず
- 新人俳優賞 – 佐久本宝
- 優秀撮影賞 – 笠松則通
- 優秀照明賞 – 中村裕樹
- 優秀美術賞 – 都築雄二、坂原文子
- 優秀録音賞 – 白取貢
- 優秀編集賞 – 今井剛
日本アカデミー賞も数多く受賞していますね。
しかし、この年の最優秀作品賞はシン・ゴジラでした・・・。正直、個人的には今作品の方が好きですね!
あらすじ
ある夏の暑い日に八王子で夫婦殺人事件が発生。現場には『怒』の血文字が残されており、犯人は行方をくらました。事件から1年後・・・千葉、東京、沖縄に素性の知れない3人の男が現れたが、彼らは警察が新たに公開した顔写真に似ていた。背景のわからない3人の真実とは?一体誰が本当の犯人なのか?
キャスト、スタッフ
原作 – 吉田修一
監督・脚本 – 李相日
音楽 – 坂本龍一
千葉編
槙 洋平 – 渡辺謙
槙 愛子 – 宮崎あおい
田代 哲也 – 松山ケンイチ
明日香 – 池脇千鶴
東京編
藤田 優馬 – 妻夫木聡
大西 直人 – 綾野剛
藤田 貴子 – 原日出子
薫 – 高畑充希
沖縄編
田中 信吾 – 森山未來
小宮山 泉 – 広瀬すず
知念 辰哉 – 佐久本宝
その他
南條 邦久 – ピエール瀧
北見 壮介 – 三浦貴大
早川 – 水澤紳吾
吉田修一 x 李相日・・・この2人は悪人でもタッグを組んでます。
この映画は全員素晴らしい演技でした・・・甲乙つけがたすぎます!坂本龍一の音楽も最高ですよ~
※ここからはネタバレがあるのでご注意ください。
感想
- 冒頭のつかみが素晴らしい!
- プロパガンダ映画として観ないで!もったいないよ。
- 素晴らしい役者陣の演技力
サスペンスで引き込んで人間ドラマに落とす
李相日監督すごいわ。
この方の映画はテンポがゆっくりしてるのに、しっかりと後半ギアがあがってきて観終わった後は必ず作品について考えさせられてしまう。フラガールや悪人も面白かったけど、これは別格で面白いと感じた。今作品は交わらない3つのオムニバスストーリーになっているが、それぞれが秀逸なヒューマンドラマになってるし、逆にこの3つが無いと成立しないものになっている。そもそも原作自体が素晴らしいからなんだけど、それを映像化し綺麗にピリオドをうったのは監督の手腕だろう。
まず冒頭、閑静な住宅街でおきたある夫婦の殺人事件から始まる。その凄惨なシーンは観る者の心をいきなりえぐり、この映画は重い映画なんだとしっかり認識させてくる。そしてすぐに登場人物たちの日常を丁寧に描き出すが、誰かが犯人かもしれないという謎解き要素とセブンのようなサスペンスの雰囲気もあいまって目に見えない恐怖が充満する。
この秀逸なつかみから、今度は交わらない3つのヒューマンドラマがゆっくりと進行するんだけど、千葉編は松山ケンイチ、東京編は綾野剛、そして沖縄編には森山未來が登場して、各ストーリーのキーマンとして盛り上げていく。言ってしまえば、この3人の誰かが殺人事件の犯人なのだが、その犯人かもしれない男とごく普通に関わっていく人達を僕ら観客が客観的に観ていくわけだ。もう、それはそれは観ていてソワソワする。
他サイトのレビューをみてみるとミスリードが強すぎると言われていた。確かに少し無理がある設定もあったりするんだけど、そもそもこの作品は「犯人が誰なのか!?」を楽しませようとしてるわけではなくて、あくまでもヒューマンドラマに軸があるんだ。
もし仲の良い身近な人間が殺人犯だったら・・・そしてその人が自分にとって大切な人だったら?
どう思う?どうする?考えただけでゾッとする。その恐怖は、もはやホラー映画とも言えるような雰囲気さえあるんだけど、中盤からは怖さを保ちつつ、本質が段々と変わってくる。
プロパガンダ映画だと思わず、内容の本質を観るべき
今作品をプロパガンダ映画だという人もいる。
沖縄の米軍基地問題などの社会問題を取り上げている事、監督の李相日が在日朝鮮人3世だという事を踏まえてなのだろう。
確かに印象操作の為に作られる映画もあるのは否定しないけど、僕は基本的に映画以外でもエンターテイメントの世界で人種、民族の差別という問題をあーだこーだ言うのはどうかと思う。そういうのは政治の土俵でがっぷり四つでやり合えばいい。
作中で米兵による日本人女性のレイプ問題を描いているけど、こうした事件は確かに何度も起きているし米兵が基地に逃げ込んだらどうしようもないのも事実だよね。レイブされてしまった被害者や、その家族、友人が計り知れない怒りを抱くのも当然の話だ。
今作品はこうした人間の感情・怒りを様々な形で具現化している。実際、不治の病を持っている人、理不尽な上司のパワハラ、友達に裏切られたなど大小あれど、誰だってどうしようもない怒りを抱く事はあるよね。こうした怒りの感情って、我慢したり忘れようとしたり、誰かに癒してもらったりと・・・人それぞれ様々な形で解消している事だろう。
しかし、この映画の真犯人はある事に耐えられず、抱いた怒りを抑えられなくなってしまったんだ。
人を信じる事の難しさ
真犯人が抱いた怒りとは、自分自身。
彼はちょっとしたきっかけで人の優しさに触れてしまった。そして、もしかしたら今度こそ相手を信じたり、信じてもらえたりできるかも・・・と、よぎってしまう自分自身にイライラしていたんじゃないかと思う。彼は最後、ある人物に殺されてしまうが僕には自殺のようにも見えた。社会に溶け込めない自分にどうしようもない怒りを覚え、その怒りを抑えられない自分に疲れ果てていたのかもしれないね。
もちろん人を殺してしまったという罪に同情の余地はないが、どうしてもこの犯人の心情を理解してあげたくなってしまったよ。他の登場人物もレイブされた怒り、人に裏切られた怒り、信じてあげられなかった自分への怒り・・・と、様々な怒りの感情を持っていたが、自分を信じる事ができない怒りというのは絶望に近い気もする。俗世や人間関係を歪んだ目で見続けてきた彼には、全て薄っぺらく映ってしまっていたのかもしれない。
そして最後、広瀬すずがどうしようもない怒りを糧に海に向かって叫んでエンドロールを迎えるんだけど、この時の広瀬すずの表情は何か吹っ切れたような清々しさを感じさせた。大概の事は怒ったって解決しないが、時として人生のガソリンにもなるという事なのだろう。
個人的には妻夫木聡の信じてあげられなかった怒りのエピソードはたまんなかったね・・・演技うますぎ。
それとエンドロール手前で初めて「怒り」という映画のタイトルが映し出されたが、最後に持ってこられた事で余計考えさせられてしまった・・・。
監督、意地が悪いよ!(誉め言葉)
評価、視聴方法
全役者、素晴らしい演技だった
近年稀にみる難しい映画だと思いました。
内容が難しいのではなく、テーマが難しいという意味です。映画自体は非常にわかりやすいですからね。
これほどまでに複雑な心情を描いた李相日監督は本当に素晴らしいと思います。細かい心理描写や色々な人間の距離感など、本当によくできているヒューマンドラマでした。3つのエピソードを同時進行させつつ怒りというテーマを描いた1つの物語・・・構成と脚本がしっかりしていればこそですね!それと出演者全員が尋常ではない演技力だったので、それだけでも一見の価値があると思いますよ。
シン・ゴジラも面白いっちゃ面白かったけど、個人的にはやっぱり最優秀作品賞はこっちだったと確信しています。
「怒り」の視聴方法
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今作品のような重厚なヒューマンドラマが観たい方は、三浦友和主演の葛城事件なんかもいいかもしれません。
では、良き映画の時間をお過ごしください。